ウィステリア公爵令嬢奮闘記~転生したのは破滅間近の死にゲー世界

地水火風

第1話 公爵令嬢、転生者になる

 前書き

 皆様お久し振りです、若しくは初めまして。また、長編を書き始めました。暫くは毎日更新します。何卒ご愛読のほどよろしくお願いいたします。



「喜べ。お前の婚約者が決まった。恐れ多くも第5王子殿下だ。紋章無しのお前でも婿に来てくれるそうだ。お前が成人したらすぐに婚姻を結ぶ。そしてお前は、はれてウィステリア公爵の位を引き継ぐ。ただし、子が生まれたら直ぐに隠居してもらうがな。紋章無しではどの道、表舞台に出るのは難しかろう。なに、今まで通り、離れて大人しくしておけば悪いようにはせんよ。紋章無しとは言え、ウィステリア公爵家の唯一の直系なのだからな」


 そう言って、下卑たとしか言いようのない、笑い声をあげる中年の男。母の再婚相手であり、私の義父だ。そして、両親と兄の敵でもある。なぜ成人もしていない子供の私が、そんな事を知っているのか。それは私が転生者だからだ。

 子供の頃からこの世界になじめないでいた。それは貴族が支配紋という紋章をもって生まれる中、紋章を持たずに生まれたせいなのかと思っていた。だが、時々経験した事の無い記憶がよみがえっていた。それに見たこともない風景も……

 だが、ここ数年の事件のショックで原因を悟った。それは私の前世の記憶であり、この世界は、転生前の私が開発責任者だった「ダークムーン」というゲームの世界であると。


「はい。承知いたしました」


 私は内心の怒りを押し殺して、しおらしく頭を下げる。直ぐにでもこの男を殺してやりたいが、まだその時期ではない。少しでも同じ空間にいたくないため、そのまま踵を返して、部屋を出る。用が済んだら興味が無かったのか、呼び止められることもなかった。

 私はそのまま別邸の部屋に帰り、公爵令嬢としてあるまじき行為ながら、ドレスのままベッドに横たわった。この別邸に常駐しているメイドは、今は居ない。所謂おつきの人というものも私には居ない。


「よりにもよって、この世界かぁ……」


 私は何度目か分からない溜め息をつく。私の身分は公爵令嬢。先程義父が言ったように婚約者は王子。

 外見は、僅かに毛先にカールがかかった、腰の下まである長い金髪。輝くようなサファイアブルーの瞳。最高級の白磁のような白い肌。キュッとくびれたウエストに、大きすぎず、小さすぎない、理想的なバストとヒップ。回りくどく言うのはやめよう、つまり自分で言うのも何だが、絵に描いたような美少女だ。

 しかもただの公爵令嬢じゃない。前世でこのゲームの開発責任者だった、ある意味特権を使って作成した、所謂チートキャラクター。この世界の魔法で、自分や他人のステータスを見ることができるものがあるが、そこで分かったのは、私が設定した通り、この世界の住人とはかけ離れた、桁違いの……なにせ、自分で一通りイベントを観るために設定した、どんなイベントも楽勝でクリア出来るだけの……能力だった。

 ここまで聞けば、普通の人はラッキーだと思うだろう。何を溜め息をついているのかと思われるかも知れない。

 だが、それには勿論理由が有る。


 先ず第一にこの世界はダークファンタジーだ。しかも前世で死にゲーと言われる部類の……

 第二に私の義父は、この世界の両親と兄の敵だ。だが、それを公にしても裁かれることはない。何故なら、王家自ら公爵家乗っ取りの為に送り込んだ人物だからだ。

 第三に私は紋章無しと呼ばれる、被差別対象者だ。この世界は神の加護の現れとして、人々に様々な恩恵が有る紋章を授かる。産まれた時から左手の甲に現れる者で、一生変わることはない。紋章が無いのはモンスターと一部の奴隷だけだ。もし、一般人に紋章無しの子供が産まれた場合、殺されるか、最下層の奴隷として売られる。人とは見なされないのだ。

 実はそれは、貴族達が作った価値観なのだが、それはそれとして私は、今現在蔑まれる存在なのだ。

 第四に、この大地は神々の祝福を失った世界だ。穀物や果物があふれんばかりにあった世界は無くなり、人々は汗水たらしてようやく日々の食料を得る事が出来るだけの世界だ。そして、その数少ない実りも容赦なく貴族が奪っていく。巷には飢えや病気に苦しむ人々があふれている、そんな世界だ。陽気なファンタジー世界ではない。

 第五に私の真の能力は制限されている。私は主人公ではなく、主人公が条件次第で自分のパーティに入れることが出来るNPCなのだ。真の能力はイベントがクリアされるまで、解除されない。NPCとして実装する時に、自分のイベントを自分でクリア出来たらおかしいでしょう、との部下の意見に、それはそうだと頷いてしまった自分が恨めしい。それでもそんじょそこらの者に負ける強さでは無いのが救いだが……

 第六にこの世界はこのままだと破滅する。しかも仮にゲームと同じように召喚された勇者が活躍しても、隠しエンディング以外は破滅する。そんなままならない世界だ。


 私の前世は日本で生まれアラフィフまで生きた、朝日奈結衣という女だった。そこそこ大きなゲーム会社に勤めていて、プロデューサーとして何本かヒット作も出していた。私の前世での死因は過労死。社運を賭けたゲームの発売直前に、デスマーチが終わり、気が抜けたのか、呆気無く死んでしまった。最後に覚えているのは、軽い頭痛と、傾く視界、私の名前を呼ぶ声である。

 そして、その記憶を思い出したのが2年ほど前、この世界の母が亡くなった時だった。毒殺だった。


「ごめんなさい……もうあなたを守れないわ……せめて、最後の力をあなたに……」


 そういって、母は残った僅かな力をすべて私に渡した。その瞬間、急に頭の中がクリアになり、結衣だった頃の記憶を思い出したのだ。ただ私は完全に結衣ではない。記憶は持っているが、元はこの世界に生まれた公爵令嬢、セシリア・エル・ウィステリアである。そうでなければ暴力など無縁な世界で育った私は、頭がおかしくなっただろう。だが、この世界で育った魂に、前世での記憶が付け加えられた結果、両親と兄の敵である養父を殺す決断が出来たのだ。暴力に対する嫌悪感や道徳観念は前世と比べて、多分極端に低い。

 なぜ、養父が犯人と分かったのか。それは設定上、そういうキャラクターであることを、私が知っていたのが主な理由だ。勿論何かの間違いかとこっそり調査もした。然し間違いなかった。証拠も見つかった。もっとも、制限付きとはいえ、自分のチートな能力のおかげでもあるのだが……直ぐに復讐を決意したが、問題はあの男はただの駒であり、背後には王家が絡んでいると言う事だ。殺して終わりではない。


 チートキャラクターなのに、何を悠長なことを、と思う者も居るだろう。だが私は能力値の制限以外にも、重大な欠点を抱えている。それは、余りに働きすぎると過労死してしまうという事だ。

 普通ゲーム内では何日も寝ずに探索していても、キャラクターに何ら影響が出る事は無い。他のNPCもそうだ。だが、私だけは疲労値、正確に言えば疲労限界値だろうか、というものが設定されていて、0になると死んでしまう。自分で能力値を確認した時もその項目が私だけにあった。勿論、他の者も項目がないといって、眠らずにずっと動けるわけではないが、私には目に見える形でその項目がある。いざという時の事を考えると、そうそう疲労値を溜めるわけにはいかない。その事が私の行動をより慎重にさせていた。



 私が今いる世界はゲーム開始の年代よりまだ前の時代だ。ゲーム開始時私は18歳直前で、今から約2年後だ。成人と共に王子との結婚式が行われる事になっている。その結婚式を潰すのが、私を仲間にするイベントの一つだ。だが、この世界がゲームと同じ歴史をたどるかは分からないし、仮に2年後世界を救う、所謂勇者が現れたとして、私のイベントをやってくれるかどうかも分からない。別にメインストーリーとは関係のないイベントなのだから。それに何より、勇者は死んでしまうかもしれない。ゲーム上では死んだらセーブポイントからやり直しが出来るが、今私がいる世界ではそんな事はできない。そして、死にゲーとして作っただけあって、非常に死亡率が高いのだ。


 そんなわけで、私は勇者を待つことなく、自分で行動を開始した。それは前世の記憶が戻った直後からだった。そして、この2年計画は順調に進んでいる。私は今までの事を思い出し、ニヤリと微笑んだ。それは美しい顔に似合わず、まるで悪役のような笑みだった。





後書き


 面白いと思われたら、ぜひポイントやいいね、ブックマークの登録をお願いします。作者は豆腐メンタルです。皆様のお力を貸していただきたいと思います。

 後、不躾なお願いだとは思うのですが、最初の方はそんなに展開が早くないので、10話ほど読んで頂けたらと思います。よろしくお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る