第4話

「ま、待て! い、いやその...ちょっと待ってくれ! そんなことをされたら我が国は滅んでしまう! なんとか思い直して貰えないだろうか...」


 最初、頭ごなしに怒鳴り付けようとしたイーサンだったが、立場が逆転してしまった以上ヘタなことは言えない。ここは下手に出た方が良い考え直し、慌てて言い直した。


「お断りしますよ。これまでも散々我慢して来たんですが、とうとう堪忍袋の緒が切れましたんで」


 だがアストンの答えは変わらなかった。


「そ、そんな...」


「ではご機嫌よう」


 そう言って颯爽と身を翻したアストンは、傍らのアイリスを愛しそうに腕で抱きながら、一切振り返ることなくその場を後にした。


 残されたイーサンは呆然と立ち尽くすしかなかった。



◇◇◇



 アイリスと共に自分達の屋敷に戻って来たアストンは、すぐに部下達を集めてこう告げた。


「今日をもって傭兵団を解散する。お前達、本当に今まで良くやってくれた。感謝する。ありがとう。そしてご苦労様」


「はい!? お頭、今なんて!?」


「だから今日で我が傭兵団を解散すると言ったんだ。お前達には退職手当としてこの土地家屋を譲渡するから、売り払うなりなんなりして全員で山分けするように。以上だ」


「いやいやいや、ちょっと待って下さいよ! いきなり過ぎて訳分からんですって!」


「そりゃそうよね。ごめんなさい。父は昔から言葉が足りないから。私が説明するわね」


 戸惑う部下達を見兼ねてアイリスが事のあらましを掻い摘んで説明した。すると部下の一人がこう言った。


「お嬢、話は分かりました。良くこれまで我慢なさってましたね。さそやお辛かったことでしょう。心中お察し致しやす。そして国を出るというお頭の判断は正しかったと思いますぜ。少なくとも俺は賛同しやす」


「俺も!」


「俺もだ!」


 すると次々とそのような声が上がって行った。


「俺はそんなお頭とお嬢にこれからも仕えてぇ。お供しますぜ。お二人がどこへ行こうとも」


「俺も!」


「俺もだ!」


 全員の心が一つになった瞬間だった。数多の戦場をくぐり抜け、固い絆で結ばれた部下達は、誰一人欠けることなく上官に付いて行くと誓った。


「あ、あなた達...」


 アイリスは感激の涙を流していた。


「全くお前らは...給料なんて払えんぞ? ただ働きするつもりなのか?」


 アストンは困ったような、呆れたような口調でそう言いながらも、どこか嬉しそうだった。


 そんなアストンに対し部下の一人はこう言ったのだった。


「それも悪くないですが、いっそのこと独立しちまいませんか?」

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