第6話 はじめてのクエスト

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 右側のカウンターテーブルに行くと、受付嬢が迎えてくれた。この受付嬢からクエストを受注するのか?


「クエストを受けたい。ドブさらいのクエストだ」

「ドブさらいぃ?」

「なんだあいつ、新人かよ」

「よく見たら肩にウサギ乗っけてるな」

「あの弱そうなのがアイツのフォロワーか?」


 外野がうるさいな。


 騒ぐ飲食スペースのサマナーたちは無視する。相手にするのも面倒だ。


「かしこまりました。手続きしますので、ギルドの会員証をお見せください」

「会員証?」


 当然だが、オレはそんなもの持っていない。


「持ってない。無いとクエスト受けれないの?」

「はい。まずは会員証を作るところからですね」


 受付嬢が慣れた手つきで一枚の古臭い紙を取り出す。触ってみると分厚く弾力がある。オレの知ってる紙とはだいぶ違うな。羊皮紙ってやつか?


「これに記入してください。こちらで代筆もできますが、いかがしますか?」

「じゃあ、代筆で」

「かしこまりました」


 そうしてなんとかサマナーズギルドのギルドメンバーになった。そういえば、ゲームでもギルドに着いてから名前の入力があったっけ。


「ソーダ・キョーさんですね。ではこのサマナーズギルドのシステムについて説明させていただきますね」

「スキップ」

「はい?」


 おかしいな。スキップしたはずなのに、受付嬢は疑問顔で固まったままだ。


 もしかして、スキップもまだ実装していないのか?


 面倒だな……。


「もう知ってるから説明はいいよ。それよりクエストを受けたい。ドブさらいだ」

「え? はい。かしこまりました。本当にいいんですか?」

「いいよ」

「そういうことでしたら……」


 受付嬢は渋々といった感じでクエストを受注させてくれた。


「あの、わからないことがあったら、いつでも聞きに来てくださいね」

「ああ」


 そうしてギルドを後にしたオレたちは、依頼されたドブへと向かう。


 ドブには中年の男が待っており、ドブさらいの範囲や報酬の話した。


「にしても、ドブさらいを頼むのが申し訳なくなるくらいえらい別嬪さんが来たなぁ。んじゃま、頼むわ。儂の家はあれだから。終わったら報告に来てくれ」

「わかった」


 男が去ると、さっそくとばかりにクロエたちが話しかけてきた。


「キョー、もしかしてだけど、あーしらもドブさらいやるの? めっちゃ臭くて鼻が曲がりそうなんだけど!」

「必要なことだとはわかりますが、進んでやりたいとは思えませんね……。無論、そういった仕事に従事している者は褒められてしかるべきですが」

「ああ、オレたちはやらないよ」

「「え?」」

「シャドウハンド、来い」


 オレの目の前に影でできた手が二つ現れた。


「じゃあ、このドブを掃除してくれ。頼んだよ」

「ッ!?」

「じゃあ、オレたちは行こうか」


 シャドウハンドたちが器用に手だけで驚きを表現しているのを無視して、オレはクロエとオレリアを連れて歩き出す。


「え? いいの? 驚いてるみたいだったけど?」

「さすがにひどいのでは?」

「いいのいいの。それよりなぜかお腹が空いてきちゃってさ。どっかで食べるつもりだけど、君たちも食べる?」

「それは……」

「食べる食べる! ニンゲンってなに食べるのー?」

「人間は雑食かなぁ」


 手だけだというのに黄昏た雰囲気を出すという器用なマネをするシャドウハンドたちを置いて、オレたちはその場を後にした。


 その後、雰囲気のいいお店のテラス席で食事を終えた。


 クロエはわかりやすくお肉をもりもり食べて、オレリアは菜食主義者のようだった。二人の食事の違いは、二人の体系にも表れている気がする。クロエの方が背が高いし、胸も膨らんでいる。オレリアは小さくて全体的に華奢で胸も絶壁だ。


 これでいてオレリアの方が百年単位で年上だというから驚きだね。さすがエルフ。


「食事を食べてしまった後で申し訳ないのですが、わたくしはこの世界のお金を持っていません。お会計は大丈夫ですか?」


 オレリアがもりもりお肉をおかわりするクロエを見ながら言う。


「ああ、大丈夫大丈夫。さっき倒した冒険者たちがお金もドロップしたし」

「あー……」


 なぜか頭が痛いと言いたげにオレリアは頭を押さえていた。


 そんな感じで食事も済ませ、街を散策しながら地理を確認した後、オレたちはシャドウハンドの元に帰ってきた。


「おー!」

「まあ!」

「やるじゃん」


 シャドウハンドに任せたドブさらいは完璧に終わっていた。シャドウハンドたちは凝り性なのか、必要以上に綺麗にしている感じだ。


「お?」


 オレは足元にピカピカ七色に輝く小石を見つけて拾い上げた。


「それって召喚石かにゃ?」

「え? さっきまでなにも落ちていませんでしたよね? いったいどこから……」

「クエストをクリアしたからだよ」

「?」


 これで手に入れた召喚石は二個だ。召喚は一回で召喚石が十個必要になる。まだまだ先は長いなぁ。


「じゃあ、クエスト完了の報告をして判子を貰ってこようか」


 クエストの完了の証は、依頼人が判子をくれることでクエスト完了の証明になる。それをギルドに見せることで、依頼人がギルドに預けてある報酬を貰うことができるのだ。


 まぁ、オレにとって報酬は召喚石だけで十分だけどね。





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