魔法の処方箋〜魔女のヘビ先生と学習帳を持った弟子〜

アヌビス兄さん

第1話 昔の学習帳の通りブランコに乗ったらそこは異世界だった

 校内かくれんぼに勤しんでいる雪村日向11歳は普段使われていない教室が開いていたのでそこに忍び込んだ。かくれんぼ中だというのに、普段は入れない教室への興味の方が強く普段の教室と対して変わらないのに、教室内を探索する。

 そして教壇の中に一冊の学習帳が入っていた。それは表紙に蝶々の写真が印字された古い古い自由帳。


「なんだこれ? さんぱちぶんしょ?」


 そう、日向が読み上げたとおり、その学習帳は自由帳と書かれた部分を黒いマジックでなぞられて消されており、かわりにその上に特徴的な丸い字で“さんぱちぶんしょ”と書かれていた。中を開いてみると、


「うへぇ……なんかいっぱい書いてる。面白いな」


 それを書いたのはどうやら女の子らしい。されど、なんだか色々かいてある。物語の設定なのかどこかの街? 国? 名前、そして魔法。先生。上手なイラストでその世界の生き物について事細やかに書かれている。一通り読んだ中で、一番最初のページに書かれている。


“いかいくぐり”

・校庭にある左から二番目のぶらんこ、もしかしたら他のでもいけるかもしれないけど、アタシはこのぶらんこを使ったから多分、ここ。ここで一回転するくらいぶらんこを漕いでジャンプ。その際にゴアワって言ったらアルクエイシアにいけた。


 という方法に日向は興味を持った。何故ならこの“さんぱちぶんしょ”を書いた女の子はぶらんこで180度以上も漕ぐ事ができたらしい。男の子である日向でもそこまで高くぶらんこを漕いだ事がない。この“いかいくぐり”という方法はぶらんこで一回転するくらい高く、高く漕いだところで飛び立つ。その際“ゴアワ”という魔法の呪文を唱えるのだという。すると、このノートに書かれている世界に行く事ができる。


 さすがに日向もそんな事は信じてはいないが、どうにもこのノートの女の子にぶらんこの飛距離が負けている事が納得いかず、かくれんぼの最中だというに校庭に向かった。


「左から二番目のブランコだな」


 ブランコは得意だ。小さい頃からよく色んな乗り方をした。立ちこぎ、座りこぎ、お腹でバランスをささえてウルトラマンこぎ、チェーンを巻いて高くして乗る。でも一つ、一周近くまでは漕いだ事はない。日向は重り代わりになるから、ランドセルを背負い、その中に“さんぱちぶんしょ”を入れてブランコを漕ぐと、ぐんぐんスピードが出る。体育は好きだし、得意な方だ。でもさすがに180度を超えてくると少し怖い。


 クスクス……


 でもそう思うとなんだかあのノートの女の子に笑われている気がした。なにくそと日向はブランコを漕いで180度を超えた高いところで飛んだ。

 そして……


「ごあわぁああ!」


 凄い、夕焼けが綺麗だ。やりきった。地面を見るとかくれんぼをしていた友達たち。日向なにやってんだよーとか言っているきぃちも、学校に持ってきたらダメなゲーム機を持ってきている蓮も、男の中にいつも混ざって遊んでいるあおいも、みんなが見ている前で、日向はぱっと消えた。


 ドサっと地面に落ちた。


「てててて……みんな、ごめん面白い物みつけてさぁ……あれ?」

「ブクブクブクブク!」


 日向の落ちた先は学校の校庭じゃない。そして目の前には紫色をした巨大なザリガニ? なんだこれ? ザリガニは大きなハサミを日向に向けて振り下ろしてきた。


「やばっ!」


 逃げながら日向はスマートフォンでお母さんに連絡を……圏外。だったらとランドセルを前にして日向は“さんぱちぶんしょ”を取り出す。そのページをペラペラと捲ると襲ってきているザリガニについてイラスト付きで記載があった。


“ブクブクドラゴン”

・ドラゴンというかザリガニ、なんでも目の前にある物を食べようとする。ウケる!


 自分が餌にされると笑えない状況な日向は、“さんぱちぶんしょ”をペラペラと捲り、そこにこの状況を打開できそうな記載をみつける。

“ヘビ先生召喚魔法”

・ヘビ先生を呼び出す呪文。かもんかもんヘビ先生。

 それだけ、日向はなりふり構っていられないので、そこで叫んだ。


「カモン! カモン! ヘビ先生ぇえええ! うわぁああああ!」


 日向はザリガニのハサミに掴まれてしまった。万事休すだ。食べないでとか言っても全く通じない。そんな時、ザリガニの前に人影。


「西の大魔女ヘビリリス・セフィラムを呼ぶ者……ブクブクドラゴンか、ん? わっぱが私を呼んだのか? まぁいい、フィム・ラナ(雷よ)!」


 バチンと雷がザリガニの近くに落ちると驚いたザリガニはハサミから日向を落とす。そして逃げていく。西の大魔女と名乗る女性はつかつかと靴の音を鳴らしながら日向の前にやってくる。綺麗なお姉さんだ。とんがり帽子に黒いローブ。まさに魔女。


「あの助けてくれてありがとう」

「なぁに、礼には及ばない。私も久しぶりに元の姿に戻れたし……わっぱ、その手に持っている物は?」

「あぁ、これ? さんぱちぶんしょ?」

「こ。コヤシキ・グリモアぁあ! いるのか? あのアヤノが? 私を蛇の姿にしたまま元の世界に戻ったあんの悪ガキ!」

「うーん、アヤノちゃん? は知らないな。これ、教室で拾ったやつだから。お姉さんがヘビ先生?」


 落胆している大魔女は頷く、そしてボンとその姿を小さい黒いヘビに姿を変えた。驚いた日向に対して、


「アヤノがそう私を呼んでいたが、私はこの世界を魔法で支配しようとした西の大魔女だい! コヤシキグリモアがあるなら、わっぱ」

「日向。雪村日向だよ」

「なら日向。私の魔法を解く手伝いをしてもらうからな! 命の恩人だ! そのくらい付き合えよ!」

「えっと……うん、宜しくねヘビ先生」

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