でんでらりゅうば

悪村押忍花

プロローグ (竜痘少女の独白)

 その家々によってにおいが違う。それはこの世にまったくと同じ家庭がないように。

 同じ人間がいないことに端を発している。


 ひとりひとり。

 ひとつひとつ。


 雪の結晶の形もまた違うように。


 せいとは、きるとはつまるところランダム性にある。遺伝子からはじまり顔も肌の色も目の大きさも髪の本数も黒子の数もみなすべからく違う。同じ種類の木であっても葉の枚数や幹の太さが違い、同じ個体の木についた葉でさえ形や色は違う。このようにランダム性が生だと定義するならば、死とは均一化された画一的な統一性のことをいうのではなかろうか。


 ひとつとして同じものはない異質な生の中で、死だけがまったく同じなのだ。であるなら完璧な生などなく不完全な死などない。生は千変万化、死は不変無化のことであり不老不死こそが最も死に近いともいえ、反対に死にゆくときこそが最も生に近いといえる。皮肉な話だ。



 空には灰色の厚い雲が覆い被さり地面は純白に埋まっている。とある少女はベッドから半身を起こすと、ガーゼマスクの位置を調節してから窓の外にちらつく白くて小さな物体を見つめていた。

 そして微笑む。


「まるで雪みたい」


 といっても、少女は本物の雪を見たことがない。

 しかしだからこそ雪を待ち焦がれているのだ。

 自身の名前の由来にもなっている雪。

 でも残念ながら本物の雪は時間が経つととけてしまうらしい。

 ならば、まさしく雪はわたしそのものではないか。

 わたしはかごの鳥だ。

 何も変わらずに、何も変えられずにこの畳の上で死んでいくのだろうか?

 もしくはもう死んでいる状態なのかもしれない。でもそんなのは御免だ。

 しんしんと、ただ少女は待ちわびている。


「メリークリスマス」


 少女はいまだにサンタクロースを信じていた。

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