君が消えるまで、私は花を愛でよう

ノクアム

邂逅

プロローグ 月白髪の少女

「ただいまー」


 いつものように学校から帰った俺、時庭ときにわ ゆたかは靴を脱ぎながら帰りを知らせる。

 そこそこ綺麗な一軒家に住むのは俺と唯一の肉親であるじいちゃんだけだった……つい最近までは。

 

「ゆたかぁぁ!」


 俺の声に真っ先に反応したのは渋い男性の声ではなく、綺麗な女性の声。

 現れたのは、満面笑みを浮かべて月白げっぱくしょくを靡かせた碧眼の美しい少女。両手を広げながら駆け寄ってくるその姿は、まるで幼子のようだ。


 彼女の名は白花しらはな


 俺にとって彼女は赤の他人だが、今は訳あって同じ屋根の下で共に生活している。

 そんな彼女は勢い良く俺に飛びついては腕を背中に回した。


「ぐえっ! 白花……苦しい」

「ゆたか! ゆたか!」


 彼女に俺達の言葉はほとんど伝わらない。

 更にどういうわけか、最近まで服を着るといった常識すらも持ち合わせていなかった。


「白花、そろそろ離してくれ……」

「えへへ……ゆたかぁ〜」


 俺の頼みを理解できずに白花は抱き着いたまま、俺の胸に顔をうずめながら、とても幸せそうな顔で頬擦りをする。


「ゆたか、ゆたか」


 何度も俺を呼ぶ彼女に思わず口角が上がる。


 彼女と共に生活するようになったのはつい10日程前の事だった。

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