ドレイク、ブレス、フラグ建築

 大型トラックが急ブレーキをかけたような、ドレイクの叫びが野に響く。

 とはいえそれに反応するのは虫や獣たちだけだ。

 人間はいない。

 僕達以外には。


 逃げるべきか、とも考えたけど、この巨体から逃げ切れるものだろうか。

 歩幅は違うし、翼はあるし、火も吹く。

 マスターの魔法障壁マジックシールドなら火は防げるかもしれないけど、アレを張ってる最中はたしか動けないはず。


 それに、できれば逃がしたくないという気持ちもある。

 ここにドレイクが居るのが作為的なものならば必ずココに証拠があるはずだ。

 もしくはこのドレイクこそが証拠そのものになりうるかもしれない。

 討ちたい!

 できるものなら……だけど。


「これだけ距離があると粉薬も水薬も嗅がせられないな」

「そもそも炎があるんじゃあ届くまでに燃やされるね……」

「マスター、なにかいい魔法ないんですか!」

「魔法学校出身だが魔術自体は専攻じゃなかったんだ、おかげで使える魔法は魔法矢マジックミサイル火球ファイアーボール急速冷凍フリージング魔法障壁マジックシールドだけ。こんなことならもうちょっと真面目に魔術の勉強しとくんだったかな」

「知識というのは後になって、持っておくべきだったと後悔するものだよね。未来の憂いを減らすためにも勉学は励んでおいて損は……」

「人生訓を語ってる場合ですか!真正面に敵がいるんですよ!!」

「いやマジロ君、正面だからまだ大丈夫なはずだ」

「!?」

「あのドレイクは目の付いてる位置がワニのそれに似ている。そしてワニの視界に入らない場所死角は真正面なんだ」

「なんと!」

「無論さっきのようにブレスを吐くだろうけど、それだって無尽蔵に吐けるわけではあるまい。その証拠に、さっきブレスを躱されたのを警戒してヤツは吐くのを躊躇ためらっている」

「なら、このままでいれば……?」

「そういうわけにはいくまいね、むしろこっちが追い詰められていると言っていいと思うよ」


 ドレイクが体を右に向けようとする。

 僕らもそれに合わせて右に走る。

 ドレイクが体を左に向けようとする。

 僕らもそれに合わせて左に走る。


 これだけでも余計な体力を消耗させられてしまう。

 なるほど確かに、持久戦ではこちらが不利だ。


「背面を取ろうだなんて思わない方がいいだろうね」

「さっき尻尾で壁壊してたしな。死角じゃないなら尚更だ」



 ドレイクがブレスを吐いてくる。

 今度は躱さずにマスターの魔法障壁で防ぐけど、そのマスターの魔力だってブレスと同様に無尽蔵じゃないはずだ。


「早くなんっ!とかっ!しろおおお!!」

「マスター!すまないがブレスが終わったらすぐに火球を撃ってくれ!」

「図々しい奴め!あとで覚えてろ!」


 先生の指示に従って、ブレスの吐き終わりに合わせて障壁を解除し、火球が放たれる。

 ドレイクの頭めがけて飛ぶ火球だが、ドレイクはそれをかわさず耐える。

 やはり効果は薄いようだ。


 が、狙いはそこじゃない。


「フゥンッ!!」


 飛ぶ火球に合わせて先生が駆けていたのだ。

 火球で視界を遮られたドレイクの、開いたままの口に、先生の槍が伸びる!

 だが、なんということか!

 槍の刃先が口内に刺さるより先に、ドレイクが槍の柄に噛みついて止めてきた!

 それを見て僕は



 走った!


「まあ、そうだろうね!」


 先生が、槍の柄を噛むドレイクの口にガッシリとしがみついた!


 僕もワニについてどこかのテレビ番組で聞いたことがある。

 ワニは『噛む力』は非常に強いが……

 『アゴを開く力』はとても弱いのだと!

 小さいワニであれば、アゴを押さえられるだけで身動きができなくなるほどだと!


「ヴールルルルルルルル!!」


 ドレイクが、バイクのエンジン音のような唸り声をあげながら、体を振って先生を落とそうとする。


「だああああああ!!」


 僕はその隙をついて、ドレイクの喉元あたりをナイフで刺し開いた!


「~~~~~~~ッッ!!」

 文字に書けないような、ドレイクの悲鳴。


「どけっ!」


 いつのまにか僕の背後にいたマスターが、傷口に杖を突っ込む。


「火球!」


 傷口から炎が噴き出し、肉が焼ける。

 悶え、暴れるドレイク。


 やった!

 

 と思った。



 そんなコテコテのフラグを建ててしまった事を後悔することになる。

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