9://ひとまず


 入港した灯里たちは、一般ルートとは異なるルートに隔離され、入念なスキャンを受けたのちに機体から降ろされ、入港管理局の中で書類を書いていた。

 灯里はデスクの向こうに座る、担当の黒人の男性に話しかける。

 

「あの……実質的に、身分証も持っていない人を条件付きとはいえ入港させてるのって、このステーションは結構寛容なんですね」

「ん? ああ、まあ誰もがきちんとした書類一式を持ってるわけでもないからな。それに遥か別の銀河にもなれば証明の形式が全く役に立たなかったりもする。だからある程度ゆるくやってるってわけだ。こうやって臨検もしているわけだし」


 それにある程度緩い方が入港料が儲かる、とつぶやく。


「なるほど……、と、二人分の書類、できました」


 見ず知らずの宇宙にも関わらず、提出用の書類が宅配などでよく見るカーボンコピー機能付きの用紙だったことに少し親近感を覚えつつ、書類を渡す。

 いつの世も最終的に信じられるのは手書きの書類ということなのだろうか。


「はいよ……アカリに、アオ、と。ところで、その嬢ちゃんは一体何者なんだい?」

「うちのオペレーター……です。ね、アオ」

「う、うむ。相違ない」

「まあ……身元知らずの女の子が一人から二人に増えたところでこっちの問題じゃない……か。アマガサキIIIは基本的に安全な中立ステーションだが、あんまり治安の悪い区画に行くんじゃないぞ」

「ご忠告、ありがとうございます」

「じゃあ、これが一応の身分証だ。これでだいたいの宙域のステーションには入れるようになる。……問題を起こさなければな」

「気をつけますね」

「信用度ランクは最低からスタートだ。入れない場所も多いから気をつけるように」


 そう言って、渡された二枚の金属製のカードと書類の写しを受け取る。白くすべすべした手触りで、中には数個のチップが埋め込まれている。

 書類のアナログ感とは正反対のおしゃれなカードに、上機嫌になる灯里。こういう細かなアイテムに職人のこだわりを感じると嬉しくなってしまう性質なのだ。

 

 

 

 駐機されていたシロに戻ってきた二人は、晴れて開放されて一般ドックのほうへやってきていた。

 賃貸の料金などを確認したが、灯里たちにとっては全く問題なさそうだ。

 灯里が持っているVoV時代の資金は残念ながらこの宇宙では使えなさそうだが、その代わりに戦闘相手の宙族たちの戦利品からたんまりとせしめてきたからである。

 彼らは下っ端なりにかなりの金持ちであったようで、このステーションであれば年単位で停めておける程度の資金を獲得することに成功していた。

 灯里は最終的に、駐機のほかに自分たちで整備を行える多目的整備ドックを借り、シロを停止させたのだった。

 

兵装複製機レプリケータがあって助かったよ、シロの武器はこのへんの武器屋じゃ見つからなさそうだったから」


 灯里は入港待ちの間にアマガサキ内で有名らしい武器屋複数店舗のカタログを取り寄せてチェックしていたのだが、エネルギーソードはともかくリボルバーマシンガンがどうしても見つからなかったのだ。

 その点で、設計図と素材さえあれば兵装を複製し生産できる兵装複製機が備わっている整備ドックがあったのは僥倖だった。

 

「その複製とやらはどのくらいかかるのかや?」

「さっき装置を起動して確認したら、19時間くらいだって。シロの電装系の自己修復も23時間はかかるって言ってたし、少なくとも2泊くらいはすることになりそうだね」

「ふむ、そういうものか。了解した」

「そういえば……アオはこれからどうするの? 一旦は平和そうなステーションに来られたわけだけど」

「……ぬし、もうわしを見捨てるのか?」

「い、いやそういうわけじゃないって! なにかアテがあるならと思ったんだけど、その感じじゃなさそうか……。大丈夫大丈夫、私が責任持って最後まで面倒見るから」

「……、恩に着る」


 灯里は冗談めかして答えたが、アイオライトの表情は憂いを帯びたものだった。

 こんな広い宇宙でただ一人、頼れるものもないといえば当然だろう。

 灯里自身も元の世界への帰り方など気になるところはあるものの、まずはこの子を絶対に守らねば、と強く誓ったのだった。

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