#34 不信

〜前回の最後〜

超不穏な警告をリュウゲンから受けて”ボス“の部屋の前へ!さぁどうするメイプルたち!

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「よし、入るぞ」


扉がギシっと音をたてゆっくりと開き、奥の椅子には男が座っていた


「よくきたな。新たな同胞たちよ」

「…どうも」


ぎこちなく、ヘインがそう受け答えする


「そう固くなる必要も無い。気楽に行こうじゃないか⋯すまないな。わざわざ時間をとらせてしまって。君たちにもやることがあるだろうに。」

「気にしなくても大丈夫だ。やりたいことは特になかったしな。」


男がニコッと笑い、ソファの方に手をやって


「立ち話もなんだ。そこのソファに座ってもらって構わないよ」

「心遣い、感謝する」


そうして私たちはソファへと座り、男が座るのを待った


「飲み物は何がいい?コーヒーか?それとも普通に水や、紅茶の方がいいかい?」

「一つだけコーヒーで頼む。…あとは全て紅茶で。」

「わかった。淹れるから少し待っていてくれ」


男はそうやって慣れた手つきでコーヒーと紅茶を淹れる。…今のところ、そんなに不審な様子は見られない。それぞれに淹れた飲み物を持ってきて、そして男は反対のソファへ座った


「改めて、初めまして。私がここ”異形衆“を取り仕切っている”ロプト・スパイト“だ。”異形衆“への参加、感謝させてくれ」

「感謝されることなんてしていない…俺たちは帰る場所がなくなってしまったから、ここにきただけだ。」

「それでも十分だよ。存分に我々を利用してくれて構わないさ。」


男はヘインの言葉に一切顔色を変えることなく、そう受け答える。


「話がしたいと呼んだのはいいのだが…話す内容は決まっていなくてね」

「「は?」」


レツハさんとヘインが素っ頓狂な声を出し、メディさんとクレアちゃんも、声に出してはいないものの非常に驚いていた。かくいう私もそうだ。


「そんなに驚かないでくれ。仕方ないだろう。まさか今日承諾されるなんて思っていなかったのだ。そうだな…代わりに、なんでも質問に答えてあげよう。わからないことがあればなんでも質問したまえよ」

「そんな、いきなり言われても…」


まぁでも結構疑問点はある。でもその場で思いつくかと言われると、そうではなかった。すると突然、ヘインが思いついたのか、疑問を投げかけていた


「この組織は何人構成なんだ?」

「かなり多いぞ。戦闘系の異形が数千人、支援系の異形も百人余りいる。支部などないが、エリアごとに統括を任せている“八獄やごく”と呼ばれる精鋭がいる」

「“八獄”はどんなメンバーだ?」

「本人たちから階級は聞いてくれ。メンバーは通称があり、それぞれ弱い順から『等活』『黒縄』『衆合』『叫喚』『大叫』『焦熱』『大焦』そして最も上の『阿鼻』もしくは『無間』だ。教えて欲しいといえば教えてくれるはずだよ」


なんともまぁ、出来上がった組織だこと。結構詳しいところまで決まってるんだな。


「リュウゲンとソルはどこの階級なんだ?」

「ソル…?なぜ君たちがソルグロスを知っているんだい?」

「え、なんでって、俺らついてきてた…」

「彼はもうすでに死んでいる。君たちが知っているはずはない。」

「は…?」

「だがこうして知っているということは、君たちはソルグロスと過去にあったことがあるのか?⋯いや失敬、彼はそういう人間ではなかったな。」


ヘインを含め、私たちは非常に混乱していた。ソルグロスは死んでいる?じゃあ私たちに近づいてきた彼は一体誰なの?


「君たちのことを勧誘しにいったのは『シャガラ・リヴェル』と『リュウゲン・グレン』だ。『ソルグロス・フュズィーク』は既に死んでいる。」

「待ってくれ、理解が追いついていない…つまりはよ、あのソルグロスって名乗ってたやつが、その『シャガラ・リヴェル』つーやつってことか?」

「…なるほどな。君たちが困惑している理由が分かった。…はぁ、彼が名乗っていたその「ソルグロス・フュズィーク」という名は、私たちの中でもよく知れ渡っている。何せ、この”異形衆”の最も古いメンバーの一人だからな。そして彼自身も、実力は凄まじく、人格者だった⋯随分前だと言うのに、未だに悲しいものだよ」


どうやら『ソルグロス・フュズィーク』という名の人物は既に故人のようで、私たちに接近してきた『ソルグロス・フュズィーク』は偽名だったらしく、真名は『シャガラ・リヴェル』という名だそうだ。


「シャガラとはもう一度話すべきだな⋯もう質問することは無いか?」

「あ、あぁ、とりあえず大丈夫だ」

「そうか⋯時間を取らせてしまってすまないね。申し訳ないが、恐らくまた声をかけるかもしれないが、その時はよろしく頼むよ。」


そう言って私たちは一礼して部屋を出た。今回のこの話で、疑問が募るばかりだが、とりあえず行くべきは『ソル』のところだ。


「行こう。ソルから話を聞かないと」

「⋯あぁ、そうだな。とりあえずは1度話を聞かないといけないな。それにしても⋯なんだか、考えることが分からない、掴みどころの無い人だった⋯信用出来ないとはそういうことか。」


確かにボスの雰囲気は不思議で、とてもじゃないが信用出来るような感じではなかった。


「気にしていても仕方ないな。とりあえず今日はソルの所に行って話を聞く。それからのことは⋯まぁ別に好きに行動してもいい。」

「マジすか!?やったっす!じゃ、色々やりたいこともあったんで、ササッと終わらせちゃいましょう!」


クレアちゃんが嬉々とした表情でヘインにそう言う。やっぱり年相応の子供っぽさもあるんだなと、わたしは少し和んでいた。


「全く⋯調子がいいな。」

「まあでもいいんじゃないかな。ここまでずっと堅苦しい雰囲気だったし、少しはハメを外しても怒られないよ。」

「それもそうか⋯」


ヘインも少し微笑みながらそう言い、優しい目でクレアちゃんたちのことを見ていた


「ここからは各自行動にするか。俺はソルのところに行くが、お前らはどうする?」

「私はクレアちゃんについて行こうかな。正直、不安だし。」

「な!?子供扱いはやめるっすよ先輩!」


クレアちゃんが頬を膨らませ、不満そうな顔で私のことを見てくる。正直、めっちゃ可愛い。


「俺はここのメンバーを探そうと思ってるぜ。”八獄“にも会いたいしな。」

「私はやりたいこともないのでヘインさんについていこうかなと思っています」


レツハさんとメディさんも、それぞれやることが決まったようで、各々が自身の目的のために行動を始めた


「じゃあクレアちゃん。いこっか」

「はいっす!先輩いるならどこいても安全っすね!」

「もう、煽てるのが上手いんだから。それにしてもやりたいことってなんなの?」

「いろいろ街を散策したかったんすよ!じゃ行きましょ!行きたいところいっぱいあるんで!はやく!」


ほんとに元気いっぱいだなぁ。と、私は微笑ましくなりながらクレアちゃんに急かされ、急いで追いかけて行動を開始するのであった

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「やはり、あの子たちは素晴らしいものだったね」

「なんか変なことでも吹き込んだのか?」


先ほどのボスの部屋に、リュウゲンは壁に背をもたれ、腕を組みながら。ロプトは窓を見ながら、紳士的な出立で話していた。そして先ほどのリュウゲンの質問にロプトはふっ、と笑い


「いや。別に何も吹き込んだりはしてないさ。この組織における階級に関してのみしか話していない」


そしてリュウゲンが怪訝そうな目でボスを見た


「へぇ?じゃあアンタがいつも俺に対して言ってくる“異形の段階は人間の一歩上だ”なんて妄言はアイツらに言ってないってことだな?」

「それを今伝える必要はないと判断したからな。まだ伝えていない。それに妄言というのはよしてくれ。私は至って真面目にことを言っているつもりだ。」


ロプトは笑い、少し悲しそうなそんな感じでそういうが、何を考えているのかは、まるで想像できなかった


「真面目だって言うんなら、別に良いけどよ。ただ俺は…アンタの言うその”人間の一段階上の存在“っていうのが理解できねぇんだよ。アンタなら知ってるはずだろ?異形が発現する条件っていうのを。それを踏まえた上でいってんのなら、ますます理解できねぇ」

「理解してもらおうなどと思ったことなどない。ただ私の持論を話しているだけのことだ。この持論を理解する者が現れたとして、なにかこの状況が変わると思うか?」

「さぁ、どうだろうな。実際に出現しなきゃわかんねぇだろ」

「確かにな」


そう言っておもしろそうにロプトは笑う。その真意はわからず、不気味な雰囲気を醸し出していた


「相変わらず、アンタが何考えているか、一切わからねぇな」

「簡単に掴まれてしまっては、”ボス“の名折れだろう?」

「一理あるな」


リュウゲンがつまらなさそうにそういうが、その受け答えには納得したようだった


「いつか話すのか?その持論っていうやつ」

「どうだろうな。話すかどうかはわからんが、時がきて、余裕があれば話すつもりだ」


ロプトは遠くを見つめて、リュウゲンの質問にそう答える


「言っとくが、アイツらからも理解できないって言われると思うぜ。」

「そんなことはとうに分かり切っている。私が求めるものは彼らの答えではない。」

「何を求めてんだよ。答えを求めてないっていうんなら、別に話しても意味にないじゃねぇか。ますます理解できねぇ」


リュウゲンは本当に理解できないと言ったような感じで、ロプトのことを訝しげに見つめた


「残念だが、それを君に教えることはできない。というより、誰にも教える気はないさ。」

「面倒なやつだな。まぁ別にどうでもいいか」


リュウゲンは話すことを話したのか、ドアを開けて部屋を出ようとしていた


「おや、もう行ってしまうのかい?今ちょうど飲み物を淹れたところなのだが」

「はっ、いつの間に淹れたんだよ…もう今は話すことはもうないからな。俺にだってやりたことがあるし。」

「そうか。残念だ。君とはもう少し話がしたかったのだが、そういうことなら仕方ないね。また用があるときはいつでもきてくれて構わないよ」


暇人か。とリュウゲンが笑いながらそういい、ロプトも、間違いではないね。と言う。そのやりとりが終わった後、リュウゲンはすぐさま部屋から出ていった


「信用しないでもらってくれて構わない。私の目的はまた別のところにある。正直な話、君たちのことはどうでも良いと思っているのだ…私は、私のためにだけ動く。それまでは、“仲間”として共に行こうじゃないか…」


不適な笑みを浮かべながら、ロプト以外誰もいなくなったその部屋で、そう呟くのだった

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