27:【レド視点】レドとハルート(1)

 ケルロー公爵家は伝統的に勤王きんのうを誇りとしてきた家柄である。


 現当主、レド・レマウスにもその自負はあった。

 ケルロー公爵家こそが、スザンの第一の盾であり剣である。

 その思いを胸に王家に尽くしてきた。

 その甲斐かいは十分にあった。

 現国王はそれだけの人物だったのだ。

 支配者としての器量、才略さいりゃくは十二分。

 臣下であることに誇りを覚えさせてくれる人物だった。


 そう、彼はそんな人物だったのだ。

 だからこそ、レドはわずかに首をかしげることになった。


(あの傑物けつぶつからよくもまぁ)


 不思議な後継ぎが生まれたものである。

 レドは玉座の間にいた。

 そして、その玉座を背にして、くだんの後継ぎが立っている。

 ハルート・スザン。

 彼は端正な顔を憎悪ぞうおに歪ませていた。


「……よくも私を裏切ってくれたな」


 裏切り? とレドが疑問に思うのと同時だった。

 彼は大仰おおぎょうな手振りを添えて叫び声を上げた。


「よくも我が信頼を裏切ってくれたな!! 貴様の言葉を信じたばかりに、私は最愛の妻にして至上しじょうの聖女を失ったのだ!! この始末、貴様は如何にするつもりだ!?」


 なるほどだった。

 確かに、そんな台本にはなっている。

 今回のことはレドの虚言きょげんが原因となっているため、そのことを指して裏切りとするのはおかしくは無い。

 ただ、


(裏切られているのは私のような気はするが)


 王国のために死んで欲しい。

 もちろん、ケルロー公爵家の安泰あんたいは約束する。

 貴殿の名誉についても出来る限り取り計らう。

 不要な屈辱を与えるような真似は決してしない。


 そんな約束があったのだ。

 しかし、現状はこれであった。

 玉座の間には多くの人影があった。

 多くはハルートの友人、知人だろうが、ともあれ人が集められているのだ。

 その上で、レドはこうして詰問きつもんを受けている。

 約束は破られたと理解せざるを得ない状況だ。


 この場には宰相もいたが、彼は申し訳無さそうに小さくなりうつむいていた。

 これはハルートの独断であり暴走である。

 そうとも理解をせざるを得ず、レドは内心でため息だった。


(まったく。本当にこの方は)


 不誠実であり、臆病おくびょうだ。

 ただ殺すだけでは、自分への非難は晴れないかもしれない。

 そんな恐怖に基づいて、自らが被害者であることの演技を衆目しゅうもくにさらすことを決めたのだろう。

 加害者レド弾劾だんがいすることにしたのだろう。

 

 病床にある国王であれば違っただろう。

 そもそもこんな事態におちいらないだろうが、少なくとも「すまない」と一言ねぎらっってくれたはずだ。

 

 その一言すら、この人は言えない。

 哀れさすら覚えるような支配者としての素養である。


「どうした!? 返す言葉もないか!!」


 ハルートの怒号を浴びて、レドは気を取り直すことにした。

 正直、ケルロー公爵家についての約束が守られるかという心配はあったが、ここまで来たのならば仕方が無い。

 宰相を信じるとして、レドは台本に従うことにした。


生憎あいにくですが、申し開くところはございませんな」


 ハルートの反応を待たず、レドは言葉を続ける。


「確かに今年は不作のようですが、大地の実りは天候こそが一番の要因。あの女が偽物であったことに一片の疑いもございません」


 平然としてうそぶいて見せる。

 すると、ハルートだ。

 大した演技力だと褒めても良いのかもしれない。

 大切な聖女を侮辱されたと言わんばかりに、顔を真っ赤に染め上げた。


「へ、減らず口を……っ!! おい、よこせ!!」


 レドは目を丸くすることになった。

 これも怒りの演技なのかどうか。

 彼は近くの衛兵の手から長棒を奪い取ったのだ。

 そのままの勢いである。

 彼は長棒を振りかぶり、怒りに燃える目でレドに叩きつけてきた。


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