一章第二話 寝汗は大トラブル?

 犬は気持ち良く寝て、鳥は囀ずるいい朝だ。

こんないい日が修羅場になるとは矢崎以外には予想できなかっただろう。


「ワン!」

「分かったよ起きるよ。」


 猪瀬はいつものように犬の唾と鳴き声で目を覚ます。


「そういえば今日は姫野先生にお願いしに行く日だったな!」


 それに気付き猪瀬は大急ぎで支度する。

そんな中家にチャイムの音が響き渡る。

誰が来たのだろうとモニターを覗く。

 そこにはよく見知った女性が見えた。


「猪瀬さーん 早く中にいれて~」


 矢崎はそんな冗談を大声で叫ぶ。


「止めてください!鍵を開けるので入ってください!」


 近所からの風評被害を避けるために猪瀬は急いでドアを開ける。


「二度とああいうことはしないでくださいね?」

「ああいうことって何ですか? ただ私は早く部屋の中にいれて欲しかっただけですけど? 何を想像したんですか猪瀬先生?」


 ニヤニヤした顔で矢崎はそう言い放つ。

この女確信犯だろと思いながらこれ以上弄ばれたくないので話題を切り替える。


「どうしたんですかこんな朝早くに?」

「いやー今日は(大変になる)猪瀬先生に朝食でも作ってあげようかと思いまして~」

「そんな悪いですよ。」

「いえいえ大丈夫です。猪瀬先生には体力付けてもらわなきゃですから!寝てる時には大量の汗をかくっていいますからお風呂にでも入っててください!」

「わ、分かりましたから押さないでください。」


 矢崎は猪瀬を豊満な胸を押し付け猪瀬を押す。

猪瀬は顔を赤くしながらお風呂に向かう。

 

「さーて料理しますか~」


 矢崎はフライパンに材料を切り分け火をつける。

そして十分熱したらご飯を入れ、納豆も入れる。


「さぁ、私特製納豆炒飯の出来上がりですよ~」


 出来上がった炒飯を皿に盛る。

いい香りが部屋中に充満する。


「ワンっ!」

「貴方もご飯ですねー」


 矢崎はライムのご飯用に残してあげていた野菜の切れ端をお皿に入れる。


「これじゃまるで奥さんみたいですね~」


 自分で言った言葉に恥ずかしくなり顔を赤らめる矢崎。


「何を赤くなってんのよ。」

「うわっ!夢咲さんどうしてここに!?」


 矢崎は驚きフライパンをシンクに落とす。


「どうしてってあんたが鍵空いてるから入れって言ったんでしょ?」


 呆れた顔で夢咲は告げる。


「そ、そうでした。」

「まったくしっかりしなさいよ~」

「そうだ。矢崎さんまだ起きてないみたいですしお風呂でも入ってきたらどうですか?いい湯でしたよ~」

「そうね。寒かったしお風呂頂くわ。」

(驚かせた仕返しですよ~)


 矢崎は悪い顔をしながらそう心で思う。

 

 「ふぅーいい湯だなぁ。それにしても矢崎さん案外...って俺は何考えてんだ!」


 猪瀬は矢崎に抱いた変な気持ちを振り払おうと心を無にしようとすると余計に頭に矢崎のイメージが溢れてくる。

いつもは毛嫌いしているのに一つのイベントでこうも変わるものだろうか。

と思っていたら声が聞こえる。


「お風呂♪お風呂~♪」


 音程のいい鼻歌が聞こえてる。

(ゆ、夢咲!?)

 猪瀬は驚き、湯に沈む。

(なんで夢咲が...まさか矢崎さん!?)

夢咲がお風呂に来た原因を考え、矢崎が十中八九原因だろうと思う猪瀬。

(そんな事より早く止めなきゃ!)

 急ぎ猪瀬は声をかける。。


「ま、まて夢咲!」

「な、なんであんたがいるのよ! 」


 夢咲は当然の驚きの声をあげる。


「わ、私の裸除こうと隠れてたの!? 」

「だ、だんじて違う! 」


 猪瀬は動揺しながらも否定する。

その動揺がもっと犯人感を出しているのだが、

そのことに気づくほど猪瀬は冷静ではなかった。


「言い訳は止めなさいよこの変態!ていうことは矢崎もぐるね! 」


 夢咲は矢崎ならやりかねないと思い、もっと疑いを持つ。

「そうなら声をかけないだろ!」

「そ、それもそうねいや、急に怖くなったとも考えられるわ!」

「と、とりあえずパンツをとってくれ!話はそれからだ!」

「パ、パンツをおって」


夢咲は顔を赤らめる。

勿論夢咲は男性のパンツを触った経験なんてないので凄く動揺する。


「わ、分かったわ! あなた女性にパンツを触らせて快感をえる異常性癖者ね!」

「そんな変態いてたまるか! 何か履かないと出れないからだよ!」

「な、なにも...この変態!」

「しらねぇよ!」


 夢咲は裸の猪瀬を想像し、もっと顔を赤らめる。


「こ、今回だけよ」


 顔を赤くしながらもパンツを渡す夢咲。


「あ、ありがと?」


猪瀬はお礼を言うべきなのかよく分からない状況に困惑する。


「プークスクス、今頃大混乱でしょうね~私を脅かした罰ですよ~」

「そういう事だったのね..」

「ヒエッ!?え、閻魔様!!」


夢咲の怒った顔を見て閻魔を想像する矢崎。

御愁傷様と思った猪瀬だった。


「案外旨いわねこの炒飯。」

「でしょ? 美味しいでしょ? 得意料理なんです。」

「調子に乗らない!」

「は、はい~」


 涙目で正座をさせられている矢崎に猪瀬はいい放つ。


「全く、危うく変態認定されてコンビ解散するところでしたよ。」

「そうよまったく。」

「そ、それよりそろそろ行きませんか?」


 罰が悪くなったのか矢崎は話題を変える。


「行くってどこでしたっけ?」

「あんた忘れたの!?姫野先生に挨拶に行くんでしょ?」

「あぁ、そうだった!誰かさんのせいで大変な目にあったから忘れるところだった!」

「さぁ、早く行きましょ~」

「逃げたわね。」

「逃げたな。」

「ワン!」


 三人は早速姫野先生の家に向かう。


「おい走ると危ないぞ!」

「子供じゃないんだから大丈夫よ!」

「一応気を付けろよ。いつ不運が訪れるか分からねぇんだから。」


 どこか猪瀬は悲しい顔で遠くを見つめていた。

夢咲はその顔に何かを感じていた。

 

 私はしがないイラストレーター、今日は夢にまでみた猪瀬先生とお会いできるの。

こんなに最高な日は無いわ。

私はわくわくして玄関で待機する。

しばらく待機していると長らくまっていたピンポンと音がなる。

待ってました!


「姫野先生入りますねー」


 矢崎さんの声だ。

つまり間違えない。


「はーい。」


 と姫野は大喜びでドアを開ける。

そこには大尊敬する猪瀬先生の姿が..


「は、初めまして姫野でふ! 」

「初めまして?でいいのかな猪瀬です。」

「は、初めまして夢咲です。」


 姫野は早速挨拶する。

尊敬する猪瀬先生の生顔に興奮する姫野。

姫野は少しして夢咲のことに気づく。


「今日は猪瀬先生と会うはずじゃ」

「あれ行ってませんでした?今日は二人の挨拶とお願いによったんですよ~」


 二人の挨拶!?

つまり結婚挨拶!?

そう思った姫野は倒れ気を失う。


「あちゃー、やっぱり倒れましたか~」

「「大丈夫ですか!」」


 二人は心配し身体を揺する。


「結婚!?」

「何言ってるんですか店長?」

「いや、どこかで知り合いが結婚って言った気がしてね。」

「どこまで飢えてるんすか。そんなことありませんよ。」


 どこかで結婚したいメイドさんが反応したのはまた別の話。





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