ビー玉の中の青空

風叢 華月

プロローグ

二人の小さな物語

 目が覚めると、灰の空に白い雲が流れていた。

 爽やかな旋風が頬を優しく撫で、黒い髪はふわりと膨らんだ。

 風に流された新緑の香りは真っ白な鼻先をそっとくすぐり、耳の奥で小さく木霊した。

「……ここはどこだろう?」

 少女は薄桃色の唇を静かに震わせた。少女は上体を持ち上げるとあたりをゆっくりと見渡し、その瞳に驚きを浮かべた。

「なに…ここ?」

 少女の暗い瞳には灰と白、そして黒だけに彩られたモノクロの世界が広がっていた。

「……誰か、探さないと」

 少女はその華奢な足を必死に動かし、歩みを進めた。

 真っ白な額に小さな潮だまりを作った少女は、休息をとるために近くに見えた岩に歩を進め、ゆっくりと背中を預けた。


「あら、あなただぁれ?」

 静かに目を閉じ、休息をとっていた少女は、近くから突然かけられた言葉にビクっと肩を震わせた。そして、おもむろに声の主のほうに視線を送った。そこには、光を全て飲み込んだようなワンピースを黒光りする長髪と共にゆったりと風になびかせた少女が佇んでいた。

「うん?いつまで私のこと見てるのよ。あなたは誰かって聞いてるんだけど?」

「あっ…ごめんなさい。私は…」

 色を失った春色の風が二人の間にサッと吹き抜けた。

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