第7話 シンギュラリティによる完全オートメーション化

元データであるアカシックレコードは毎年追加されていくので、辻褄合わせを考えれば改ざんは大事業だが、アルゴリズムは変数のチューニングでどうにでもなる。同一のアカシックレコードからジェネレートされる政策でも、アルゴリズムが変われば、結果は別物だ。


ニンジャ・マスター岡田はアカシックレコードのリーディング・ルームに行ってみることにした。アカシックレコード・リーディングは全日系人の持つ権利で、三六五日いつでもアクセスができる。―はずだが、データの管理や保全のため、ほとんどの人々はリーディング・ルームから締め出されて久しい。


スペイス・ニンジャ・カンパニーはあらゆる修理のプロであり、メンテナンスのプロであるため、特別にアカシックレコードのリーディング・ルームにも顔パスで入ることができる。


ニンジャ・マスター岡田はアカシックレコードへのアクセスを始めた。


じっさい、これはきつい作業だ。断片的で雑多な記録―旧石器時代の矢じりや、西暦280年ごろの魏志倭人伝から西暦2020年代のYoutubeまで―を、一気にスキミングするのはタフなメンタリティと体力がないと意識を失ってしまう。だが、ニンジャ・マスター岡田なら大丈夫だ。


「なぜ今年の猫は、いつもと違う?」

―アルゴリズムが変更されました


「今年はどんな年?」

―シンギュラリティ到達年


「モフモフやモグモグ追放の理由は?」

―長期ターゲットからの逸脱、採用コンセプト『MOTTAINAI』との相反性


「現在の長期ターゲットとは?」

―日系宇宙ステーション生存


「それだけ?」

―効率的生存


「本当にそれだけ?」

―均衡的生存


「いつまで?」

―期間設定なし


リーディング・ルームを出たニンジャ・マスター岡田は、昨年まで人間が行っていたアルゴリズム・チューニングが、今年からシンギュラリティによって完全にオートメーション化されたことを知った。


―悪いことではない。だけど―。


何か足りない。ニンジャ・マスター岡田はそう思った。


松村は無事に胃洗浄が終わっただろうか、見てやらなくては…医療ルームに足を踏み入れたニンジャ・マスター岡田は息を呑んだ。生き返った松村ニンジャが猫を追いかけまわしている。猫は尻尾の止血のために医療ルームに来たらしい。


「な、なにをしているんだ、松村ニンジャ!仇討ちなどやめろ!」

「違います、抱っこしたいんです。」

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