2章 新たな仲間たち

#32 見知らぬ男

「ふぁ〜あ…よく寝たなぁ〜…さて、じゃあヘインたちがいるっていう宿舎に向かうとしますかね」


この街に来た後、私はヘインの背中で寝てしまい、そのまま医療施設へと連れてこられていたそうだ。傷も相当深いものだったようで、一部分はとんでもなく火傷を負っていたらしい


「まぁ、火傷に関しては無理もないよね。あんなふうに無謀にもマグマに突っ込んでいったんだし…」

「おや、お目覚めカナ?」


部屋のドアを開けた途端に、なんとも怪しい雰囲気の医者のような背の低い女性が姿を見せた


「ゔぇっ!?」

「おっとと、驚きすぎダヨ。キミのことを救った本人だって言うのにネ。」

「す、すみません…?」


女性はこちらに人差し指を向けてちっちっち、と言い、私のことを凝視した


「謝る必要はないヨ。それに背の低い少女から既に話は聞いてるヨ。キミ、その少女とある約束したんダロ?なんかこう、変な約束。」

「背の低い少女…クレアちゃんのことですか?」

「ああ、そう言えばそんな名前だって言ってたネ。まぁ、傷が治ったのなら出ていってくれても構わないヨ。ここは宿泊施設じゃないからネ」


少し冷淡な口調で言われたため、ほんのり傷ついてしまったが、行っていることは確かなので、私はありがとうございましたと一礼してその部屋から出ていった。


「ああそうそう。伝え忘れていたことがあったヨ。」

「…?なんですか?」

「ソルグロスからの伝言だヨ。もうすでにみんなからの了承を得たっていう内容サ。ワタシには何のことかさっぱりだが、君には伝わるんダロ?理解したならもういいヨ。お疲れサマ。」


了承…というのはおそらく“異形衆”への参加の承諾のことだろう。レツハさんもメディさんも、了承したようだ。そう言えば気になることが一つあったんだった


「あの、もう一つだけお伺いしても?」

「なんダイ?ワタシも忙しいのだが…まぁ、一つくらいなら答えてあげれるヨ」

「クレアちゃん、どこ行ったかとかわかりますか?わからなかったら別にいいんですけど…」

「あの少女のことカイ?う〜む…どこにいくかとか言っていた覚えはないナ。でもキミのお仲間のとこにいるんじゃないのカイ?そこら辺はワタシもよくわからないケド、まぁのらりくらり散歩してたらいつかは出会えるはずじゃないカナ。ワタシは仕事に戻るから、キミもさっさとお仲間のところへ行ってあげなヨ。ほら行った行った。もうここのお世話にならないようにネ」


そう言って帰る際に悪態をついてきたが、まああの村でやられていたことを踏まえると別に苛立ちはしなかった。


「ありがとうございました」


女性の方へ礼をすると、こちらを一瞥してすぐに向き直り、黙って手をあげていた。そして医療施設を出るとそこには広々な街が広がっていた。後から思ったことなのだが、あの女性、ソルのことを呼び捨てで言っていた。知り合いだったのかな、と思うのもつかの間、私は外に出た瞬間その疑問は吹き飛んでしまった


「おー…ここが”蒼穹の街"…!入った瞬間に眠気が襲ってきたからあまり見れてなかったけど、こう見るとすごい大きい街だなぁ…」


大きな街に見とれていると、突然噴水がある方面から黄色い悲鳴が聞こえてきた。


「なんか事件でも起こったのかな…?とりあえずみんながいるって言ってた宿舎のほうに行こうかな」


今気にすることでもないよね。と、その黄色い悲鳴を無視して私はへインたちがいるって言われた施設のほうへと足を運んだ。


「にしても本当に広いなぁ…こんなとこがあるなんて、来るまであるとも知らなかった…」


街を見渡せば、本当に発展していることがわかる。いままでこんなところを知らなかったことが不思議なくらいにとても綺麗で壮観な街並みだ。家はどれも一般的な民家といったようなものではなく、白色と青色で塗装され、さながら”蒼穹の街”と呼ばれているだけのことはあった。


「お、そろそろ見えてきたな。」


街を見渡しているうちに、いつの間にか宿舎が見えるところまで進んできていた。


「ここが宿舎だね。…よし」


入る前に謎に緊張したため、少し気を引き締めてから扉を開けて中へと入る


「ん、眠り姫がお目覚めだな」

「ちょっといじんないでよ。仕方ないじゃんあんなことがあったんだからさ。眠くなるのも仕方ないでしょ。それにへインだって休まなくて…ねぇへイン?傷は?」

「お前が寝ている間にすべて元通りだ。まぁ厳密にいえば結構前から傷は治ってたけどな。」


いやいやいや、おかしいでしょ。同じ異形なのにここまで再生力に差があることなんてありえるの?個人差はあるにしてもあまりにも大きすぎないかな?そんなことを思うまでに、へインの再生力は常軌を逸していた。


「あれ?ソルは?」

「ああ、あいつは今組織に伝えに行って今はいないぜ。すぐ戻ってくるって言ってたけど、あいつがここを出てからもう30分くらいたってるんだよな。戻ってくるならもうそろそろだと思うんだが…」

「メイプルちゃん(先輩)!」

「うわぁっ!?」


レツハさんとそんなことを話していると、突然奥からメディさんとクレアちゃんが私に向かって飛びついてきて、わたしは2人にのし掛かられる感じで押し倒されてしまい、息をするのが苦しくなってしまった


「お前ら揃いも揃って…まぁ別にいいか」

「うううう~!心細かったっスよせんぱ~い!」

「ちょっ、まっ、ごめっ、がっ、くるっ、しっ」

「…お前ら、どいてやれ。苦しそうだぞ」


へインのその言葉で、二人は慌てて私の上からどいてくれた。だがどいて私が立ち上がった瞬間にクレアちゃんが抱き着いてきた


「いきなり抱きついてきてびっくりしたよ…でも元気そうでよかった」

「無理しないでくださいよ〜!ほんとに心配したんスよ!?」

「あっはは、大丈夫って言ったでしょ?約束は守る女だからね。私。」


まあ、無理したのは結構事実だけど…無傷、というか軽症ではなかったし


「…そうっスね。先輩約束破る人じゃないッスもんね!」


へへ、と言って笑うクレアちゃんの姿は天使そのものだった。まあ私たち自身は真逆の存在なんだけど…


「戻ってきたで〜…っと、液体の嬢ちゃんも起きてきてたんやな。」


クレアちゃんとやりとりをしていると、いつのまにかソルも戻ってきていた。それにしても”液体の嬢ちゃん”って…


「ちょっと、名前知ってるんだから名前で呼んでよ」

「そうだな。たしかにお前はそういう癖があるからそこは直すべきだぜシャガラ。」

「ほんとだよ…」


ん…?なんか今聞きなれない声が聞こえてきたような…


「「「「誰だよ(ですか)お前(貴方)!」」」」

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