第48話 僕らの青春

「ありがとう、もう平気」

「そうか」


 宿毛が泣き止むのに少し時間が掛かった。

 体感ではそこそこ長かったように感じたが、日の傾きが然程変わっていないところを見るに気の所為だったようだ。


「その……ごめんなさい。制服を汚してしまって」

「ん? 別に気にしてねぇよ。衣服本来の機能の一部だ。それに俺は汚いとは思って無いしな」

「そう……」


 こすって赤くなった目元と恥ずかしさで赤くなった頬を見て、俺は少し複雑な気持ちになった。頬を紅潮させている彼女に可愛さを感じても、その目元に生まれた赤みは己が原因だと思い知らされて、胸が更に締め付けられる。


「それで……松瀬川君、あなたはどうするつもり?」

「どうって? 何を?」

「委員会よ。このまま言う通りに解散する気なの?」

「そうだなぁ……。それも考えたけど、やっぱり嫌だな。同じ学校でいつでも会えるんだろうけど、会う理由がその分減る」

「友達と会うのに理由なんて要らないと思うのだけど?」

「俺とお前ならな。でも俺の恋の相手はこの学校の有名人だ。他の生徒も、あいつの母親も理由無く会うのには反対だろうよ」

「難しく考え過ぎじゃないかしら……」

「これくらいが丁度良いんだよ」


 解散を撤回させるにはどうすれば良いのだろうか……。抗議をしようにも次の保護者会は来年度だし、今すぐにと言っても委員会一つだけで臨時の保護者会が開かれることは無い。

 見方を変えて、我が校の生徒に呼びかけて署名運動でも、と思ったがそもそも相談委員会は非公式の委員会で、まだ公に認知されていない。得体の知れない委員会の存続なぞ誰も気にしない。満足のいく量は得られないだろう。

 あと出来る事と言えば……。


「年度末にある生徒総会で議題として出して貰うか?」

「それは無理じゃないかしら? そもそも、そう言う事を決定する場じゃないって言うのと、教頭もとい学校側が反対しているのだから、認めないと言われればそれで終わりよ」

「だよなぁ……」


 誰も味方になってくれない。学校も、保護者も、他の生徒達も。こんな孤立した状態で、どうやって解決しろって言うんだ。

 頭を抱える俺の視界にある一人の男子生徒が映り込む。


「明院寺……?」

「ん? あら、あの人まだ居たのね。何してたのかしら」


 中庭に面した廊下をスタスタと歩く奴を見たその直後、悩める俺に何かが降りて来た。


「これだ!」

「な、何? 急に。とうとう頭でもおかしくなったの?」

「俺は元々おかしいから良いんだよ」

「ちょっと! 松瀬川君、何処に行く気?」

「悪魔と契約しに行くんだよ!」


 驚く宿毛を置いて、俺は慌てて靴を履き替えて明院寺 道家の眼前へと躍り出る。


「やあ、どうしたんだい? そんなに慌てて」

「明院寺! お前に話がある」

「話? 聞いても良いけど……長くなりそうかい?」

「それはお前次第だ」

「ボク次第ねぇ……。ふ~ん、なるほど。聞いてあげるから、取りあえず場所を変えよう」


 そう言って近くの教室へと入った明院寺。俺も彼に続いてその教室へと入ると、彼は既に教室の中央で椅子に座っていた。


「ほら、そこ座りなよ」


 明院寺に促されるまま、彼の目の前の席に着席する。

 初冬の夕日が俺達と教室全体を赤く染める。そんな真っ赤に染まる教室で、キーパーソンとなるピエロとの対談が始まった。



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