第3話 この男、割と私の神経を逆撫でるのが得意のようである



社畜の休日の起床は遅い。

毎朝早くに起きて出勤する身としては、休日くらい寝たいのが本音というもの。

そう、寝たい――のだが。



「やぁ、おはようレディ。きちんと起きれたね」



ただいまの時刻は朝9時。私が目を覚ませば、左隣にこいつはいた。

私を「レディ」と呼び、朝から胡散臭い笑顔で王子様対応をするこの男はある


つい2日前に私の前に突然現れた思念の集合体だが、本人曰く彼は私の妄想らしい。

まだ2度しか寝床を共にしていないが、こいつの朝は大体早い。


平日も私が起きる前に起きていて、先日寝坊しかけた私を起こすぐらいには早起きは得意である。


さて、そんな睡眠が大好きな私が早起きした理由はただ1つ。推し活だ。


現在30歳の私だが、小学生の頃にある恋愛シュミレーションゲームにハマって以降、いわゆるオタクと化した。


今はそこそこ推し活は落ち着いているものの、今回ばかりはどうしても推しのために貯蓄を削らなければいけない。


―—なんてことを毎回抜かす私の推しは、昔から大分マイナーなキャラばかりだ。


他の同志たちから「そいつって誰だっけ?」と確認されることはほぼお決まり。それゆえに公式でもグッズなど販売されること自体あまりない。


ところがだ、今回ばかりはアクリルキーホルダーが発売されるとSNSで見た瞬間、私は当然すぐに予約をした。


受注生産なため、前払いということで今日、そのアクリルキーホルダー代をコンビニまで払いにいくというのが本日のミッション。


早起きをしたのは、この後手をつけなければいけない資料の確認が残っているからだ。


休日だというのに、持ってきた仕事で疲弊した後に、近所とはいえコンビニまで行くのは重労働極まりない。


そのため、さっさとコンビニに向かうのだが、なぜか或もコンビニに行きたいと駄々を捏ねた。


どうせ断っても犬のようについてくるだろうからそのまま或を放置し、私は近所のコンビニに向かい、すぐさま料金の支払いを済ます。


コンビニで所用を終わらせた後、帰って仕事にとりかかるか――と忌々しきスケージュールを目の前に思わず私は生気を吸い取られていく。


そして、ユラリと虚脱した体が揺れた瞬間のこと。



「レディ」



私を呼ぶ声が、なんとも明るい声でさぞ憎らしく耳を撫でる。


正直、或が私を『レディ』を呼ぶのは謎ではあるが、未だその謎を聞く勇気など私にはない。


ただただ或とは、あの日誘惑に負けたからといった気持ちで同居人を演じている。

兎にも角にも私はさっさと帰るぞと身に纏う気で訴えつつ、或の言葉を雑に掃う。



「なに?」


「あれって、なんだい?」



或が指を指したのは、いわゆる百貨店だ。


幸か不幸か、実家から少し歩けば、周囲一帯にはそれなりに生活が出来るだけの店がある。


ましてやあれだけ全国的に展開されている百貨店であれば、田舎であろうが都会であろうが大体どこにあってもおかしい話ではない。


正直私は帰りたいわけだが、背後から或が目を輝かせているのが伝わってくる。


なぜだ。なぜなのだ。やはり私の妄想だから、己の心を読むがごとく簡単に意思が伝わるのか?


背後で尻尾を振る或を察知した私はそのまま帰路を辿るのではなく、数十メートル先にある百貨店へと足を運ぶことになる。


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