第7話 不吉な予感

 抱きつく美紀を離して、神介が立ち上がった。身軽な動作でドアを開けて廊下に出た。玄関のドアが半分ほど開いている。


 廊下の何処にも義雄も雪子の影も見当たらなかった。何かが起こっていた。開け放しの玄関ドアが、誰もいない廊下が教えていた。


 「父さん、母さん」


 リビングから玄関までの廊下の途中、右にトイレがあるが、トイレには人の気配はまったく感じられない。


 「神介、どうしたの?」


 美紀が不安を顔一杯に浮かべて、リビンクから飛び出してきた。


 「わからない。でも、何か様子が変なんだ。美紀はリビンクに入っていて」


 「イヤだよ。パパとママは?美紀は神介と一緒にいるよ」


 神介のただならぬ様子に美紀もすっかり怯え、神介の背中にすがりついた。


 「美紀お願い、ここで待ってて。外の様子見て、すぐに戻るから」


 「いやだよ、パパもママもいなくなって、神介までいなくなったら・・・・・」


 「美紀、大丈夫だよ。父さんも母さんも何かの用事で外に出たんだよ。必ずすぐ戻るから」


 玄関のドアの右隅に義雄愛用の木刀が立て掛けてある。防犯のために常時、置いているのだが、当然、今まで使用したことなどない。


 神介は木刀を掴んで外に出た。理由の無い不安感、嫌な胸騒ぎが神介の全身を包んでいた。


 家の周りは闇に包まれている。深夜であり、農地に囲まれている一軒家は、まるで黒い海に取り残された小さな島のようである。


 広い農地を隔てた場所にある隣の家は、既に寝静まって灯りも見えない。墨を流したような闇の中で気配を探る。玄関のドアを後ろ手にそっと閉めた。


 「神介、早く戻って来てね・・・・・」


 小さいが絞り出すような美紀の声が、閉めるドアに途切れた。


 玄関の前は狭い私道であり、家の側にある駐車場には義雄の愛車シルビアが置いてある。雲が多く月明かりはほとんどない暗闇の中にシルビアのシルエットがぼんやりと浮かんでいる。


 神介は家と駐車場のシルビアの間、1m程度の隙間にそっと身体を滑り込ませた。足音を忍ばせ、息を殺し、気配さえ殺して前に進む。シルビアの車体の真ん中ほどに進んだ。


 「ゴリッ、バキッ」


 まるで固い何かを折り潰すような嫌な音が前方、家の裏手で聞こえた。家の側面に沿って前に進み、シルビアとの間を通り抜け家側面の端にたどり着く。


 胸を締めつける不吉な予感に襲われながら、家の裏側の様子をそっとうかがった・・・・・

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