第三章 暴力
第21話 撤退させるな!
美香子ちゃんの悲鳴というか、絶叫が聞こえる。
「すごい、美香子さん、あんな声、まだ出せるんだ……」
骨の手で耳をふさぎながら、ほのかさんが感心したように言う。
さすが巨大ゴキゾンビだ。ワンワンゾンビの時の二倍の声量だな。
「ゴキちゃん、私さっきちらっと見たけど、わりとかわいかったよ。大きくて黒光りしてた」
桜子は平然とそういった。
ちなみに俺もちょっと見てみたけど、あれをかわいいと言い切っちゃう桜子ははっきりいっておかしいと思う。
まあそれはともかく、作戦会議だ。
「さて、あと二人いるんだけど、あいつらを」
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ! ゆるひてやめてやだやだやだやだ!! ごめんなさぃぃィィ~~~~ィぃぃんんん~~~! やめぇ~~~~~~え~え~ぇええ~ぇええ~~~! ぎぃぃぃやああああぁぁぁぁぁぁぁおおォォヲヲォォぉおお~~~ん!!」
うーん、美香子ちゃん、うるさい。
これじゃ、会話もできない。
「ちょっとあっちの部屋に移動しよや」
ご先祖さまの言う通りに、部屋を移動していく俺たち。
途中でいろんな玄室があった。
大きな大浴場に、プールまであるぞ。
ご先祖様の趣味なんだろうか。
あとでみんなで泳いで遊ぼうっと。
ほのかさんの水着姿を見たいけど、ほのかさん、今はまだ骨だから、あいつらの魂とマゼグロンクリスタルを使って復活させてやらないと。
「うわ、こんな豪華な部屋があるんですね……」
たどりついたのは、なんか、いかにも成金のリビングルーム、みたいな部屋だった。
「ええやろ、ホームシアターつきや、ほら」
なるほど、大画面で和彦と春樹のようすをみることができる。
和彦たちは、ダンジョンの床に座り込んで、持ってきていた水筒のコーヒーを飲んでいた。
お互いに回復魔法をかけあっている。
別に自分で回復魔法を使ってもいいのだが、傷口を直接見ながら
つまり、背中の傷とかは自分で回復魔法をかけるより、誰かにかけてもらったほうがMPを節約できる。
「あいつら、美香子ちゃんを助けにくるかな?」
俺はテーブルの上に置いてあったセンベイをバリバリかじった。
やっぱり米菓は新潟の会社に限るな。
うん、うまい。思わず声が出る。
「正解は!」
「これカメダやで」
★
「よし、撤退しよう」
和彦がきっぱりいった。
「一応聞くけど、美香子は?」
春樹の問いに、和彦は表情ひとつかえずに、
「もうあいつは無理だろ。今頃モンスターのフンになっているか、あるいはアンデッドモンスターになっているか……。いい体してたのに、もったいねえな」
「そうだね、ボクも美香子はもう無理だと思う。それよりも、ボクたち自身が生還することのほうがずっと大事だ。なんか今回の探索、前回とはモンスターの湧き方が全然違う。まるでダンジョンマスターが変わったかのようだよ」
確かに、十万匹を超えるコウモリとか、妙な技を使うフレッシュゴ―レムなど、今までとは全然違うアプローチをしてきている。
「よし、じゃあ帰るぞ。メンバーをそろえて再挑戦だ」
★
「あ、あ、帰っちゃうよ? 帰しちゃうの?」
ほのかさんは画面を指さしながら慌てたように言う。
まー、俺たちの中でほのかさんが唯一命まで奪われてるし、あいつらの魂を使ってほのかさんの命を復活させるっていう計画もあるしで、ほのかさんが一番殺意が高い。
「うーん、ゆうてまだ地下八階や。本当に強いモンスターはここ地下十階まで来ないと呼び出せへん。あいつら、まあまあ強いから、地下八階で呼び出せるモンスターで倒せるかっつーたら、難しいかもなあ」
せんべいをバリバリかじりながらご先祖様がのんびりとそういった。せんべいのくずがパラパラと床にこぼれる。
これって、誰が掃除してるんだろうな……。
「もう一回フレッシュゴーレムを呼んで、桜子さんにやっつけてもらいましょうよ」
「せやな、でもフレッシュゴーレムは呼べるけど、プレステのコントローラーでいけるか?」
ご先祖様が桜子に聞く。桜子は困った顔で、
「うーん、アケコンがあればいけますけど、プレステのコントローラーじゃちょっと和彦くんは難しいですね……」
……こいつ、アケコンを俺におもいっくそ投げつけてきたからな。
そのせいで、アケコンは壁にぶつかってバラバラだ。
「うーん、今からアマジョンで注文しても、山形県だと届くのは明後日なんだよなー。アマジョン、この部屋まで届けてくれるから便利なんだけど」
当日配達なんて夢のまた夢なのだ、山形県。
え、でもちょっと待って、今すっげえツッコミをいれたい気分だけど、
「この部屋まで……?」
「おう、バイトだっていうけど、ちっちゃい女の子がいつも届けてくれるんや。最近はチップ代わりにせんべい渡してる」
「もっといいもの渡してくださいよ……ってか、ここまでたどり着けるってどんな女の子ですか……」
「ま、あたしも別にその子にはモンスターけしかけたりせんしな。適当にダンジョン内に配置してうろつかせてるモンスターについてはしらんけど」
「そんなことより! 和彦くんたち、逃げちゃうよ、どうにかしようよ、ねえねえ!」
ほのかさんがちょっとあせった声でいう。
ま、そりゃそうか、自分の命の復活がかかっているもんな。
それには和彦が所持しているマゼグロンクリスタルが絶対に必要なのだ。
「ご先祖様、あの方法で行きましょう。うまくすれば、和彦たちをこのダンジョンに閉じ込めることができますよ」
「あの方法ってなんや」
「俺の得意戦法ですよ」
ふふふ、と俺はアニメや漫画の悪役を意識した笑い方をした。
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