謝罪会見 24

 烏丸氏のPDW短機関銃掃射が不意に終わりを告げた。

 110発の弾倉二つを撃ち尽くし、死神部隊はあらかた殲滅された。

 けれどその後詰めのゴブリンたちは金属製の鎧にほぼ全身を守られていて、比較的貫通力の高いH&K製MP7でもなかなかその装甲を打ち抜けない。


「ちッ、こいつはここまでか」


 PDWを投げ捨てた烏丸氏は両腕をクロスさせ、懐からそれぞれに素早く拳銃をつかみ出した。

 その右手にはグロック18C。

 左手にはH&K USP自動拳銃。

 真一文字に走る頬の傷跡が怪しく曲線を描いた。

 と、同時にほとんどマシンガンのように連射され始めた二丁拳銃の弾道は過たず装甲の隙間を貫いて敵を次々に倒していく。


「まあ、こっちの方が性に合ってはいるがな」


 その喜悦に満ちた魔性の笑みと正確無比な連射に小鬼ゴブリンたちは竦みつつ、それでも盾をかざしてジリジリと迫ってくる。

 9×19パラベラム弾の弾倉が尽きた。

 烏丸氏はミリタリーコートの内側からカートリッジを取り出すと目にも止まらぬ手際で両銃に装填する。

 けれど目線を戻すとすでに目前にゴブリンの前線が迫っていた。

 そしてその盾の間隙からは無数のサーベルが突き出されてくる。

 烏丸氏は寸前でそれ躱しつつ再び連射を開始した。

 すると数歩先で敵が次々と倒れ、遺骸が血溜まりとなり石畳に吸い込まれていく。

 なんとか劣勢を立て直したが次の装填時にはどうなるか分からない。

 烏丸氏の脳裏に一瞬、不安が過ぎる。

 右に一瞥を配ると緋雪氏と七倉氏の奮闘が目に入った。


 良くやっている……が、しかし。


 彼らも装甲の厚いゴブリンには手を焼いているようだった。

 緋雪氏の草刈り機の刃は度々跳ね返され、七倉氏の妖術にもどこかキレがない。

 また主人の劣勢を助けるべくナッツも守勢に回っている。

 

 疲労だな。


 無理もない。

 死神だけでも数十体はいたのだ。

 軽量化してあるとはいえ草刈り機を振り回したり、続けざまに妖力の放出を繰り返したりすれば体力ゲージはあっという間に底を着く。

 そこに再びゴブリンの群れ。

 精神的にも追い込まれて当然だろう。

 

 このままではジリ貧。

 残された手は……しかしこれは賭けだな。


 烏丸氏は肩掛けに羽織っていたコートを矢庭に脱ぎ捨て、連射を止めることなく声を張り上げた。


「貴様、手榴弾グレネードの使い方は分かるか」

「えっと、たぶん大丈夫です!」


 背後にしゃがみ込んだブロ子さんがそう答えた。

 問うてはみたものの、首を横に振るとばかり思っていた烏丸氏はもう一度聞き直した。


「本物の手榴弾だぞ。ひとつ間違えば怪我では済まない。本当に使い方を分かっているのか」

「はい!ブロ子、軍事マニアなので詳しいんです。安全レバーを握ったままピンを抜き、そして投げる。これでいいですよね。あ、ところでこのグレネード、爆発まで何秒でしょう?」

「四秒。その間に奴らの後方に投げ込むんだ。できるか」


 ブロ子さんが顔を上げて肯く。

 そして口角を吊り上げた。


「フフフ、私を誰だとお思いですか」

「ふん、知らんな。なんとかコーディネーターとか聞いた気がするが」


 装填を終えた拳銃をぶっ放しながら烏丸氏は訝しげに眉を寄せた。

 ブロ子さんはコートの裏生地を探ると手榴弾をひとつ取り出す。


「ええ、そうです、謝罪会見コーディネーター。けれど別の通り名があるのです。それは……」


 烏丸氏の横に立ち上がったブロ子さんはピンを抜き、左足を大きく上げて振りかぶった。


鬼肩バリケンのブロ子ですよ!」


 しなる右腕から投げ放たれた手榴弾は唸りを上げ一直線にゴブリンの列に向かう。


「バカやろうッ!後方に投げ入れろと言ったはずだ」


 このままでは跳ね返ってきたグレネードで自分たちも爆風に巻き込まれてしまう。

 ブロ子さんを庇って立ちはだかった烏丸氏の瞳は、けれど次の瞬間、予想外の事態を目に映すことになった。

 なんと手榴弾グレネードを腹に受けたゴブリンが凄まじい勢いで後方に弾き飛ばされたのだ。

 二秒後、小鬼部隊の背後で苛烈な爆発が起こった。

 そして爆風に幾体ものゴブリンの手足や首が空中で四散する。

 

「高校野球好きが高じてピッチャーの真似事をしているうちに、いつのまにかストレートの球速が160キロを超えていました。球威も大谷くん並み。コントロールもなかなかでしょう」


 ドヤ顔ワインドアップで次の手榴弾を振りかぶるブロ子さんに烏丸氏は柄にもなく快哉を叫んだ。


「いいぞ! 貴様、最高だ! その調子で右翼の援護をしてやれ」

「了解でーす!」


 向きを変えたブロ子さん再び大きく振りかぶって手榴弾を投げ放つ。するとその豪速球は緋雪氏に襲い掛かろうとしていたゴブリンを道連れに後方へとすっ飛び、刹那轟音を発して爆発した。

 一瞬、目を丸くした緋雪氏が頬に笑みを灯した。


「マジ? ブロ子さん、チートじゃん」


 緋雪氏のマキタが一閃。

 右斜め前のゴブリンの首が空中に跳ね上がる。


「本当にたいしたものですね」

 

 肯いた七倉氏は短く鋭い息を吐いた。

 そして土爪トウチャオ光牙コアンヤアを連弾で放つと数体の敵が同時に霧になり消えていく。

 すると犬神ナッツもまた攻勢に転じて小鬼の喉を喰いちぎり始めた。

 

 形勢は完全に人間サイドに傾いた。

 石像の影に身を潜ませてその様子を眺めていた近藤は息を呑む。


「ま、魔軍相手にここまでやるとは。さすがはこよみ様が信をおいた方々だ。これならひょっとすると……」



 つづく


 とりあえず今日はここまでにしておきましょうか。

 今月中になんとかキリのいいところまで行きたい(ていうか、終わらせろよ早く)


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