第18話 偽の証言

「先日、あなたの通ってる大学の近くの公園で殺人事件があったのはもうご存じかと思いますが、その日のその時間にあなたを目撃したと言う証言があったので、お話をお伺いしたいのです。」

 一之瀬晃は丁寧に話を切り出した。

「はい、公園に行きました。」

「なぜ公園へ行ったのか聞いてもいいですか?」

「静かに読書がしたかったんです。その理由は仲川さんという方がご存じかと。」

「仲川が?」

「ええ、聞いていないなら、そこからお話します。」

「お願いします。」


 ゆづりと一之瀬晃がいる一室のドアの外には、松村と仲川そして年配の主婦がいた。

「この小さな窓が、向こうからは見えないようになっています。どうですか?公園でみかけた髪の長い女性は彼女でしょうか?」

年配の主婦は恐る恐る小窓を覗いた。

「ええ、彼女です。間違いありません!」

「わかりました!ご協力感謝します!もうお引き取りいただいても大丈夫ですよ!」

 仲川が軽い口調で言った。逆に松村は何か考えている様子だった。

「あの、すみません。もう少しいいですか?当時のことなんですがが、顔ははっきりと見たんでしたっけ?」

 主婦は一瞬戸惑い、

「半分くらい…かな?」と、首を傾げた。

「彼女は一人だった?」

「ええ。まあ。」

「殺した時、相手の男との距離を教えてください。」

「そ、そんなの覚えてないわ!」

「ゆっくりでいいんです。思い出してください。」

「え、えーっと、男の人がここにいたとしたら、この辺?」

「彼女はどんな感じで殺してました?」

「こうやって銃をかまえて…。」

「なるほど、ありがとうございます。」

「松村先輩!あまり攻めた聞き方しちゃうと~戸惑っちゃいますよねえ?」

 主婦がうんうん、と頷いた。

「ああ、すまん。ただ、しっかりとに聞かなくちゃならないことは、お前もわかっているだろう?これでもし、嘘の証言だったり間違った証言だと、捜査のかく乱とか偽証罪になるから。」

「え!!」

 いきなり主婦が驚いた顔をしていた。

「あ~!あの、今日はもう疲れたと思いますし、この辺で帰してあげましょう!」

「そうだな。また捜査の協力を改めてさせていただきますね。」

「ええ…また来なくちゃいけないんですか?仲川さん、これじゃ話が…」

 中年主婦が言いかけたところを仲川がさえぎった。

「はい!大丈夫です。僕が責任もってお連れします。じゃ、帰りましょう!」

 仲川は主婦の背に手をあて、そそくさとその場を立ち去った。その後姿を松村は睨んだ。その少し後に一之瀬晃が部屋から出てきた。

「松村先輩、神代ゆづりさんから色々と話を聞きました。今日は帰ってもらいますので送っていきます。」

「あ、ああ…わかった。なあ、一之瀬。仲川、なんかおかしくないか?」

「はい、そのことで話したいこともいくつかあるので、署に戻ってからまた。」

「うむ。」

 

 

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