第3話 捜査情報


 僕は第一発見者ということで、警察署へ連れて行かれた。倒れていた人は、その場で死亡が確認されたのだ。


 春日たちは、僕が第一発見者だと刑事に伝えて、

「悪いが、僕たちは先に帰ってるから」

と言って、とっとと帰ってしまった。


 入れ替わりに、明石が駆けつけてくれた。僕が救急車を呼んだ後、明石に電話したから。


 警察署の会議室で、僕と明石は事情聴取を受けた。こういうのは富越山とみこしやま殺人事件(※『神体山(しんたいさん)殺人事件』参照)以来だな。


 僕が刑事に死体発見時の経緯いきさつを話していると、知らない人が会議室のドアを開けて入ってきた。


「明石君が来てるんだって?」

その人が言うと、僕たちを事情聴取していた刑事が立ち上がって言った。

「田中管理官、お疲れ様であります」


 田中管理官と呼ばれたその人は、刑事に向かって頷くと、僕たちに向かって歩いて来た。


「君が明石君?」

 僕に尋ねたので、

「いえ、僕は三上です」

「ああ、ワトソン君ね。じゃあ、君が明石君だ?」

明石は黙って軽く会釈した。


 この人が富越山とみこしやま殺人事件の捜査を指揮した、県警本部の管理官だったのか。そういえば、県都にあるこの警察署は県警本部に近かった。県南部にある僕の故郷の警察署は、県都から遠いから、あの時は管理官がまだ到着してなくて会えなかったんだ。


 結局明石があの事件の謎を解いて、その夜に電話で連絡したので、早期解決になったんだけど、あの後明石は県警にスカウトされたんだっけ。


「あのせつはお世話になったね。こっちの大学に通ってたんだ? 今回も協力して貰えるのかな?」


「いや、まだ情報が手に入ってないので」

 明石は無表情に話しているが、県警のスカウトを嫌がっていたから、内心は快く思っていないのかも知れない。


「死因は撲殺ぼくさつだそうだ」

 田中管理官が学生に向かって情報を漏らしたので、刑事は驚いているぞ。


「後頭部を鈍器で叩かれたらしい。凶器は現場付近からは見つかっていない。死亡推定時刻は今日の午前0時から2時の間。被害者は江藤えとう辰美たつみ、47歳。IT企業に勤務しているが、昨夜ゆうべは一人でだいぶ酒を飲んでいたらしい。職場の部下の話だと、相当酒癖さけくせが悪いそうだ」


 重要な情報まで漏らし始めたので、刑事はオロオロしているぞ。


「同僚に出世争いで敗れたそうで、だいぶ荒れていたらしい。最後は酒場から追い出されたそうだ。それが昨日の午後10時頃。ただおかしなことに、遺体の発見現場は被害者の家とは反対方向だ。現場に出血痕がほとんどなかったことから、殺害されたのは別の場所だったと考えられる。今のところ、掴んでいる情報はそんなところだ。君はどう思う?」


「殺害現場があそこじゃないというなら、靴や衣服に引きずられた後はあったんですか?」

 明石が問うと、

「いい着眼点だ。引きずられた跡はなかったな。ということは、帰る途中で襲われて、殺害された後に車であそこまで運ばれて遺棄されたと思われる」


 明石は黙って考え込んでいたが、やがて言った。

「警察の分析が正しければ、事件は程なく解決に向かうでしょう。ですが、もし間違っていれば解決までは長引くことになります。いくつか別の仮説も考えておいた方がいいでしょう」


 田中管理官はニヤリと笑った。

「やはり君は面白い。その仮説を聞かせてくれ」


「いや、まだ考えを整理している段階です。仮説は実証して初めて真実となりますから」

それ、『ガリレオ』のセリフじゃなかったっけ?


「大学に帰って取り組んでみますので、ちょっと時間をください」

「わかった、君の考えがまとまるのを待っているよ。ぜひ連絡をくれ」


「あっ、それからもう一つ」明石は右手の人差し指を立てて言った。「被害者の身長と体重、それと家族構成を教えてください」


「えーと」田中管理官は、メモ帳を取り出した。「身長は165センチ、体重は50キロ、家族構成は妻と大学生の娘と高校生の息子だな」


「・・・わかりました。それでは一旦これで失礼します」


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