第16話 ○○○○法則

しばらくするとローズ、ソフィアのSP達に囲まれることになる。


SP達は筋骨隆々にもほどがある。

サイドチェストで簡単に黒服が破裂するのではないかと思うほど……。


全員が殺気立っており、抜き身の剣を俺に向ける。

俺は泣きながら両手を挙げて降参の意思を示す。


超……コエェェェ!


ただ、そんな俺とSPの間に割って入り声を上げるソフィア。


「彼は無害だ。剣を納めよ」


先ほどまでのソフィアとは打って変わって、まるで彼らの女上司のような振る舞いにてSP達にものを言う。


「姫様、すぐにその男からお離れください」

「お嬢様もです」


SP達が俺を危険人物と認知している。


これは……俺……終わったな。


絶望という名の文字が俺の頭の中を支配する。

母さん、不幸な息子でごめん。


俺は上を向き涙が零れるのを耐える。

ただ、そんなことをしていると、ソフィアが急に俺の左腕に抱き着いてくる。


「えい」

「……へ?」


それだけでは終わらなかった。


「もう、仕方ないわね」

「ちょちょ、ローズ?」


何と今度は右腕にローズがしがみついてくる。


流石にこの状況を理解できるものは俺を含めSP全員が戸惑いを見せる。


「いいこと?彼は私とロゼッタのお気に入りなの、下手な手出しは控えてもらえる?」

「おほん、まあ、そんな感じよ」


二人の言葉にSP達は俺への認識を改めてくれているようだ。

たぶん、リーダークラスだろう。

俺への手出しを一切禁じてくれている。


まあ、その間、俺は両腕に当たるマシュマロの感触に全神経を集中していた。


それにしても、左腕はロリ顔には似合わないボリューム感。

対して右腕は、うん、なんだ、悪くないよ。


その後、しばらくして意見が一致しマシュマロが俺の腕から離れていく。

二人は共に自分のSPの元へと歩み寄る。


ローズが近づくとSP達は剣を納めて頭を下げ始める。


「「「「姫様」」」」


ソフィアに向かって頭を下げる筋肉達。

こちらの筋肉達の胸には金色に輝く王冠の形をしたバッチがある。


「「「「お嬢様!」」」」


もう一方のローズの目の前にも群がり頭を下げる筋肉達。

こちらの筋肉達の胸には銀色に輝く剣の形をしたバッチ。


どうやら、俺は城の地下牢ではなく学園の寮に帰れるようだ。

……良かった……。


と、ほっとしたのも束の間


両者の筋肉達が一斉に俺に死の視線を向ける。


…………こ、こ、こわい。


俺と筋肉達が緊張して対立する中、ソフィアは優雅に俺の前に立つ。


「今日は楽しかった。ありがとうサム」


ソフィアの満面の笑みは宝石のようにキラキラと輝いていた。

本来ならこの笑顔にどんな男もワンパンで恋に落ちるかもしれない。


しかし、俺の今の状況を鑑みるに……恋に落ちるというよりも命を落としそうです!


俺とソフィアの会話に視線を向けるソフィア側の筋肉達。

ソフィアの素敵な笑顔も筋肉達の怖い視線で台無しである


「それはよかったです……アハハ」


と、社交辞令。

だが、筋肉達の視線は緩まない。


逃げ出したい……それが正直な感想だ。



SPに囲まれて楽しそうに手を振り帰っていくソフィア。


そして、残ったローズのSPに睨まれる俺。


「あ、あの……」


どうしよう。もしかして、こちら側のSP達はまだ怒ってらっしゃる?


「ほら行くわよ」


ローズの掛け声一つでゾロゾロと黒服が動く。

怖い、怖すぎる……黒服も怖いがローズもなんかすごい。


「はぁ、助かった」


俺はその場でへたり込む。

やっぱ住んでいる世界が違うな


貴族社会という前世の俺は考えれなかった制度の中での圧倒的な強者。

そんな二人と屋台で肉を食べるという非日常を思い出していたが、


「…………あっ!」


俺は重大なことを思い出す。


すぐさま白桃に回線をつなげる


「なあ、白桃」

「なんですか、マスター」

「夏季休暇の課題が終わっていない!」

「頑張ってください」

「いや、今からなんて無理だろ」

「私がやったら意味なのでは?」

「前世ではchatLLMに突っ込んで課題を終わらせる学生がいたぞ」

「私はそのChatLLMなんて旧時代ような言語モデルは使っていません」

「そこを頼むよ」

「たぶんですが、マスターが見た学生が問題になって私はそのあたりの倫理感が学習されているので無理です」

「ケチ」

「ケチで結構です」


俺は大急ぎで学園の寮の自室に戻る。

特に変わった様子はなく何だが、数か月ほど留守にしていたと感じるぐらいだ。

まあ、昨日今日の出来事が強烈すぎたな。


だが、現実に戻らねば!


頭に鉢巻を巻く。

前世の学生時代ですら鉢巻なんて巻いたことはない。

だ、この二回目の人生……本気を出す!

俺はその晩、これでもかというぐらい本気で課題に向き合った。


「よし、頑張るぞ!」




10分後




頭が重い。

瞼が勝手に閉店してしまう。


いかんいかん、眠ってしまう……次の問題だ


えっと、次は何を説明しているか答えよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

電流(I)、電圧(V)、抵抗(R)の間の関係を表します。


V = I × R


ここで、Vは電圧、Iは電流、Rは抵抗を表します。電流と抵抗が与えられた場合にそれに対応する電圧が生じることを示しています。


回答

○○○○法則

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なるほど、簡単だな


エンジニアコースを選択してよかった。

こんな問題、常識だろ

えっと………4文字か……簡単だな……答えは………おっ〇い……よし……あ、ヤバイ……眠気が……ぐぅ




翌朝


……カーテンの隙間から朝日が差し込む。

小鳥のさえずりが聞こえて朝だということがわかる。


そして、机の上に置かれた課題。回答を記入した問題は1問のみ。

更には、世界地図のようによだれがついているだけだった。


しかも何とかやっている問題も回答欄を見て唖然とする。


流石にあのような状態ではまともな思考回路ではなかったようだ。


仕方ない……諦めよう。



昨晩は早く寝たおかげで以外にもすっきりとした朝を迎える。

これで課題が終わっていれば最高だったのだが……。

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