23日目:セミにスルメに洪水に

 4日目の朝である。

 今日もまたまたお風呂から始まる合宿生活。優雅なことこの上ない。

 だが、一方で今朝は「おかたん」からのおはようメールがない。

 昨日も夜は電話もなかったし、、、

 ひょっとしてご臨終か?と心配しながら、朝一で『おはよー元気かー?』のメールは忘れない。これぞ、できる夫の嗜みである。

 さてさて、今日も座学だぞ、と席につくと、ちょうどいいタイミングでスマホが鳴動する。

 『 おはよー昨日は大変だったぜ。寝る前にセミ(以前も書いたかもしれないが、セミとはおむつ替え時におしっこを飛ばされる事象のことを言う隠語である。本家本元のセミは上空からのさながら爆撃機による投下であるが、こちとら立派な放物線まで描くミサイルである。被弾したときのダメージたるや、「おかたん」の愚痴が一つ増えるほどである)されて、なんとかおむつでガードはしたんだけど、結局お着替えになり、おっぱい飲むのも今日一下手くそで、全然寝てくれないし。。。でも、2時からさっきまでは寝てくれたから、よかったよ』

 とのこと。まとめると、寝落ちしたらしい。まぁ、元気そうで何よりである。

 そんな他愛のないやり取りを経て、今日も今日とて講義が始まる。講義、とはいっても、今日からはグループワークとなる。外部講師を頼んでのそれとなるのだが、、、

 っていうかさ、前の職場でも思ったけど、なんでこういう研修は外部に投げるのだろうか?

 講師の方はそりゃぁ、素晴らしい経歴をお持ちの方が多く、その豊富な人生経験を講義に転嫁しやすいのはわかるのだが、、、如何せん即仕事に役立つ教訓的な指導という訳でもなく、かといって現場に即した研修なんてできる訳もない。結果、ふわふわとした中身の少ない一般論的な研修になってしまうケースばかりを見てきた「ボク」としてはそう思わざるを得ない。

 そして、今回のメニューはというと、、、

 ま、そらそうだよなと言わざるを得ないが丁度6年前、元職場でやらされた内容とほぼ一緒。礼の仕方から始まり、名刺の渡し方だの、報連相の重要性だのと続いていくというメニューのようだ。まぁ、期待できそうにないところが期待通りよね。

元より、そこら辺は一周周回済みのおじさんとしては、まー舐めプ上等といったところであった。


 で、あっという間(?)に、お昼。

 まぁ、正直期待通りの内容ではあった。

 挨拶の時のお辞儀は何度の腰の曲げ具合だとか(腰曲がらないっつぅのに!)、名刺の渡し方はこうだとか、言葉遣い、漢字遣いはこうだとか、、、まー疲れる(色んな意味で)時間ではあった。

 あったのだが、「ボク」的には疲労感はたいしてない。というのも、「ボク」はこういう対人系の研修が意外(今まで読んでくれた方が「ボク」にどのような印象を持っているかは不明だが、え?出不精で引きこもりの社会不適合者?ザッツライト!その通り)と得意だからである。

 まぁ、どのくらい得意かと言えば、講義中、あまりの眠気に抗うため、ネコの絵をテキストの隙間に一生懸命書いていた所為で、何も頭に入っていない状態で急に、

 『 じゃぁ、この名刺交換を誰かに実演してもらいましょうか。えっと、じゃぁ、そこの「おとたん」さんと××さん!』

 と指名されても、すっと何食わぬ顔で

 『 ○○事務所の「おとたん」と申します。この度はよろしくお願いいたします。。。はい、頂戴いたします。』

 ってな具合で、さらっと終えてしまえるほどに。そして、お隣の女の子に

 『 「おとたん」さん流石ですね、やっぱり一度社会人経験のある人は違いますね!』

 と小声で褒めてもらえる程度には得意なのである(え?鼻の下?伸びてないよ?ちょっと、『でへへへ、誉められちゃった!』と心の中でガッツポーズしただけで、ちゃんとポーカーフェイスよ?ホントよ?)。

 まぁ、緊張からの気疲れがないかと言われれば、そういう訳でもないが、緊張を適当にごまかすスキルはかなりのレベルで身についているし、何より踏んできた場数が違う。それに何より、新社会人でキラキラしているみなさんとはモチベーションが根本的に違うのだ。一切のミスなく乗り切ろうとする若人と、たかが研修でしょ?ミスっても何のダメージになる訳じゃなしと舐め腐っているおっさんでは、研修に向けて築いた心の防壁の在り様が違うのである。

 なので、気疲れの所為で昼食のご飯がまずくなるなんてことは一切なく。。。研修のあれこれを反省しあう若人を遠目に見ながら、美味しく昼食を頂いたのだった。因みにこの日は、研修の話題で持ち切りだったせいで、「史たん」自慢タイムが訪れることはなかったのだが(べ、別に、自慢したいからって、夜なべしてフォルダの整理なんてしてないんだからね!)。


 さて、平和なお昼も過ぎ去り午後。

 まぁ、グループ活動なので、発表や実技などもあり、寝てしまうほど退屈な時間ではなかったものの、どこでもやる新人研修メニューが延々と続くだけで、あまり目新しいものは得られないまま、終了となる。

 ま、そらそうだよね、新人って、なんてこんなものだよね。

 というか、「ボク」程度の経験年数でもこう思うのだから、本当の中途採用枠のミドル達からしたらもっとこう、思うところもあるんだろうなぁ、なぞと思いつつ、部屋へと引き上げる。まぁ、思っただけで、仕事モードを解除した「ボク」が他の人とこの話題を論じるなんてことはない訳だが。


 そして、やってきました!最終懇親会。

 まぁ、明日夕方で解散な訳だから、懇親を深められるのは今夜が最後になる訳で(当然仲良くなった人同士で、『終わった後、駅近で飲もむ?』なんてノリが発生するという都市伝説を聞いたこともあるが、、、まぁ、「ボク」には一切関係のないことだ)。。。みんな楽しそうだ。

 「ボク」はと言えば、相も変わらず壁のシミに徹している。

 ってか、さ、自分でも思うんだけど、、、

 『 ホントにさ、来て惨めな思いをして自虐に走るくらいなら、勇気をもって断って来なきゃいいじゃんね?マジで?』

 『 だってぇ、寂しがり屋なんだもん。『行きましょう!』って言われたら、うれしくって断れなくなっちゃうんだもん。』

 『 もん、じゃねぇよ、もん、じゃ。いい年こいたおっさんだろ?君は!』

 『 あーおっさんっていっちゃダメなんだ~ぶ~ぶ~』

 なんていう、本当に何の意味もない脳内会議で時間をつぶすこと数時間。どうにかこうにかこの日も地獄を乗り越えることができたのだった。


 因みに「おかたん」からは飲み会の前に電話が来ていた。だから、会場を抜け出す口実(だれに?自分に!)もなかったわけだが、、、曰く、

 『 今日も「史たん」は元気だよ~そして、今日は洪水(「史たん」はう○ちがまだゆるゆるな所為で、拭くより洗う方が早い!という精神の元、、直でバケツに下半身を突っ込まれては水洗いをされている。「ボク」的には、なんとも非効率に見えるのだが、「おかたん」の故郷では主流らしい。で、「史たん」はそれが楽しいらしく、入れられると盛んに足踏みを始めるのだが、そらぁ、お水あふれるよね?というもの)にも、セミにも耐えきったんだよ凄くない?』

 と胸を張る。

 『 それにね、寝がえりとうつ伏せの練習を「ばばちゃん」がさせるものだから、ほら見て、頭と背筋を使って、体の半分くらいは起き上がれるようになったんだよ!すごいでしょ!』

 と誇らしげに一通の写メが送られてくる。

 写メには頭ブリッジ状態の「史たん」が写っていたのだが、、、「ボク」的にはどうみても、網で焼かれたスルメがあぶられ過ぎて、くるんと丸まる、その直前の形にしか見えない。流石に、それをニコニコ語る「おかたん」

 『 何これ?スルメ?』

 とはいえず、

 『 へー凄いねぇ。』

 と相槌を打ちながら、「おかたん」のここ数日の苦労話や、頑張ったことを聞く(決して、話半分に聞きながら、脳内は『そのスルメのほっぺは帰宅次第「おとたん」においしく頂かれたのでした、ぐふふ』なんて言う妄想でいっぱいだったなどということは断じてない)のだった。


 こうしてボッチの親睦会も何とか乗りきり、温泉にゆっくりと浸かった「ボク」の最終日は無事に過ぎ去っていくのだった、、、で終わればよかったのだが、この時の「ボク」はまだこの後イベントが控えていようなどとは知る由もない。

 寝ていた深夜、同室のおじさんが、べろんべろんに酔いつぶれて帰ってた。

 音と匂いで目が覚めてしった「ボク」だったが、同じくたたき起こされたであろう未成年の同室君が介抱を開始し、なんとか事なきを得た。。。かと思いきや、やはりというかなんというか、お腹の中を空っぽにしなければ気が済まなくなったようで、部屋の洗面所をせき止めてしまう。そうなるとまぁ、お酒も知らない子はアワアワするしかなくなってしまう(普通の人は飲む人でも、こういう介抱の経験はないことが多いだろうが、「ボク」は大学の寮がまぁ、あれな人が多かったせいで、よくこういうヘルプを頼まれていたから、得意、、、ではないができないことは全然ないのさ。)訳で、、、結局見るに見かねた「ボク」がその後の処理を全て追うことになってしまったのである。

 ・・・折角、温泉で綺麗な体になったのにぃ、ぐすん(え?毛むくじゃらのぽっちゃり坊主は洗ってもきれいにならない?ええ、その通りですとも。)。

 まぁ、つまりは何歳(その同室さんは40中盤だったとのこと)になってもお酒って怖いね。という話。

 そして、それが縁か最終日を目前にして、何故だか「ボク」の好感度は爆上がりするのだったが、まぁ、それは今更詮無いことである。

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