第2話 西園寺渚の実力

「ふぅ、今日もいい汗かいたな」


 道場で木刀を振っていた俺はタオルで汗を拭いながら、手に持っている木刀を壁に立てかける。


 俺の名前は『西園寺渚さいおんじなぎさ』。


 現在の日本を支える、4大名家の一つである西園寺家の長男。


 年齢は20歳と若く、黒髪で中性的な顔立ちの男の子。


 7月ということもあり、滲み出るような汗を拭いながら休憩していると、道場の扉が開く。


「お兄ちゃん!そろそろお昼だから休憩しよ!」


 そう言いながら、妹の『西園寺澪さいおんじみお』が道場に入ってきた。


 俺の2個下の妹で、18歳。


 長い黒髪をツーテールに結んでおり、笑顔の可愛い美少女。


 澪の笑顔を見るだけで1日の疲れが吹っ飛ぶくらいだ。


 俺は澪の言葉を聞いて立ち上がり、昼休憩のため、道場を出ようとすると、遠くの方で禍々しい気配を感じる。


 それと同時に、1通のメールが届く。


『南東約8000M先にゲートを確認。敵はレベル1のデーモン10体。西園寺渚はこれの討伐にあたること』


 その通知を見て、俺は澪に謝る。


「ごめん、少し用事ができてしまった」


 俺の顔から、デーモンの討伐依頼だということを把握したのだろう。


「これは仕方のないことだから、お兄ちゃんは気にしなくていいの!」


 澪が気にしなくていいと笑顔で言ってくれる。


「でも、絶対無事に帰ってきてね!私との約束だよ!」


「あぁ!行ってくる!」


 そう言って俺は道場を飛び出す。


 俺は急いで道場を出たため「私にも戦う力があれば、お兄ちゃんの力になれるのに……」と、寂しそうな声で呟いた言葉は、俺の耳に届かなかった。




 道場から飛び出した俺は、妖精と契約したことで得た力を使って服の上から羽を作り、空を駆ける。


 もちろん、妖精の力で風圧はゼロに近い状態だ。


 そのため、向かい風の影響を受けることがなく、飛行機よりも速いスピードで空を飛ぶことができる。


「ふふっ、ホント、かわいい妹さんね」


 空を飛んでいる俺の隣に現れたのは、手のひらサイズの小さな女の子。


 この子は俺と契約した妖精で名は『レスティア』。


 今、服の上から羽が生えて、空を駆けることができるのは、レスティアのおかげだ。


 普段は契約者の身体のどこかに潜んでいるらしい。


「あぁ、俺には勿体無いくらい可愛い妹だよ」


(俺が戦いに集中できるように、いろいろとサポートしてくれているからなぁ)


 そんなことを思っていると、ゲートからデーモンが襲来しているところが見えた。


 近くにいた住民たちはデーモンを見て、四方八方に逃げている。


(レベル1のデーモンが10体ってメールが来てたな。レベル1が10体なら俺1人でも問題ないな)


 ゲートから襲来してくるデーモンにはレベルが存在する。


 レベル1が最弱でレベルが上がるにつれて強いデーモンということになり、現在確認されているデーモンはレベル3まである。


 レベル1とレベル2の違いは、一言で言えば大きさに違いがある。


 レベル1は契約者1人でも対処できるが、レベル2は大きくなった分、パワーやスピードがレベル1と比べ驚異となり、討伐には複数人の契約者を要する。


 そしてレベル3はレベル2のデーモンよりも図体が大きくなることに加え、なんらかの能力を持っている。


 過去、レベル3のデーモンが襲来したアメリカでは、黒いビームのようなものを連発したらしく、20人程度の契約者では討伐することができなかった。


 そのため、人間と妖精の契約率が100%を超え、化け物みたいな力を持つ契約者、『超越者』が出動するまで、たくさんの被害を出した。


 そして、レベルSがデビル。


 知能を持ち、デーモンを指揮することができるため、強さが桁違いとなり、レベルSとなっている。


 デビルは過去に何度も襲来しており、毎回、大量のデーモンを引き連れてやって来る。


 そして、デーモンに指示を出しつつ暴れ、飽きたら自分でゲートを開いて何処かへ消える。


 そのため、デビルを討伐したことは一度もない。


「住民たちに被害が出ないよう、空で戦うぞ!レスティア!」


「ええ。サポートするわ」


 俺の声かけで、俺が愛刀する『雷刀らいとう』へとレスティアが変化する。


 雷刀を持ち、デーモンへ斬りかかろうとすると、1本の矢が飛んでくる。


「ぐぁぁぁぁぁ!!!!」


 その矢が目の前のデーモンにクリンヒットし、断末魔を上げる。


「ナギ、遅い」


 矢が飛んできた方を見ると、俺と同い年で契約者の『南條蒼なんじょうあおい』が建物の上で弓を構えていた。


 青い髪が腰まである美少女で、実家が俺と同じ4大名家ということもあり、小さい頃から交流がある。


 ちなみに胸が小さいので、問題なく弓を使用できている。


「ナギの方が遅かったから後で私のお願い聞いて」


「えぇー、そこまでするほど遅れてない……」


“びゅっ!”


 と、俺の顔の横をものすごいスピードで矢が通過する。


 そして、先程断末魔を上げたデーモンに矢が刺さり、デーモンが消滅する。


「お、おい!俺ごと倒す気か!!」


 俺は大声で蒼に文句を言うが聞こえない振りをされる。


(あいつ、後で覚えとけよ……)


 俺が心の中で決意すると、レスティアから『これはナギくんが悪いわ』と、刀を通して呟く。


(なんだよもう……)


 俺は心の中でボヤキながら、空を駆けて、近くにいたデーモンへ向かう。


(蒼がデーモンを1体倒してくれたから残り9体。避難できてない住民も多いから、できるだけはやく終わらせよう)


 そう思い、『雷刀らいとう』を握り直してデーモンへ斬りかかる。


 俺に気づいたデーモンも、応戦しようと殴りかかってくる。


 それを冷静に躱し、ガラ空きとなった胴体へ数回、斬撃を喰らわせる。


 俺の斬撃で、デーモンは断末魔を上げながら消える。


 それを確認すると、今度は7体のデーモンが同時に俺へ突っ込んでくる。


 それを見て、俺はレスティアからもらった力の一つ『雷』を全身に纏って…


雷閃らいせん


 と、呟く。


 この技を一言で言えば、動きが速くなるだけ。


 だが、それに耐えるための体や脳が必要で、慣れるまでかなりの時間を要した。


 また、長時間使用し続けると、全身の筋肉が悲鳴を上げて、しばらく激痛によって動けなくなる。


 俺は『雷閃』を使って、素早く懐へ入り込み、7体のデーモンを切り刻む。


 時間にして1秒。


 俺は一瞬で7体のデーモンを倒し終え、次の敵へ向かおうとするが、残りの1体は蒼が片づけたようだ。


(ふぅ、今回は上空で倒すことができたから、住民や建物の被害はなさそうだな)


「お疲れ。蒼」


「相変わらず強い。レベル1とはいえ、私がデーモンを1体倒してる間に8体のデーモンを片付けるなんて。これが世界に7人しかいない『超越者』の力……」


「ははっ、ありがと」


『超越者』とは、人間と妖精の契約率が100%を超えた契約者のことを言う。


 契約率が100%を超えると言うことは、妖精の力を100%以上引き出すことができるということになる。


 そのため、超越者は妖精の力を余すことなく使うことができ、化物レベルの能力を持っている。


 俺の場合は契約率が100%を超えたことで『雷』を自由に扱うことができる。


 ちなみに、超越者は一国を簡単に滅ぼすことのできる力を持っているため、世界の偉い人は超越者の確保に躍起となっている。


「『世界最強の契約者』と言われてるナギがここに来るなら、私いらなかった気がする」


 呆れた声で蒼がそんなことを呟いていた。

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