謝罪会見 3

 緋雪氏とそのご主人が着ているのは米軍用供給メーカーとして長きに渡り実績を残してきたミリタリーブランド、アルファ社の迷彩服だ。

 だから広大な庭の雑草を二人して刈っている現場を見た近所の人たちは皆、その巧妙な迷彩のため緋雪氏夫妻の存在を確認できず、あそこの家はマキタの草刈機がひとりでに浮かんで草を刈っていると怪談めいた噂が飛び交っているらしい。


 と、そんなことはどうでもいい。

 那智は詰め寄ってくる緋雪氏夫妻から逃れようとオタオタとテーブルを降りた。そして舞台袖に逃げようとしたところに、けれどひとりの女性が立ちはだかる。


「那智さん、もしかして逃げるおつもりですか」


 その人はPaul Smithのハイブランドスーツに身を包んだ清楚な美人。

 フレームレスの細いメガネに後ろで束ねた黒髪。

 見るからにできる人だ。

 そしてなぜか足元にレッドフォーンの毛色のトイプードルを連れている。


「ど、どうして七倉さんまで」

「ふふふ、ナッツが教えてくれたんですよ」

「え、ナッツが……どうやって……」


 狼狽えた那智が震える指でトイプードルを指差すと七倉イルカ氏はその様子を嘲笑った。


「あら、知らなかったのですか。ナッツはこう見えて妖怪犬神なんですよ。(ナッツちゃん、ごめん。七倉さん、お許しください)そのうち禽獣人譜にも出てきます。だから偽の招待状なんか匂いを嗅ぐだけで嘘だと見破ってしまいましてよ」


「うそ……」


「まあ、信じなくてもよろしくてよ。ただし、我々をたぶらかした罪はここで償ってもらいます」


「いや、誑かしてなんか」


「とりあえずビッグシスターのお二人が到着するまではここに居てもらいます。もし無理にでも逃げようとするならナッツが黙っていませんわ、ふふ」


 七倉氏がそう云ってニヤリと笑うと同時にナッツの口元から犬歯が剥き出しになった。

 そして低く響き始めた唸り声に那智は数歩後退る。

 けれど背後には猛々しいエンジン音。

 振り返ると緋雪氏が不穏なうすら笑いを浮かべて草刈機を高々と頭上に掲げていた。


「そうよ、あの二人が来るまで那智さんを逃しはしないわよ」


 記者たちはいつのまにかその三人を円を描くように取り囲み、しきりに写真を撮ったり、ハンディビデオを向けたりしていた。

 もちろんその騒ぎを止めようとするものなどおらず、むしろこの後の展開を見逃さまいと固唾を飲んで見守っている感がある。


 前門の虎、後門の狼。

 那智は窮してしまった。


 やばい。これでは本当にあの二人が来てしまう。

 そうなればもう命の保障すらない。

 その前になんとか逃げなければ。

 でもどうやって。


 焦った那智が文字通り長髪ウィッグの頭を抱え込んだそのとき、不意にうつむかせた視線が謝罪テーブルの下の暗闇に信じがたい光景を拾った。


 つづく


 

 えー、昨日は勝手ながらお休みをいただきまして申し訳ありませんでした。


 というか、それよりやっぱこれ↑の方が皆さんに怒られますよね。

 だんだん怖くなってきましたが、がんばります(意味不明)






 

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