第2話 終わりの始まり(5/26)

「きゃああああーっ!」

「うわーっ!」

「せんせーっ!」


大勢の悲鳴が聞こえる。

これはただ事じゃない!


この時間は早く食べ終わった人がグラウンドなどで運動したりしているはず。

僕達3人や教室に居る他の人も、急いで声がした校門が見える窓の方に駆け寄った。

椅子や机が床を擦る音が一斉に聞こえる。


見ると校門の近くに体育教師が血まみれで倒れており、そこには数人のスーツを着た大人の男性が覆いかぶさっていた。

というよりも噛み付いて食っている!


体育教師は身体中から流血しているようだ。

何人かの生徒が勇敢にも止めに入っている。


さらに開いている校門から学校関係者でない一般人っぽい人、数人が校内に入ってきている様だ。

その人たちは血塗れで動き自体は少し鈍く、どこか壊れた人形のような動きをしている!


「何よ、あれ!」

「まさか殺人か? どうなってんだ!」

真理まり達也たつやが驚愕した様子で叫んだ。

クラスの他の人達も恐慌状態で、口々に何が起こったのかと叫んでいる。


僕はその時、割と冷静であった。

というのも僕のパパがゾンビマニアといって良い人種なのだ。

見たところ襲われている状況や侵入してきている人達の様子が、ゾンビ映画の状況と酷似している。


僕のパパは建売たてうりではあるがなるべくゾンビに侵入されがたい家を選んだと言っている変人で、うちは普段から各種保存食や水、携帯バッテリー、医薬品などの備えも完璧だった。

パパいわく、アメリカとかヨーロッパにはもっと凄いプレッパーズ? とかいう世界滅亡に備える人達がいて、いずれ来る世界の終末の為に食糧やら武器を備蓄している人も多いんだとか。


パパには小さい頃から各種のゾンビ映画を、半強制的に鑑賞させられていた。

そのせいで自分もプチマニア程度にはなっている。

その知識から見た感じ、これはゾンビパンデミックが始まった様に思える。


仮にあれがゾンビだとすると外から入って来ている者の動きから、多分動きの遅いノロノロ系だと思う。

あの有名なロメ◯監督のゾンビ映画と同じタイプだ。


僕が今まで見てきた映画や書籍によるとゾンビにも色々な違いがあった。

ゾンビになる原因、変化までの要件や所要時間、その中でも特に要注意なのがゾンビになった後の動きの速さだ。


動きの速いダッシュ系のゾンビだと、人と同じ位かそれ以上の速度で走ったりするので、逃げるのが困難なため死亡率は爆上りしてしまうだろう。

映画でも走るゾンビはかなりの脅威だった。


それに比べると今の状況は恐らくだけどノロノロ系であろう事に、皆が恐慌状態の中で僕は逆に少し安堵していた。


但し、同じノロノロ系でも素体の若さやフレッシュさで、ゾンビの速度も多少変わってくるので気を付けなければならないだろう。


おおっと、このままボーッとはしていられないよ。

こういう時は初動が肝心なんだ。


真理まり達也たつや、上着を着て! 出来れば中にジャージも着るんだ! そして何時いつでもここを出られる準備をして!」


僕がゾンビ系の映画を見ていつも思っていた事だ。

かじられたり引っ掻かれたりすると感染するというのに、なぜか映画だと半袖や薄着だっだったりする。


そりゃあすぐ死ぬでしょうよ……





ーーーーー





僕は呆気に取られている二人に指示するとスマホを取り出して、まずは110番に掛けてみる。くっ! 繋がらない!

もう一度掛けた後、今度は119番にも掛けてみるがやはり繋がらない……


「駄目だ! 警察も救急も繋がらない!」

「そんな!」

「嘘だろ!」


僕は二人にそう言うと、不安そうな二人を置いて次に何をするべきか考える。

理系であるパパに良く言われていた事だ、多少時間が掛かってもまずは状況を整理してから優先度を考えて行動する方が良い。


「二人ともよく聞いて! これはもしかしたらバイオハザード的な何かかも知れない。まず職員室に行って先生達に状況を報告しよう。その後、購買に行ってまずは食糧を確保しよう! カバンを持って着いてきて!」

僕がそう言うと二人は真剣な様子でうなずいて着いてくる。


他の人にはアレコレ言わない。

僕が護りたいのは家族以外ではこの二人だけだ。

この二人が怪我でもしたら僕はかついででも連れていくつもりだが、他の人にはとてもじゃないが責任は持てない。


廊下を少し駆け足で移動していると他のクラスも混乱しているのが分かる。

3分ほどで2階にある職員室に着くと、先生達も既に騒ぎを認識していたようで騒然としていた。


「先生、校門の辺りで傷害事件です! 部外者が体育の先生を襲っているのが見えました! 警察や救急への電話も繋がりません! さらに外からも不審者が入ってきています!」

僕は職員室で大声で叫んだ。


「わかってる! 教職員で対処するから、生徒は各自の教室で待機して欲しい! 後で体育館に集合するかもしれないが、その時は校内放送で案内する!」


教頭先生が僕に答えてくれた。

きっとこういう緊急事態に向けたマニュアルがあるのだろう。

だが、こうしている間にも誰かが襲われているはずだ。


これが仮に〈感染〉する物だとして、映画だと感染して死んだ後直ぐにゾンビになるパターンと数十分~数十時間の経過でなるパターンに別れる。

僕はなるべく後者であってくれよ! と願う。


先生には一旦教室に戻れと言われたけど食料の確保はしておいた方が良いだろう。

まだ今なら購買で買えるはずだ。


「わかりました。教室に戻ります」


僕は教頭先生にそう言うと、すぐにきびすを返して職員室を後にした。

二人も着いてくる。


「教頭先生にはああ言ったけど、1階の購買で買えるだけ食料を買おう!」


僕は早足で移動しながら、二人にだけ小さい声で話した。

僕はこの二人を護って生き抜いて見せるぞ!

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