7代目勇者―はたしてこの世界を救えるのだろうか?

酒月 河須 (さかづき かわす)

プロローグ:勇者

『ユニヴァース』

それは、地球とは異なる惑星、異なる生態系。


 大空のどこかには龍が飛翔し、海底には島をも飲み込む軟体生物が存在する。

 輝く宝石で昼のように明るい洞窟や、海底の神殿、氷と火が共存する大地など、地球では理解できない自然現象を列挙すれば、きりがない。


 だが、そんな惑星『ユニヴァース』でも地球と共通しているものがある。

 その一つに人類があった。この圧倒的な生態環境を前にして、人類は滅びるしかないのだが、彼らは二つの大きな武器により、ここまで生き延びることができたのだ。


 一つ目は『知性』。地球同様、獲得してきたその知性で、道具を開発、文明を構築した。

 二つ目が『魔法』。地球の人類とは異なる点である。肉体を強化したり、自然現象を操ることで、苛烈な世界の生物競争に打ち克ってきたのだ。魔法はこの惑星において、すべての生物が持ち合わせていたものではあるものの、特に人類ではその含有量が高い。

 だからこそ、他の生物より非力でも、魔法の力で他生物と渡り歩いてきたのだ。


 かくして、人類は知性と魔法の組み合わせにより、わずか数百年足らずで生物の最上位階層へと駆け上がり、繁栄し続けた。しかし、それは人類以外の生物にとって、苦しむ結果ともなる。


 そんな最中、人類に変換点が訪れる。


 それは、人類が『厄災』と呼ばれている代物。

 とある人は増え過ぎた人類に向けての惑星の自浄作用、『オートファジー』と恐れおののくものもいた。


 厄災は様々な形で人類を襲った。

 闇の空を創り出し、産み落とされた害虫が作物を壊滅させて人を苦しめたかと思えば、天変地異の噴火や津波で人々を屠った。また、高度な戦闘術を手にした人類ですら歯が立たぬほどの怪物が誕生し、国を滅亡させたかと思えば、隕石で国一つが吹き飛ぶこともあった。  

 さらに、死の病原菌で人々は苦しみを与える。その他にも、人々の心に火種を生み出して、人同士の争いを生じさせたのだ。


 強大過ぎる壁の数々に、一つ間違えれば人類は一気に滅んでしまうものばかり。

 しかし、この惑星(ほし)の創造主も無慈悲では無かった。その厄災が起きる度にそこには必ず勇者がいたそうだ。


 勇者は必ず、人類の危機に現れ、人類を導き、諭すものであった。


 初代勇者は、どことなく現れ、国を亡ぼす怪物を退けた。勇者と名乗る屈強な大男を前にして、人々は涙を流す。大男は言った。我、この惑星の者ではあらずと。


 2代目勇者は、慈愛溢れた老婆だった。老婆が祈れば、闇に覆われた空は晴れ渡り、温かい掌をかざせば、作物を死滅させる害虫が地平線の先まで逃げていく。老婆は言った。我は皆と同じ一介の人間である。故に崇拝は求めぬ。ただ皆の隣人としてあるのみ。


 3代目勇者は、無垢な少年。増幅された憎悪で争いあう人々の中に少年は介入し、問いかけた。その問いかけに人類は心を打たれ、和平を結び、争いは終わったのだ。少年は言った。

 厄災を払えば、この世界を去る者なりと。


 4代目勇者は、威圧あふれる眼を持った、老爺の男性。天から落下する巨大隕石を、槍の一突きで灰塵に帰したのだ。老爺は言った。恐れるな。希望を持て。願いの強さが我の力になる。


 5代目勇者は陽だまりのような可憐な10代の乙女だった。乙女は、その笑顔で人々を癒し、人類を脅かす病魔を退けたのだ。乙女は言った。厄災は惑星の防衛機構。故に恨むな。防衛機構を抑制したければ、この星と共存共生を目指せ。さすれば、厄災は鳴りを潜めるであろう。


 そして、6代目勇者は、長髪の細身の青年であった。青年の人知を超えた知能と魔術をもって、天変地異の火山や津波をせき止めたのだ。青年は言った。勇者は望まれることでこの惑星に降り立つ。故に人を見捨てない。今までも。そして、これからも。


 多くの伝説と言葉を残す勇者たち。その姿は十人十色。人々の中で勇者の存在が大きくなっていくことは必然であった。


 六代目勇者の伝説から50年後のこと。

 人類は更なる発展と幾度の厄災における勇者の見識により、次の厄災への対策が構築されたのだ。

 それは、厄災の観測と、勇者の事前召喚という二つの方法である。

 事実、観測者は約一年半後に発生すると思われる厄災を観測し、複数の国家が連携して、巨大な魔法陣から7代目の勇者を召喚したのだ。


 さて、7代目勇者はどんな人物なのだろうか?

 そこからこの物語は始まるのである。


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