もやもや、ウジウジ、酒、酒、男

 馬車はなんとか都市の警備範囲内に逃げ込めた。

 この中で起きた騒動は衛兵の管轄として扱われるので賊とて迂闊に手が出せないはずだ。

 と、マスターからの受け売り。


 とりあえず一安心ではあるものの、乗客が僕らを見る目がチクチクと刺さる。

 巻き添えにしやがってと言いたげだ。

 実際、巻き添えだと思うのでなにも反論できない。

 こういう視線はいつになっても慣れない。

 被害者が加害者を睨む目。

 僕だってしたくて迷惑かけてるわけじゃ……。

 胃がグルッと苦痛を訴えるように音を鳴らす。


 丸まる僕の背を横に、先生が後ろ手を組んで

 堂々と立って声を張る。


「どうも失礼しましたっ!!!!!!」


 その声の大きさに睨んでいた乗客も僕も呆気にとられる。


「失礼しました!」


 マスターも続いて謝罪し、驚いたままの僕を杖で小突く。


「あ…すみませんでした!!!」


 僕も声を張る。

 乗客たちは互いの顔をチラリと覗いたあと、ため息を吐いて気の抜けた顔で大馬車を降りる。


「マジロ君~、反論はきちんとすべきだよ~。自分の気持ちに整理を付けるためにもね」


 困ったやつだという顔の先生。


「反論って……ただ謝っただけじゃないですか」

「謝罪だって反論さ!論破が目的ならその限りではないが」

「そうですかねえ?」

「生きづらそうな考え方してるなマジロ。上手い負け方、上手い媚の売り方を知るのも大事だぞ、そのためにアタシみたいな女は着飾ったりするんだ」

「僕は女じゃないですし……」

「顔だけなら似たようなもんだろ、お前も着飾れ、媚びろ」

「何に媚びろってんですか!」



「スッキリしたかい?」


 先生が聞いてくる。


「あ……」


 心配してくれてたんだ。

 そう思うと、さっきまでウジウジしていた自分が恥ずかしい。


「すみません」


 と、つい口からこぼれる。

 マスターにまた小突かれた。


「違うだろ?」


 またキョトンとする僕。


「ありがとう、だろ?ホラ、笑顔で!シャキッとせい!」


 激を飛ばされ、背筋を伸ばして頭を下げる。


「あ、ありがとうございます!」


 フフ……と先生が微笑んで返す。


「よし、マジロ君が元気になったし、いざ鉱山都市 ラウホステイン!」


「「おーっ!!」」



 街中に入ってみると、街を流れる川に沿って小さい線路が敷かれていた。

 おそらくは鉱山で採掘した鉱石を輸送するトロッコ用の物だろう。

 街道を歩く人の中にも、土と汗にまみれた服にムキムキの腕を持つ、いかにも工夫こうふらしい見た目の人がちらほらと。

 以前の街とはまた違った雰囲気をどことなく感じる。



 先生がヒゲを弄りながら思案する。


「街に来てまずやることは……」


「宿探し!」「情報収集!」


 僕とマスターで意見が分かれた。


「気持ちは分かるがマジロ、賊がアタシたちを発見したからといって、敵がすぐにケツまくって逃げるとは思えん。むしろ簡単に場所を移せないからこそ賊を雇って移動を封じようとしたと思うべきだ。まずはしっかりと拠点を構えて、それからでも遅くはない。」

「ですが!逃げられないにしても痕跡を消すことはできます!こちらが時間をかければそれだけ足取りを追うことは難しくなってくるでしょう!その間にまた刺客を送り込まれて危険な目に会って……そうなる前にせめて痕跡を見つけてからでも!」

「頑固な奴め!主人の命令だぞ!」

「こっちは命と世界がかかってるんです!」


「「むむ……!」」


 睨みあう僕とマスター。


「先生!」「ヤマガミ!」



「「意見を!!」」




「いやあ~ジイさん!いいのかい、いきなり酒を奢ってくれたりしてさ!あとでカネ返せなんて言わないでくれよ!」

「ハッハッハ~!当然じゃないか兄弟ブラザー!いやしかしこの肉美味しいねえ!この国ならではの味付けっていうのかね!?元気の出る味してるよぉ~!あ、給仕ウェイター!こっちのお兄さんたちにエールおかわり!私はハーブティー!ジョッキでね!!」



「「知らん人と呑んでる上に勝手に奢ってるーーー!!!」」

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