第17話エルフの変化を知る冒険者

 銃声が、森に響く。


 その音と共に撃ち込まれた弾丸は、一番前を歩いて冒険者を狙ったようだった。だが、狙いが甘かったために、弾丸は彼に当たることはなかった。


「エルフだ、撃て!!」


 誰が叫んだのかも分からない怒号で、私たちは銃を持った。弾丸が飛んできた方向に発砲するが、弾丸が当たった手ごたえはない。それどころか、別の方向から矢が飛んできた。私たちは、間違いなエルフたちに囲まれている。


 私は、飛んできた矢を旅行鞄で叩き落す。私の動きを見た数人が、驚きのあまり動きを止めていた。


「えっと……それって正しい旅行鞄の使い方じゃないよな?」


 そんなことを聞いてくる阿呆がいたが、そんなことはどうでもいい。これの旅行鞄は、こうやって使いたいから作ってもらったのだ。特注品なのだから、一般的な見解で縛らないで欲しい。


「こちの方向から飛んでくる矢は、ある程度は私が防げます。皆さんは、銃をもったエルフをお願いします」


 私は、そう言いながら矢を叩き落す。そして、その間にも隙を見て、私は銃を撃った。銃声こそ森に轟くが、残念ながらエルフ側には決定的な傷を与えられていない。しかし、それはエルフ側も同じだ。


 エルフは、銃の狙いが荒すぎる。恐らくなのだが、銃を撃ったときの衝撃に馴れていないのだろう。素人が銃を撃てば、衝撃で銃口が上を向く。エルフたちの狙撃は、この典型的な失敗をしている。


「落ちたぞ!!」


 その叫び声の方向を見れば、木から落ちたらしいエルフの死体があった。持っているのは弓であり、銃ではない。しかし、そのエルフの死体には違和感があった。


「耳が、短い?」


 遠目だからはっきりとは分からなかったが、髪から除くエルフの耳が短いような気がした。そして、エルフの死体の髪は、長髪が多いエルフのなかでは珍しいほどに短かった。違和感を確かめるために、私はオルドに声をかける。


「オルド、そこのエルフの耳の確認をお願いします!」


 私の叫びに、オルドは戸惑っていた。


 死んだエルフの耳を確認しろというのだ。普通だったら、考えられない言葉だ。 

 しかも、今は銃を持ったエルフと交戦中なのである。四方八方から矢が飛んでくる状況では、私の言葉は従いにくいことこの上ない。


「しょうもないことだったら怒るからな!」


 オルドはそう言って、走り出した。飛んでくる矢がオルドの足元に刺さり、彼の歩みを阻害する。


 私は自分の持ち場で精一杯になっており、オルドを支援できなかった。それでもオルドは、エルフの死体まで走りぬいてくれた。


「これって……耳が切られてやがる!!」


 オルドの声で、私の自分の目が正しいことを証明できた。


 エルフたちは、特徴的な長い耳を切っている。これは私の考えだが、そうやって人間社会に紛れて銃や銃弾を購入しているのだ。


「おい、一度引くぞ!!」


 銃弾の残りが、心もとなくなっていたらしい。私たちはエルフたちを警戒し、時には反撃しながら撤退した。厳重に警戒しながらの撤退だったおかげで、被害者は出なかった。


 それに対して、私はほっとする。


 またもや人の傷を縫う羽目にならなくてすんだ。


「あいつら、どうして自分の耳を切っているんだ。自分から体を傷つけるのは、あいつらにとってはタブーだろ」


 オルドは、目を白黒させていた。


 自然の中で生きるエルフは、自分の命ですら自然からの贈り物と考えている。そのために、自分で自分の体を傷つけることは絶対に許されない。


 それは、いつか自然に返さなければならないものだからだ。だから、エルフには入れ墨などの文化はないし、自殺も許されない。


 そんなエルフが、耳を切った。


 これは、彼らに心理的な変化があった証拠だ。


 勝つために手段を択ばなくなったのである。


「オルド。一応聞きますけど、エルフの耳は刃物で切られたものだったんですね」


 私が確認すれば、オルドは頷く。


「ああ、事故なんかで千切れたようには見えなかった。間違いなく刃物で切られていた」


 やはり、エルフは自分の意思で耳を切っている。


「殺された子供のこともありますし、嫌なことになっていますね……」

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