第5話 死亡フラグ(5/26)

「ぐあああっ!」


感染者と思われる女子と階段を転げ落ちた僕は、階段下まで勢い良くに転がって膝を強打した。

※物語の冒頭シーン


「ひーくん!」

「ひさと!」


達也がすぐに階段を降りてきて一緒にそのゾンビ女子を押さえてくれた。

僕は一旦、達也に感染者のゾンビ女子を任せて膝の怪我の確認をする。


「つっ!」

少し膝を真っ直ぐにしようとすると、痺れるような痛みがある。

さわった感じ、たぶん折れてはいないがヒビは確実のようで、走ったりは出来そうに無かった。


やってしまった……完全に自分に死亡フラグが立ってしまった。

この状況で足という機動力を失う事はほぼ死を意味する。


映画だと主人公を助けて笑いながらゾンビを引き付けて死ぬ役だ。

この怪我ではこの先とても生きていけるとは思えない。

だけど幼馴染の真理が無事ならそれでも良いか……


どうやらゾンビ女子は達也が抱え上げ、掃除用具入れに閉じ込めた様だ。

開く面を下にしているので、恐らく自力では出てこれないだろう。

軽いトラップになっているが大丈夫かな。


そんな事を考えていると真理が下を向いて申し訳無さそうに言った。

「ひーくんごめんね……私をかばってくれたんだよね……」


「っつ! いいって。それより体育館に急ごう! 達也、悪いが肩を貸してくれ」


「おう!」


真理が僕のカバンを持ってくれて、達也が半ば抱えるように肩を貸してくれる。

そうしてゆっくりとだが体育館に着く事が出来た。






ーーーーー






「お前達! そこで止まれ!」


バットを構えた先生達数名が、一箇所少しだけ開けられた体育館の入口にいて、僕達を呼び止める。

僕達が足を止めると先生の一人に厳しい目付きで質問された。


「その怪我はどうした? 噛まれたのか?」


「いえ、階段から落ちて膝を強打したんです……」


「そうか……悪いが確認させてもらうぞ」


僕は目で真理と達也に離れるように伝え、先生がズボンをめくって足を確認する。


「っつ!」


「血は出てない……打撲のようだな。早く入って中で湿布と包帯を巻いてもらえ」


「はい……」



僕は先生達は正しい行いをしていると思った。

ここを守るにしても感染者を入れてしまっては元も子もない。

自分がチェック対象になるのは複雑だけど……


そして僕達は体育館の中に入った。





ーーーーー





体育館に入った僕たちは中にいる先生に言って、膝の治療をしてもらった。

その後、点呼を取った後は楽にして良いとの事だったので、同じクラスの集まりの端に陣取って横になる。


「荒井君、大丈夫?」


「ああ、桑田くわたさん。大丈夫だよ、ちょっと転んじゃってね……」


桑田さんは僕達のクラスのクラス委員だ。

美人で背も高く頭も良いし誰にでもすごく優しくて、僕のような者にも何かと声を掛けてくれるんだ。


「おい、明日奈あすな!」


「じゃ、じゃあね荒井君。何か困った事があったら私に言ってね!」


桑田さんはすぐに他のクラスの男子に呼ばれて去って行った。

噂によると桑田さんには幼馴染の彼氏がいるようだ。

今の人がそうなのかな?

僕とは違って幼馴染でも順調みたいだ。


その後、横になった僕はスマホをまた携帯バッテリーで充電する。

スマホを少し見たが、やはり家族からの連絡は来ていないようだった。

だけどゾンビマニアともいえるパパが直ぐにやられるとは思えない。

恐らくは妹の玲奈とママを確保しに行っているんだろう。


そして夕方になる頃、教頭先生から皆に状況の報告があった。

掻い摘んで話すと以下の内容だ。


・何らかのウィルスに感染していると思われる者達が学校を襲った

・警察や消防、救急などあらゆる箇所への連絡が取れなくなっている

・現在一部の職員が最寄り駅まで様子を見に行っているが帰ってこない。

・感染者と思われる者達や怪我人はいくつかの教室に閉じ込めている

・相当数の生徒や教職員に犠牲者や負傷者が出た


学校から逃げた人もいるみたいなので、今いるのは半分くらいの生徒だと思う。

取り敢えずはこの封鎖した体育館内に泊まり、夜通し教職員と生徒会、高学年の運動部員が入口を見張るという事になった。


この後、皆に夕食分と朝食分の非常食が配られた。

水道も使えるし、数日暮らせる物資はあるから心配しなくて良いとの事であった。


僕は配布された固い乾パンを頬張った。

果たして死亡フラグの立った僕は、生きて家族に会えるのだろうか。

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