夢が降る夜に ~おじさんが地球とそっくりな世界でかわいいポメラニアンさんと一緒に美しい景色と美味しい料理探しの旅をします~

Coppélia

第1話、星に願いを

別に、何がある訳でもなかった。

ただ、ただ、暇だった。昨日も今日も明日も。


単なるパチンコ帰り。勝ちもしなけりゃ、負けもしない。俺の人生はそんなのばかり。


高専出て、仕事探して東京に出てきたけど、学卒じゃないからと、関東平野の端に飛ばされて、今や趣味はパチンコ。


東京のライブハウスとかで仕事を片手間に、ミュージシャンになってやりたかったけど、日々の生活に埋没して辞めてしまった。埃を被っているギターは夢の残骸。


クルマに乗り込んで、どっかり座る。景品を後ろに投げ込んで、タバコを咥える。


それなりにモテたけど、好きになった奴を口説き落として、子供達もいる。家もあるし、仕事もある。役職もあるし、部下もいる。


不満はそれなりだが、まあ、別にいい。

そんなありふれた俺は、運転席でハンドルにのし掛かりながら、フロントガラスから星を見ていた。


俺の顔が少し反射して、それを透過して、星が見える。今日は牡牛座の流星群だっけ。


パチンコ屋も不景気なのか、駐車場に灯りはない。俺がみたのは、ど田舎屋外の駐車場のだだっ広い視界が開けた場所で展示された、Aピラーとルーフが額縁となった「絵」だった。


願いごと。今なら誰もいない。誰かの目を気にして格好つけなくていい。素直になりたい。


「っ、自由がほしい。強くなりたい。俺は、諦めたくない!!」


悔しかった。冷たい目を向けてくる部下も、理不尽な上司も、俺を立ててくれない配偶者も、騒がしい子供達も。壊れないように立ち振る舞い続けるのに、疲れていた。


空が涼やかで透き通った青白い光で満たされた。星が目一杯に光っている。


最期に見たのは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る