第34話 VS オークキング
それは厄災だった。
オークキング。
禍々しいオーラを放ち、通天閣のように大きな魔物。
ソイツが歩くたびに地面を揺らす。
俺が見上げたオークキングは、醜悪な豚のような顔をして、汚い唾液を垂らしながらムシャムシャとナニカを食べていた。
何を食べていたのか?
白い鎧を着た騎士団である。
みんな勇ましい顔でオークキングの討伐に向かったのに、食べられた騎士団の顔は恐怖で歪んでいた。
むしゃくしゃとポテトチップスを食べるようにオークキングは人肉を貪っていた。
よく見ると歯の隙間に腸が挟まっている。
オークキングの口からこぼれ落ちた肉。それをオーク達が奪い合った。
俺達は強くなった。
もしかしたら倒せるかもしれない、と少しは思っていた。
でも全然である。
見ただけでわかる。
歯が立たない。
それどころか俺達が近づいたらいけない魔物だった。
俺は支配者のスキルで、庇護下であるクロスの隠蔽のスキルを使っていた。
オーク達は俺に気づいていない。
オークキングも俺に気づいていない。
それなのに嫌な汗が身体中を溢れ出す。
ココから早く逃げたい。
クロスを連れてココから逃げて、弟子達を連れて国に戻り、美子さんとネネちゃんを連れて、この国から逃げなくちゃ。
オークキングが来ないぐらい遠くへ遠くへ逃げなくちゃ。
でも時間が無かった。
厄災は、目の前なのだ。
俺は選択肢を間違えた。
ココで俺は死ぬ。
弟子達も死ぬ。
美子さんもネネちゃんも死ぬ。
俺は誰のことも守ってあげられなかった。
選択ミス。
オークキングを見上げて、俺は呆然としていた。
頭の中にはレベルが上がった事を知らせる女性のような機械音のような声が何度も聞こえていた。
だけど俺がいくら強くなってもオークキングを倒すことはできないだろう、と直感でわかった。
オークキングを倒せるのは選ばれし者の仕事なんだろう。
俺は選ばれた者ではなかった。
オークキングの足元にクロスが現れた。
彼は隠蔽でオークキングに近づき、不意打ちでスラッシュコンボを出したんだろう。
だけどオークキングは1ミリのダメージを受けていなかった。
本当にクロスはバカである。
オークキングを見てもなお、怖気づくことなく、戦いを挑むなんて。
本当にバカである。
オークキングが足元にいる肉に気づいた。
そしてクロスを拾い上げようとした。
このままでは彼は生きたまま食べられてしまう。
「プラントクローズ」
と俺は呟いた。
クロスの足元から木の根っこが飛び出し、彼をぐるぐる巻きにした。
クロスは根っこに巻かれてバタバタしている。
オークキングの腕から逃げるように、根っこに巻かれたクロスが俺の元へ来る。
オーク達がクロスを追いかけて来た。
「植物召喚、デボラフラワー」
俺は肉食の植物を召喚する。
肉食の植物がオークを食べる。
だけど植物は一匹ずつ食べていく。食べるスピードが遅い。
何体もデボラフラワーを召喚しようと思ったけど、一体しか召喚できない事に気づく。強いスキルには詳細に書かれていない制限があるのだ。
クロスを追いかけるオーク達。
俺の隠蔽の効果も消えたらしく、俺にもオーク達がヨダレを垂らしながら近づいて来ていた。
近くに来たクロス。
クロスに巻かれた根っこを解いた。
「バカ野郎」と俺が言う。
先生、とクロスは言って泣きそうな顔を俺に向けた。
「騎士団がカッコ良くて、一緒に討伐に行きたいって思って」
と震えた声でクロスが言った。
「命大事にって言っただろう」と俺は言って、クロスを抱きしめた。
もう死ぬ事は覚悟していた。
周りをオークに囲まれている。
オークキングは俺達が倒せる魔物ではなかった。
頭の中に美子さんの笑顔が浮かんだ。
赤ちゃんにおっぱいをあげて、嬉しそうな彼女の笑顔。
美子さんの元へ帰りたかったな、と俺は思う。
ベッドでうつ伏せで、なぜかお尻を上げて眠るネネちゃんのことが頭に浮かんだ。
家に帰ってネネちゃんを抱きしめたかったな。
癖毛の彼女の頭を撫で撫でしたり、柔らかいほっぺや体のあちこちにチューがしたかった。
せめてクロスにはオークに襲われているところを見せないように、頭をギュッと抱きしめた。
そして俺は目を瞑った。
いくら経っても、俺達は死ななかった。
目を開ける。
俺達を守るように、炎が燃えていた。
なんだよ、この炎?
オーク達が空を見上げて怯えていた。
俺も空を見上げた。
そこにいたのは白い鎧を着た女性だった。
背中には羽が生えている。
そして見たこともない大きな剣? 俺には剣ではなく、光のように見える。
その女性が大きな光の剣を振り下ろした時、ドボっとオークキングの頭が地面に落ちた。
そして滝のような血液がドジャーと降り注いだと思ったら、残った体も地面に倒れた。
「勇者」と俺は呟いた。
彼女の顔は、まだ幼さが残る日本人だった。
選ばれし者。
俺達とは桁違いの強さ。
いづれネネちゃんがなってしまうかもしれない勇者が目の前にいた。
彼女は無表情で、倒したオークキングを見下ろしていた。
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