転生社畜聖女は前世の記憶とチート魔力を駆使して破産寸前の隣国を再建します 〜『キミは命の恩人だ』と、女に興味がなかった王太子がグイグイ口説いてくるのですが、跪かないでくれませんか?〜

よどら文鳥

第1話

「無能な聖女ヴィレーナは、本日付で解雇とする」


 冷酷な目で国王陛下は私を睨みつけてきました。

 神様から授かった力ですら無能と言われてしまい反論したい気持ちはあります。

 しかし、国で一番権力のあるお方に対して文句は言えないため、おとなしく従うしかありません。

 たとえ国からは解雇されても神様からの指名は全うすることはできるのだから。


「ゴルザーフ陛下のお望みとあらば承知いたしました。それでは王宮から出ていきます」

「バカなことを言うな。今まで与えてきた給金分はキッチリと精算してもらうぞ。息絶えるまで働いてもらうからな」

「はい?」


 いくら国王陛下とはいえ、言っている意味が理解できません。

 このままでは、二度目の人生も社畜モード突入です。

 すでに社畜のような生活ではありましたが、前世と比べれば幾分マシな毎日でした。

 ただし、タダ働きは嫌です。


「前国王陛下からは、聖なる力を毎日放出する条件で王宮に滞在する許可をいただけました。ブブルル王国の主要箇所にモンスターの誕生をさせない結界を作るという契約になっていたはずです。それに加え、ゴルザーフ陛下の指示どおり、王宮で使用人業務もやっていました。なにか至らない点でもありましたか?」


 あー、反論してしまいました。

 国家反逆罪とかになって牢獄行きになってしまうかヒヤヒヤです。

 しかしゴルザーフ陛下は私に対して、『無駄な足掻きだ』といった表情で嘲笑ってきます。

 周りにいる護衛や執事長もクスクスと笑っていて……。


「父上はお亡くなりになった。過去の契約など無効だ。そもそも、ヴィレーナ……、そなたが聖女というのは実は嘘なのだろう? 魔法の適性すらないではないか」


「私には魔法の適性はありません。しかし、魔法と聖なる力は異なるものであって――」

「言い訳は聞かぬ。実際のところ父上世代では聖女などいなくともモンスターの出現などごく稀であり、騎士隊でどうにでも対処はできたと聞いている。つまり、無駄な金をヴィレーナに支払ってしまったということだ」

「…………」


 せっかく異世界転生というワクワクするようなイベントを経験できたと思っていたのに、転生前と同じ運命になってしまうのですね。


 一度目の人生では、高校卒業後の就職先で週に六十時間労働の日々。

 唯一の楽しみはファンタジー系のラノベ小説を読むことでした。

 魔法が使えたら良いのになぁと、よく妄想するくらいどハマりでしたね。

 しかし、ついに読書もできなくなるくらいの労働になっていき、ついに過労死。


 成人直前で人生が終わったかと思ったら、神様のおかげで新しい肉体、当時は十四歳という設定で転生させてもらいました。

 髪色は天然色の金でサラサラストレート。顔も転生前とは比べ物にならないくらい可愛いし(おっぱいは縮んだ)多少の名残惜しさはあったもののすぐに慣れました。

 そのときに与えられた聖なる力。


 この力を国中に解放して、どこからともなく現れるモンスターの出現を食い止めることが神様からの使命でした。

 当時は、まるでラノベの世界だとウキウキワクワク。


 王都から少し離れた平原に転生し、すぐに都合良く先代の国王陛下に拾っていただきました。

 当時の陛下は私に聖なる力があることを知っていたようで、毎朝聖なる力を放出して国を安全にしてほしいと頼まれ、王宮で過ごす環境になりました。


 ただし聖女としてだけでなく、お偉い様たちの身の回りのお世話をして、王宮内の掃除をせっせとこなすことも求められましたけどね。

 主にゴルザーフから。


 休みはありませんでしたが、身体が疲れ切ることもなかったですし、ラノベ世界を堪能できていたため張り切っていました。

 決してリッチな生活を送れるわけではなかったものの、王様たちが残された食事を食べることができたので食には困らなかったのです。

 唯一残念なことは、聖女として聖なる力は使えるものの、私には魔法が使えませんでした。


 あれから二年経ち、十六になった私は転生前と変わらないような生活をしています。


 そんな今までの人生を思い出しながら無言でいたらゴルザーフ陛下が、『ドンッ!!』と勢いよく机を叩きました。


「なにも言わぬということは認めるのだな?」


 ここで反論して国家反逆罪などで牢獄行きや処刑されるよりは、素直に従ったほうが良いでしょう。

 神様から授かった聖なる力のことだけは、最後まで力はあると貫き通しましたが、聖女以外の仕事のできが悪いことに関しては認めました。

 周りの使用人たちは長年仕える超ベテラン。

 対して私は素人のペーペーですからね。


「せめて、寝床と食事だけは今までどおりいただけませんか……?」

「使える道具が死んでは困るからな。認める。ただし、寝床は今までの部屋は使わせぬ。今後は使わなくなった物置き部屋を使え」

「かしこまりました」


 窓もなく、日中も暗くてなおかつホコリだらけのあの部屋ですか……。

 まぁ綺麗に掃除すればなんとかなるでしょう。

 こうして私の無償社畜生活が始まりました。

 神様からの指名があるため、聖なる力は今までどおり使うことにします。


 ♢


 ブブルル王国に転生するとき、神様が教えてくれたのです。

『この異世界は我々(神様たち)の手違いでモンスターが勝手に誕生してしまう世界にしてしまった』と言っていました。

 基本的に神様は地上世界を見守るだけで手出しはしないそうです。

 ただ、罪滅ぼしとして、今私がいる世界には定期的に聖女を送り込んでいるのだと。

 今までは平和だった場所だけれど、今後モンスターがより出現しやすくなる場所になるようで、私は配属されたのです。

 魔法も存在する世界で、私にも魔法が使えるのかなぁとワクワクしましたが、残念ながら叶いませんでした。


 王宮の使用人たちは水魔法で掃除をせっせとこなしますが、私はそうはいかず、水を汲んで掃除をします。

 今もタダ働きで客室の掃除をしているところです。


「おい、ゴミ聖女。このゴミはなんだ!?」


 執事長と侍女が入ってきて、いきなり執事長の怒声がとんできます。

 彼が指差した場所は、私がピカピカに磨いたばかりの床です。

 こんなところに固まったホコリなどなかったはずですが。

 これは執事長による嫌がらせでしょう。


「あら、わたくしが後始末をしてあげますわ。……おっとっと!!」

「きゃ!」


 侍女が持っていたバケツの水が、私にかけられてしまいました。


「あららら……ごめんなさいねぇ~。それ、用足し場で使った水なのでばっちーです。床が用足し場になってしまいましたね。これもついでに拭いといてください」

「うぅぅぅぅ……汚い……」

「あなたがいけないのですよ。しっかり掃除しないから。まぁこれでより一層綺麗に掃除ができるでしょう♪」


 聖女としての仕事を解雇されてから、前よりも私へのあたりが厳しくなりました。

 毎日このようなことばかり起きていて、正直辛いです。

 それでも神様からいただいた生きるチャンスは大事にしたいので、どんな過酷でも耐えてみせます。

 念願の異世界ライフだし、楽しいことだってありますから。……きっと。


 しかし、私への仕打ちはどんどんエスカレートしていき、ついに精神的に限界が近づいてきました。

 過労ではないと思いますが、掃除をしている最中に急に意識が朦朧としてきて、その場に倒れてしまいました。


 あぁ、これは一度目の過労死のときと感覚が似ていますね。


 ごめんなさい、神様。

 せっかく与えてくださったチャンスを無駄にしてしまって。

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