第10話

 同じ頃、神殿では神官長が頭を抱えていた。


「おい! どういうことだ! 全然治ってないじゃないか!」


「も、申し訳ございません...わ、私の魔力ではそれが精一杯でして...」


「えぇい! お前じゃ話にならん! 聖女アンジュを出せ!」


「そうだそうだ! いくら無料になったからと言ったって、治らないんじゃ意味無いじゃないか!」


「聖女アンジュは確かに金にがめつかったが、払った分はしっかり治してくれたぞ!」


「この際、金を払うから聖女アンジュを出せ!」


「聖女アンジュを呼び戻せ!」


 神殿に集まった市民達から口々にこういった不満が上がっていた。


 アンジュを追放した後にフリードリヒが用意した魔力の高い女達は、そのほとんどが結界を維持するために駆り出されている。


 そのため、神殿での癒しを担当しているのは、集めた女達の中でも魔力が低くて結界を維持するのに貢献できない女達が回されている。


 魔力が低ければ治せる範囲も狭くなる。だから市民達が憤るのは当然の結果であると言えよう。


「この国はもうダメかも知れないな...」


 神官長はそう呟きながら、頭を振って憤慨している市民達に謝りに向かった。



◇◇◇



 アンジュが去ってから一年後。


 ついにフリードリヒは究極の二択を迫られる立場に追いやられていた。結界の綻びは留まることを知らず、日々あちこちから魔物の侵入を許している。


 その度に騎士団や傭兵団が出向き魔物を退治しているが、とても追い付くものではない。被害者は拡大の一途を辿る一方で、国民達の間に溜まった不満やストレスはピークに達しようとしていた。


 この状況を打破する道は二つ。


 一つ目は隣国から聖女をレンタルする。探し続けてはいるが、未だアンジュに代わる聖女が見付からない。もうこの国には聖女は居ないのかも知れない。だったらレンタルするしかない。


 隣国には聖女と呼ばれる女が複数居て、それぞれが様々な任務を遂行している。その中には他国へレンタルするという制度もある。


 ただしレンタル料はバカ高い。国によっては国家予算の半分にも相当する額だ。しかも噂によると派遣されてくる聖女は、高飛車で傲慢でプライドがやたら高くて、更に贅沢の限りを尽くす浪費家であるとのこと。


 王家の財産まで切り崩しているような状態のこの国に、そんな聖女を雇う余裕はどこにもなかった。


 つまりは実質一択だった訳である。


 フリードリヒは断腸の思いを抱きながら、アンジュに頭を下げるためバッドランドへと向かったのだった。

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