第1話 初見さんいらっしゃいませ!

「……じゃ、帰ろうか。」


両親共特に何も言うことはなく、車に乗り込んだ。

やっぱり呆れてるのだろうか。


とりあえず俺も荷台に荷物を置いて、いつもの場所に座る。


そして車が発進すると共に。


「ひとまず、お疲れ様。

今まで頑張ったね。」


と母が口を開いた。


「…まぁ、これからのことは後からゆっくり考えて、しばらくゆっくりしなさい?」


母も色々と思うことがあるだろう。

それもそのはず。


母は一度、俺が退職することを反対していたからだ。

せめて1任期(1年9ヶ月)は務めなさい。と。


それでも俺は辞める意思を曲げず、母が折れて

退職するに至った。


だから俺は、今日両親に(主に母だが)会うのに緊張していたのだ。

 

その後は他愛もないことを話して、家へと着いた。


荷物を下ろして、先に家へと入った両親を追いかける。


玄関を通った時、改めて帰ってきたんだな。という実感が湧いた。


「ニャーン!」


すると、俺の帰りを待っていたかのように愛猫であるシロちゃんが足元に擦り寄ってきた。


待っててくれたのかな〜♪可愛いねぇ〜♪


とそのまま頭を撫でる。


「とりあえず、お前の部屋片付けておいたからまたそこに荷物とか服とか置いてな。」


「ん。了解。」


父から言われ、俺は荷物を持ち直し部屋に入った。

俺が家を出てからしばらくは妹が使っていた

らしいこの部屋は、若干の女の子の部屋といった香りがした。


ちなみに、妹は高校生だ。



……さて、整理でもするかな。



〇〇〇〇〇〇〇〇


……ふぅ。とりあえず、持って帰ってきたものを整理し終わった。


あとは何をしようかな。


時刻は午後8時。本来であれば、今頃次の日の

訓練に使う道具の整備や、半長靴と呼ばれる

自衛官の靴をピカピカに磨いている時間だろう。


しかし、今はそれもする必要がない。


暇な時間だ。


なんだか、その暇な時間という時間が落ち着かなく手伝いでもするかとリビングへ行く。


そこには何かと忙しなく動く母がいた。


「……あぁ。ちょうど良いところに。

ご飯できてるから運んで〜。」


「あーい。」


今日は美味しそうなビーフシチューだ。


「それと、お母さん今から片付け行くから。

お父さんたちが帰ってきたらご飯ついであげてね。」


そう言って母は職場の片付けに行った。


父は妹を迎えに行っている。妹は大体この時間に駅に着くからな。


1人で晩飯を食べる。


つい先日までは、まだ早い時間に、大勢で飯を食べたなぁ……。


そんなことを思いながら、スマホでYtubeを見る。


見る動画は、冬海オブジアースだ。


登録者600万人を誇る大人気Ytuberで、毎日毎日面白い投稿をしている。


この動画はプレミア公開になっているので、コメントもリアルタイムで流れているのだが、ものすごく速い。


流石としか言いようがないな……。


笑いながら箸を進めて、動画が締めに入ったところでちょうど食べ終わる。


携帯の電源を消して皿を洗い場に持っていき、そのまま皿洗いをする。


ちなみに家のルールでは自分で使った皿は自分で洗うよ!


それにしても、あのコメントの速さは凄かった。あれじゃ生配信とかで自分がコメントしても読まれることは難しいのではないだろうか。


まぁ、自分が面白いコメントができるとははなから思ってないけど……。


教官たちに言われた言葉がフラッシュバックする。


お前はつまらない。ノリが悪い。面白くない。

などなど。


そんなんじゃ自分に自信なんて持てるわけないよね〜!


はぁ……。


皿を洗い終え、父たちが帰ってきたので白米にシチューをかけてテーブルに置く。


そして俺は風呂に入って歯を磨いて寝る準備をした。

移動の疲れもあり、今日は早く寝たかった。


寝る準備を済ませ、あとは眠くなるまでまた動画を見る。


……アハハ。

………うわすげえ。

…………ふぁぁ。


『━━━ということでね!


僕の右手に出る者はいなかったけど、左と━━━。』


瞼が重くなり、動画もつけたまま俺は寝落ちした。


『━━━━アハハ!〇〇さん何言ってんの?』


「……うーん?」


……あまり聞きなれない女性の声がする。


『ねー。私もその人たちの動画好きだわ〜。』


「??」


寝起きでまだ頭が働かない…。

そうだ、今何時━━━。


時間を見ようと携帯を手に取ると、

イラストが瞬きをしたり、声に合わせて口が動いているのが目に入った。


「……これがVtuberってやつか…?」


存在は知っていたが、実際見るのは初めてだった。


どうやらこれはライブ配信中のようで今この瞬間もコメントが飛び交っている。


同接は……12人か…。


せっかくだし、何かコメントしてみようかな。

人数少ないし、読まれるやろ。


そう思い、俺は

「こんばんは。」

とコメントしてみた。


佑:

こんばんは。


お。表示された。


『━━ねー。面白いよねー。


……あ!佑さんかな?初見さんだよね!こんばんは〜!


じゃ!初見さんが来たということで!

自己紹介しまーす!


みなさん!コンモニカ!

塵も積もれば山となる!

の精神で!配信活動中の

チリツ モニカでーす!』


明るくて、元気な声だ。

なるほど。これがVtuberか。


可愛いし、わざわざ初見のために自己紹介もしてくれる。


そんな風に素直に感心していると。


Na-kun:

初見さんいらっしゃい!


山里のタケのこ:

っ🎍


モニカファン【公式】:

お前もチリスナーにならないか?


漢検2級持ち:

モニカさんや、これはたすくとも呼ぶんやで。




おぉ。これは全部俺に対するコメントか。


なんだか、無性に嬉しかった。


思えば、ここからだったのかもしれない。

俺がVtuberの沼にどっぷり浸かり始めたのは。




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