第13話 血と毒

リュミール王国 アンジェ迷宮伯領 トルム村 ダンジョン前―――


オーン、エーウ、アイの3人がダンジョン前に移動すると、そこにはある程度の人だかりができていた。

これから挑もうと最終確認をするパーティや、彼らに商品を売りつける商人、攻略を終えて分け前の話をしている集団など、千差万別だ。

いよいよダンジョンの前にまでやってきた3人が気合を入れなおしていると、2人組の男が近づいてきた。



「もしかして新人冒険者?」

「あ、はい!そうです!」


2人組の男はブロンズランクの冒険者証を首から下げており、ジャックとエド、と名乗る。



「新人なら、まずは第一層で下積みするといい。

 第一層なら罠もないし、不意打ちをするようなモンスターも居なくて安全だから。

 ダンジョンは下層になればなるほど敵も強くなるし、罠も危険になる」

「オススメは『小鬼ゴブリン』を倒すことだ。

 ちゃちな物しか持っていないけど、数を揃えれば小銭稼ぎくらいはできる」


ジャックとエドの言葉を聞き、3人はそうしようと方針を決める。

そしていよいよ、ダンジョンへと足を踏み入れた。




リュミール王国 アンジェ迷宮伯領 トルム村 ダンジョン―――



「とりゃっ!」

「ていっ!」

「ギャッ?!」


オーンとエーウは小剣ショートソードハンドアックスを振るい、それぞれ『小鬼ゴブリン』を切り払った。

倒れた『小鬼ゴブリン』は淡い光に包まれて霧散し、その場には『小鬼ゴブリン』が使っていた粗末な武器と銅片が転がる。

魔物は死ぬと魔力そのものになって消えてしまうが、魔力の幾ばくかが物質化して残るのだ。

その際に残った金属片のようなものを、人は「銅」「銀」「金」と名付け、等級グレードに分けて貨幣として用いている。



「たあっ!」

「ギッ!!」


そしてオーンとエーウの隙間を縫うように放たれた矢が、奥で粗末な弓を構える『弓小鬼ゴブリン・アーチャー』の眉間を射抜いた。

アイがふうと一息をつく。



「これで……7体目くらいだっけ」

「『小鬼ゴブリン』は、たしかそう。

 『骸骨スケルトン』は4体、『豚人間オーク』は1体……。

 ……さすがダンジョン、村とは違ってどんどん魔物がでてくるなあ」


3人は上手く連携して、魔物を倒し続けていた。

しかし『小鬼ゴブリン』はともかく、『骸骨スケルトン』や『豚人間オーク』は新人である3人にとっては中々強敵であり、それなりに手傷を追ってしまっていた。

体力的にも精神的にもそろそろ限界だと、3人は帰路につく途中だった。



「……ん?ね、オーン、エーウ、この『弓小鬼ゴブリン・アーチャー』何か変な物落としたよ」

「え?」


射殺した『弓小鬼ゴブリン・アーチャー』の遺品ドロップを確認していたアイは、きらりと光る短剣を拾い上げた。

オーンは首をかしげたが、エーウが「あ!」と声を漏らす。

レイード武具店で見かけた覚えがある。

非常に高価な武器だった。



「それを売ればすごいお金になるよ!」

「えっ?!マジで?!」

「や、やった!じゃあ早速戻って……」


笑顔を浮かべるアイだったが、突然「トスっ」と言う軽い音が周囲に響いた。

いつの間にかアイの左腕に小さなナイフが刺さっており……何事かと3人が理解する前に、アイは白目を剥き、ブクブクと口から泡を吐きながら膝から崩れ落ち、倒れ伏す。



「アイ?!一体どうした!!」


オーンがアイに駆け寄るが……はっとしたエーウは、咄嗟に盾を構え、全力で振り返った。

直後、オーンの背に剣が突き立てられ、エーウは盾ごと鈍器で殴りつけられ床へ転がる。



「がっ……!あ、あんた……!!」

「お前、結構優秀だな、良いセンスしてる。シルバー狙えたよ」


ダンジョンの前で出会ったブロンズランクの冒険者……エドが、『豚人間オーク』が持つような粗末な棍棒を持っていた。

それを両手で大上段に構えて、床に転がるエーウに振り下ろす。

エドが何度かその作業を繰り返していると、エーウは言葉どころか悲鳴すら発さなくなった。



「な?目ぇつけといてよかっただろ、エド」

「そうだなぁジャック、一獲千金狙いならやっぱ第一層だよな。

 『小鬼ゴブリン』が希少品レアドロップを落としてくれるならそれでよし。

 もし初心者狩マンハントしたところで魔物の武器使っとけばバレやしねえし。

 ま、ただほどほどにしねえとな。あんまり売ると流石に怪しまれる」

「おう、んでこっちの女どうするんだ?麻痺毒使ったんだろコレ?」

「ああそれな、実は……」

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