謝罪会見 8
バベル120階。
その屋上、地上から500メートルの高さに設置されたヘリポートにリトルバードを着陸させた松本氏が扉を開いて降り立つと、一面ガラス張りの待機室に濃紺と白を基調とした艶のある格調高いドレスに身を包んだ鐘古氏が待ち構えていた。
そして近づくとドアが開け放たれ、鐘古氏がすぐに歩み寄って手を差し出してきた。
「フフッ、ロックオンされる寸前だったんですって」
「ええ、三陸沖で海の藻屑となるところでした」
そう答えてレイバンを外し、わずかに頬を緩めた松本氏がぎこちなく右手を持ち上げると鐘古氏はそれを即座に両手で包み込んで軽く頭を下げた。その挙動に背後に控えた側近たちが全員そろって目を見開く。
もちろん松本氏も少しばかり動揺してしまった。
世界の女帝が一介の傭兵に示す態度としては丁重が過ぎる。
「あの、それでどうしましょう。あの男は……」
そう言いつつ右手を引っ込めると鐘古氏は顔を上げて微笑みを浮かべた。
瞬間、松本氏は息を呑んだ。
そこにあったのは世界を掌握する
「そういえば那智さん降りてこないけど、どうしたの」
「眠ってます。泣き疲れて、親指しゃぶりながら」
その返答に鐘古氏は拳を口に当てて笑った。
「困ったものね。自分がどれだけのことをしでかしたのか全く分かっていないんだから」
「あの、那智さんはいったい何を」
「あら、チヅリーからあなたもあの駄作引き伸ばしの被害者のひとりだって聞いてるけど」
チ、チヅリー……。
烏丸先生のことか。
あの暗黒組織の女王をそんな風に呼べるのは世界中で多分この人だけよね。
こんなに可愛いのにやはり怖い人だ。
松本氏が言葉もなく面食らっていると不意に鐘古氏がその顔にそぐわない昏い影が刺した。
「まあ、簡単にいえばその被害者は私たちだけではないということなの」
「えっ?それってつまりどういう……」
聞き返すと鐘古氏はまたもとの可憐な笑みに戻り、体をくるりと反転させエレベーターホールへ向かって歩き始めた。そして数歩進んだところで思い出したように足を止め、そこに侍る側近のひとりに耳打ちをする。
するとすぐさまその男が後ろを向いてなにか短い言葉を口にすると背後に控えていたいかにも屈強そうな黒いスーツ姿の男たちが数人、松本氏の横をすり抜けてガラス扉から飛び出しリトルバードの方に走っていった。
どうやら彼らには那智氏を運搬する役目が与えられたらしいと得心すると、次いで鐘古氏に直接指示を仰いだその少し頭髪の薄い男が近づいてきて小声で話しかけてきた。
「失礼。あの、こよみ様からの伝言です」
え、伝言?
いままで話してたのに?
すぐそこにいるのに?
呆気に取られた松本氏が鐘古氏の顔を見遣ると彼女は腕組みをして眉根を寄せていた。その剣呑な表情にさてはなにか気に触るようなことでもしてしまったのだろうかと不安になり側近の男を見返すと、彼はは苦渋の顔つきを浮かべ、それからとても言い辛そうな口調でこう告げた。
「あの、その、えっとですねえ。こよみ様はこれから松本様のことをタカピーと呼ばれるそうです。そして自分のことはコヨミンと呼んで欲しいと」
えっ……
タカピー……
なんの話……
再び目を向けると鐘古氏はまさに少女のように顔を嬉しそうに輝かせてサムズアップしていた。
全然、意味がわからん……。
一気にこよみワールドに引き摺り込まれてしまった松本氏は久しぶりにちょっと泣きたくなってしまった。
つづく
あかん。
今日こそは全員、ご出演いただこうと思っていたのに。
このままでは本編より長い作品中作品になってしまう。
いったい那智はどうすれば〜(同情の余地なし)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます