#9 対策、勧誘

「いやー…本当によかった…!ヘイン殿、無事で何よりですぞ!」

「無事じゃない、けどな…」


あれから少し経って、メディはラルフさんとレオを呼んでここにきた。入ってきた時に、ラルフさんは少し泣きそうになっていた気がしたが、レオが馬鹿みたいに慟哭していたので、ラルフさんはそれで涙が引いていたようだった


「命がぎりぎりあっただけ、だな。あのままだったら本当に死んでいた。ありがとう。ラルフさん」

「お礼をするなら私ではなくレオとメディ殿にしていただきたい。私は何もしていませぬ」


こうやって病室とか仮宿を手配してくれただけでも十分すぎることなのだが…そう言っても、ラルフさんがその意見を下げる気はしないので、それ以上に言及はやめることにした


「『旋風のネクス』と対峙して生き残れたなんて、すごいことですよ!彼女は騎士団の中でも屈指の実力者で、団長からも既にNo.10ほどの強さはあるが、まだ発展途上って評されてるバケモノなんですから!」


突然レオが饒舌になって語ってきた。どうやらあのネクスとかいう騎士、本当に強いやつだったようだ。高揚して隙だらけだったのも、そういう甘さからきているのだろう。もしあの甘さがなければ、本気で俺は命がなかっただろう。そう言うことも加味して考えると、本当に幸運だったなと思う


「…あれでNo.10なのか…あの帝国守護騎士団ガーディアンズとかいう奴ら…隊長格は本当に計り知れない実力を持っているようだな」

「彼女はその帝国守護騎士団ガーディアンズの中でも精鋭中の精鋭、皇帝の守護を一任されてる『十天守護者オクトヘヴン』のNo.10ですからね。その中では1番番号が下ですが、それでも上位災害級の魔獣を五体満足で単独討伐してしまう実力を持っていますから…」


どうやら本当に警戒すべきはその『十天守護者オクトヘヴン』と呼ばれる帝国での屈指の実力者たちらしい。


「いつそいつらがまた襲ってくるかも分からないから、早めにこの痛みを治して迎撃態勢を整える必要がありそうだな」

「迎撃態勢って、また戦う気なんですか!?」


メディは目を見開いて、驚愕の表情で俺のことを見てきた


「あぁ、お前らのこと守れるの、いまは俺しかいないからな。それに俺は、1人で戦うことを想定とした戦い方だ。変に援護に来たところで、足手まといになることは確定している。」

「そんな言い方…!」

「言い方はきついかもしれないが、こうでも言わないとお前は援護を寄越そうとしてくるだろ。」

「それ、は…」

「それに大丈夫だ。別に無策ってわけじゃない。」


俺には考えがあった。最近森で拾ったあの女、あいつは戦いの素質を感じる。俺はメイプルに戦闘の彩葉を教えようとしていた


「考えがあるんですね?」

「メイプルに戦い方を教える。異形だけじゃ断定は出来ないが、あいつはセンスがある気がする。身体能力がメディと同等以上に高いしな」


メディにも戦い方を教えればいい…そうしたいのはやまやまなのだが、メディの異形はサポートに向いている。そんな異形の持ち主を、万が一戦場で死なせてしまった場合の損害を考えると、どうしても教えれなかった。…そしてそれには、俺の私情も含まれていた


「メイプルは今どこにいる?」

「ラルフさんの家でまだ寝てると思います。」

「そうか…起きたら俺のとこに来てくれって、伝言を頼む」

「はい、わかりました…あとヘインさん、後で2人でゆっくりお話しましょうね。沢山話したいことありますから」


メディは満面の笑みでこちらにそう言ってくるが、とんでもない圧を感じた。どういう内容を話されるのだろう…いやまあ分かってるが。俺は1人で、やるせない気持ちになっていた

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「ん…」


私は目が覚めると、どこかのベットに寝かされていた


「何時間くらい寝てたんだろう…」


割と長い時間寝ていた気がする。メディさんの魔力の影響かな。


「いや、普通に釣られたのかな。異形になると、魔力耐性が上がる代わりに、魔力が使えなくなるっていうことが書籍にも描いてあったし…それに、体感してわかる。魔力の感覚はあるけど、使えない。」


異形になると魔力耐性が高くなるが、魔力を扱えなくなるし、自分本来の能力も使用不可能になる。そういったことが本で書かれていた。


「人間時代にはできなかったこととかできるようになってるし、身体能力も上がってるけど…それでも、人間時代の名残はこの感覚と体だけ…まぁでも。もうこの体も、液体になっちゃうけどね…」


正直なんか名残惜しい気もする。人間時代の時が物理的に残ってるものなんて、もう今はないのかもしれない。


「…未練しかないな。思い返せしても吐き気がするくらい悪いことばっかだったけど、なんだかんだ、楽しいこともあったし…そう考えると少しだけ寂しい気がする」


村で迫害されていたにもかかわらず、なぜ楽しかったと、なぜ寂しいと感じているのか。それはおそらく『人間』と言う種族に対しての名残だろう。あの村での日々は、最悪なものだったから。


「…思い返すのはやめておこう。嫌な気分になるだけだし」


それよりもまずはヘインの安否を確認しなければ。そんなことを考えていると、窓があいた


「…誰?」

「おお、あんたが『メイプル・ウィート』っちゅうやつか。初めましてやな」


フードを被った男が窓の淵に乗って、突然話しかけてきた。深く被っているからか、顔が見えない


「なんで名前知ってるの?私、有名人じゃないはずなんだけど」

「や、有名人やで、意外と。ワイらの組織の中では、の話やけどな。って、そんなことはどうでもええんや。ワイの目的を端的に話すと、アンタらを勧誘しに来たんや」


勧誘しにきた。とはどう言うことだろうか


「まぁ、突然話されたところで、なんも理解できんやろうけどな。やが、アンタ含め、情報書に載ってある『ヘイン・トラスト』『メディ・フェイリア』『メイプル・ウィート』は勧誘しろって言う命令や。断ってもええで。ま、首を縦に振るまで定期的に勧誘しにくるけどな」

「それ凄まじく鬱陶しいんですけど…」

「褒め言葉ありがとうな」


男はにかっと笑いながら、私にそういう。いや、褒めたつもりなんてないんだけど…


「…時間やな。また会うことになると思うで。そんときはよろしゅうな」


男はそういい、即座にその場を離れていった


「なんか…すごい人だったな」


そう思ってるとドアが開き、メディさんがそこにはいた


「ふふ、お目覚めですか、おはようございます♪」

「あ、おはようございます。彼は、どう、でした?」


メディさんは暗い顔になった。と言うことは…


「それが…生きてますよ!ちゃんと!」


メディさんが一変して超笑顔で行ってきた。よかった…目が覚めたんだ…私も、とても安堵していた


「さぁ、ヘインさんが呼んでいます。行きましょう!」

「はい!」


こんなテンションが高いメディさんを見るのは初めてな気がする。それだけ、嬉しかったのだろう。そう言うことを思いながら、ヘインの元へ私は足を運ぶのであった

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