第22話 孤児にお風呂を入れてご飯をあげる。そして3人のステータス確認
冒険者ギルドで得た情報によると、この国の騎士団の半数は、すでにオークの群れの討伐に向かっているらしい。残りの半分は街の周辺のオークを討伐して回っているらしい。だけどオークが強すぎて討伐しきれていないという。
だから冒険者のクエストはオークの討伐依頼ばかりになっている。
この国にも勇者はいる。だけど、この国の勇者は魔王を倒す冒険に出ていた。帰って来るように要請はかけているけど、いつ帰って来るかわからない状態らしい。
「だから中本淳さんがいてくれてよかったです」と受付のお姉さんが言った。
「なんで俺が?」
「だって日本人じゃないですか」と悪意の無い笑顔でお姉さんが笑った。
「勇者じゃなくても強いんでしょ? 1人でも強い人がいてくれたら助かります。じゃんじゃんオークを討伐しちゃってください」
いや、弱いです、とは言えなかった。
代わりに「はぁ」と俺は返事をして、適当に切り上げて少年少女を連れて冒険者ギルドを出た。
俺は3人を見た。
汚い。
森に行く前に、先にお風呂に入ってもらった方がいいだろう。
「とりあえず、俺の家に戻る」
と俺は言った。
「付いて来てくれ」
「先生どうして?」と困惑しながら癖毛のアイリが尋ねた。
「先にお風呂に入ってもらう。それにお前達はお腹も空いてるだろう?」
「空いてる」とクロスが言う。
「バカ」とマミが言って、クロスの頭を叩く。「私達が先生に無理を言って、森に付いて行くんだから遠慮しなさいよ」
ハハハ、と俺が笑った。
家に帰る。
「美子さん」と俺は玄関を開けて、彼女を呼んだ。
「えっ、もう帰って来たの?」と美子さんが言った。
彼女は赤ちゃんをスリングで抱っこしていた。
美子さんが3人を見た。
3人は不安そうに、俺の後ろに隠れた。
「この子達は?」
と彼女が尋ねた。
「昨日、助けた子達」と俺が言う。「一緒に森に行くんだけど、その前にお風呂とご飯を食べさせてほしいんだ」
ニコッと美子さんが笑って、3人を見た。
「先生、誰ですか?」と不安そうにアイリが尋ねた。
子ども達は急に知らない大人が現れて不安なんだと思う。冒険者ギルドにいた冒険者達の反応を見ていたら大人達から、どういう扱いをされていたかはわらる。
「先生?」と美子さんが首を傾げた。
「3人は俺のことを、そう呼んでいるんだ」と俺が言うと美子さんがクスクスと笑った。
「俺の妻の美子さん」と俺は彼女を紹介した。
「この子がクロスで、この子がアイリで、この子がマミ」と俺は子ども達を紹介した。
「よろしくね」と美子さんが言った。
はい、と不安そうに3人が言う。
「赤ちゃんがいる」とアイリが言った。
「ネネちゃんって言うのよ」
と美子さんはスリングで眠っているネネちゃんを3人に見せた。
赤ちゃんだ、と3人が言った。
「それじゃあ淳君は魔法でお風呂のお湯を溜めて」
と美子さんが俺に指示を出す。
お風呂場は家ではなく、外の小屋にあった。
五右衛門風呂に近い釜のお風呂である。
妻の指示に従って釜のお風呂にお湯を溜めた。
「この子達の服を買って来て。あとパンも買って来て」と金貨を渡された。古着屋さんで3人の背丈に合いそうな服を購入する。その帰りに余ったお金でパンを購入した。
美子さんはキッチンでシチューを作っていた。
シチューの美味しい匂いが立ち込めている。
「パンは?」
「買って来たよ」
と俺は言って、パンをキッチンに置く。
こっちの世界のパンは硬くてパサパサである。フランスパンに近い。
「ネネちゃんは?」と俺は尋ねた。
「あの子達に抱っこしてもらってる」と美子さんが言った。
俺はテーブルに座る3人の元に行く。
3人ともお風呂に入って綺麗になっている。
クロスはブカブカの俺のパジャマを着ていた。日本でも売っていそうな美子さん製作の青色のパジャマである。
アイリとマミも美子さんの赤色のパジャマを着ていた。
さっきまでドロドロだった顔が綺麗になって、透き通った肌が見えた。
俺の感覚からしたら3人とも美男美少だった。3人とも鼻が高い。
クロスは茶色の瞳をして、アイリは緑色の瞳をして、マミは赤色の瞳をしている。
さっきまでドロドロすぎてわからなかったけど、髪の色と瞳の色が同じである。
ネネちゃんはアイリに抱っこされていて腕を伸ばしていた。
可愛いね、と3人が言い合っていた。
俺が来た事がわかると3人とも赤ちゃんから視線を俺に移した。
「君達に服を買って着たんだ」
と俺が言う。
「先生、……こんなにしてもらっていいの?」と不安そうにアイリが尋ねた。
子どもが気を使わなくていいのに、3人とも申し訳なさそうだった。
「出世払いにしておく」
と俺が言う。
「出世払い?」とアイリが尋ねた。
「強くなって魔物を倒してお金を稼げるようになったら返してくれたらいい」
と俺が言う。
本当は別に返してくれなくてもいい。だけど出世払いにしてあげた方が3人の気持ちが落ち着くだろう。
「わかった。必ず魔物を倒して返す」とクロスが頷く。
「ご飯できる前に服を着替えなさい」と俺は言った。
そして1人ずつに服を渡した。そしてアイリからネネちゃんを受け取った。
着替えは物置にしている二階を使ってもらった。
まずは女子2人から着替えた。
たまたま俺が買って着た厚手のワンピースが緑色と赤色だった。
両方とも袖が手首まであるモノである。本当はワンピースの上に防具を装着していくのだけど、防具を買ってあげられるほどの余裕は無い。
アイリには緑色のワンピースを渡した。
瞳と髪の色に合った色である。髪はザ緑色という訳ではなく、金髪に緑が入っている感じだった。あと時間がある時に髪を切ってあげなくてはいけない。癖毛が下に伸びているんじゃなく、横にブワ〜っと広がっていた。それに髪の毛が絡まっている。
「どうですか? 先生」
と照れ臭そうに緑色のワンピースを着たアイリが尋ねた。
「すごく可愛いよ」
と素直な感想を俺が述べた。
アイリは顔を真っ赤にさせた。
「先生、私は?」
とマミが尋ねた。
マミには赤色のワンピースを渡した。
彼女は瞳が赤色だった。自分で切ったようなショートヘアーの髪の毛も赤色だった。
赤色のワンピースは彼女に仕立てて作られたように似合っていた。
「すごくいい。すごく可愛いよ」
と俺は感想を述べた。
マミが恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めた。
そしてクロスも着替えを済ませて2階から降りて着た。
茶色の麻のズボンに、紺色の麻の上着だった。
「駆け出し冒険者っぽくなったな」
と俺が言う。
「駆け出し冒険者だって」
とマミがクスクス笑う。
「駆け出し冒険者なんだからいいだろう」
とクロスが言う。
「みんな自分の分は持って行って」
とキッチンから美子さんの声が聞こえた。
「はい」
と3人が元気な返事をして、食事を貰いにキッチンに行った。
3人とも盆に載せられたシチューとパンを持って慎重に戻って来た。
そしてテーブルについて、美子さんの方を見た。
食べていいか伺っているらしい。それに気づいた彼女が「どうぞ」と言った。
3人とも腹を空かせた獣のように食べ始めた。
「だいぶお腹が空いてたみたいだな」と俺が言う。
「淳君も食べる?」
と美子さんが尋ねた。
俺は朝ごはんをちゃんと食べていたのでお腹は空いていなかった。
「いい。3人におかわりさせてあげて」
と俺は言った。
「ご飯食べたら森に行くの?」
「うん」と俺が頷く。
「連れて行っても大丈夫なの?」
「今日、行かなかったら3人とも2度と森に入ることができない」
と俺は言った。
「それじゃあ多めに団子を持って行ったら?」
「そうする」と俺が言う。
そして俺は思い出す。
「3人のステータスを確認しなくちゃ」
「ステータス?」
「3人が俺の庇護下に入ったんだ」と俺が言う。
「庇護下の条件ってなんなの?」
「わかんないんだ」
ふ〜ん、と美子さんが言う。
オギャーオギャー、とネネちゃんが俺の腕で泣き始めた。
「私、ネネちゃんにご飯あげるね」
と美子さんが言って、俺からネネちゃんを受け取った。そしてソファに向かう。
彼女は授乳が見えないように、胸元を隠す専用の布を被ってネネちゃんにおっぱいをあげた。
まずはアイリのステータスを確認した。
『アイリ 11歳
レベル 3
スキル 隠密・プラントクローズ』
職業欄も無ければ称号欄もない。
後は空白になっている。空白の画面を触ると『レベルが達していないので表示されません』と文字が出る。
俺のレベルが足りてなくて表示されないのか? それともアイリのレベルが足りなくて表示されないのかは不明である。
ちなみに俺のステータス画面も空白の箇所があって、そこを触ると『レベルが達していないので表示されません』となる。
11歳って小学5年生ぐらいか。
プラントグローズって何だろう?
文字を触ると詳細が出る。
『プラントクローズ……植物を特定の方向に成長させたり、攻撃や防御に利用したりする』
次はクロスのステータスを見る。
『クロス 10歳
レベル 3
スキル 隠蔽・スラッシュ』
スキルの詳細も確認する。
『隠蔽……物体を目立たなくさせる』
『スラッシュ……剣を振り下ろして斬る』
次はマミである。
『マミ 11歳
レベル 3
スキル アイテムボックス・ファイアーボール』
アイテムボックス?
俺はその文字を見て驚く。
あの、何でも収納ができるっていうアイテムボックスか?
アイテムボックスの文字に触り、詳細を確認した。
『アイテムボックス……入手したアイテムや装備品を一時的に永続的に保管するための空間。必要な時に取り出したり、預けたりする』
やっぱり、あのアイテムボックスだった。
ファイアーボールについては俺も同じスキルを持っているので割愛。
3人には、まだ職業も称号も現れていなかった。
だけどレベル表示がされているってことは彼等もレベルが上がるんじゃないだろうか? 実際に魔物を倒してみたらわかるだろう。
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