洞窟の少年

 四本足の流麗な姿態が駆ける。軽やかに力強く。たてがみと尻尾はさらさらとしている。


「ウマ!」


 今度も四本足。しかしもこもことした俵型で、地面の草を食んでいる。走っても疾走感はない。


「ヒツジ!」


 次は二本足。背はしゃんと伸び、両手をぶらぶら交互に振って歩いている。棒を持ち何やら突いている。


「ニンゲン!」


 かちり。体が自由に動く。首も回せるようになった。目をはっと見開く。


 めらめらと揺れるよくわからないものがあった。手をかざせば、反対に同じ形が出来上がる。手を伸ばすとすぐ引っ込めたくなるが、思い切って手を入れようとすると背中に小石が投げつけられた。


 振り向いたその先にはまたよくわからないものが映り、形は右に尖っている。しげしげと見つめ続ける。右に小石が転がる音がした。連続している。音を追う。


 足を進めていくと、目がどんどん痛くなる。それも極限に達した。数秒経ち、痛みが逓減を始める。


「お!いたいた!ほんとにここにいるんだ!」


「アレ、ナニ?」


 目を細めつつ、上の点を指す。


「ん?あれは太陽」


「タイヨウ!タイヨウ!アレホシイ!」


 ピョンピョン飛び跳ねてとても嬉しそうだ。


「うーん。あれはこの世界をあまねく照らして温める大事な光源だからね。それにとても手の届く範囲じゃないし。無理なんじゃない?」


 一頻りはしゃいで音のする方に向き直った。


 目の前のモノは腰回りが細く胸には丸があるが、二本足で背はしゃんと伸び腕を組み込み首を傾けている。


「ニンゲン?」


「そ。人間だよ」


「チガウ?」


「に・ん・げ・んだよ!」


「デモ、チガウ」


 頭部を触る。


「うぇ!?ちょっとなに!?」


「ヤッパリニンゲンジャナイ」


 辺りを見回してニンゲンを見つけたらしい。地面を指す。


「コレ!コレガニンゲン!」


 ニンゲン擬きが手を軽く振る。


「それも間違いじゃないけど、私も人間なの」


「ワタシモニンゲン?」


「人間」


 なおも納得のいかないように首を揺らす。


「あーもう!!なんもわかってないじゃん。前のはそんな手がかからなかったって言ってなかった!?」


 ニンゲン擬きは急に腕を振り下ろし、ニンゲンを指さす。


「これは人間の影!」


 次いで、自らも指さす。


「これが人間!わかった!?」


「ワカラナイ。ナンデ?」


「なんでも何もなくそうなの!これから私の言うことはまずは飲み込むこと!いいね!?しないとデコピンだから!」


「デコピン?」


 頭の上の方がずきずきする。


「イヤダ」


「いやならまず言うこと聞く」


「ワカッタ」


「じゃ、付いてきて」


 デコピンの後、腕を引っ張られた。

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