18日目:初めてのおつかい presented by 「おとたん」

 『 眠い。。。』

 怪獣「史たん」との壮絶な死闘に巻き込まれ始めてから4日が経った。

 「史たん」の隣で寝るのはいつも「おかたん」なのだが、夜中にご飯を求めて泣く声は部屋中に響き渡るため、どうしたって目が覚めてしまう。

 毎夜、最初の1、2回目は何とかかんとかお手伝いをするのだが、深夜を回るとさすがにきつい。だからか、そのくらいの時間からは「おかたん」も、

 『 寝てていいよ?』

 とは言ってくれる。言ってはくれるのだが、まぁ、数時間眠ってはたたき起こされるのは変わりないのだ。だから、もう本当に眠った気がしない。

 結果、日中も常にうつらうつらしてしまう訳で。。。(実際、前の職場位に毎日がデスマーチであれば、うつらうつらする余裕もなかったのだろうが、新人で、しかも来週から一週間もの期間、研修という名の合宿で不在にするとなれば回せる仕事もなく、結果暇すぎて、もう寝るつもりはなくとも寝てしまうにつながってしまう訳である)それも仕方がないかと自分に言い訳を続けた今週だった。


 そんな酷い一週間を何とか騙し切って本日、新歓という名の飲み会が開催される日となった。

 「史たん」を「おかたん」一人に任せて旅立つのは若干というか、かなり気後れすることではあるが、仕事だから仕方がない。とはいっても、時間年次(「ボク」の配属された部署では、飲み会の為に1~2時間年次休暇を取得することが推奨されているのである。不思議~。)を取得して、みんなのご飯の準備と「史たん」のお風呂はきちんとこなしたのだから、そこは大目に見てほしい。

 そんな訳で、バス停へ向かって歩き始めたのだが、、、ここで大きな問題が発覚する。

 何を隠そうバスの乗り方がわからない、のだ。

 どのバスに乗れば正解なのか?料金はいくらか?そもそもバス停ってどこ?など、ちょっと泣きそうになりながらまずは大きい道路を目指して歩くことにする(まぁ、引越ししてからこっちリサーチする暇なんぞなかったしなぁ。)。

 そぅして、泣きながら(もちろん心の中だけで)歩くこと十分弱、なんとか大きい道路に到着!そして、目を凝らせば、幾分先にバス停らしきものが、、、とりあえず、そこまでダッシュで向かうと案の定バス停であった。いや~よかった。行き当たりばったりではあっても、「ボク」はやるときはやる男なのである。

 そして、バスの路線表を見ると、、、なんかバスの路線は1本しかないらしい。これでは迷う訳がない(笑)じゃないかと、数分前の自分を笑い飛ばしてやる。そして、どうやらあと5分もすればバスも到着するらしい。もう完璧としか言いようがない采配である。家を出てすぐの頃は、危なく某「はじめてのお○かい」よろしく、30のおっさんが道路で泣き崩れるところだったよ(汗)。

 とまぁ、そんなこんなで、一人脳内相撲を繰り広げた結果、何の問題もなく(予定時間から10分待っても来ないバスを『え?え?もういっちゃった??嘘嘘』と、挙動不審に待ち続けていたのを除けばだが。)飲み会の場所にはたどり着くことができた。そこからはまぁ、お仕事なので、不得意の営業スマイルをビール瓶片手に披露しつつ、お仕事(飲み会)は滞りなく済ませることができた。

 そして、その成果か、二次会にもお呼ばれしてしまい、内心の面倒臭さをお首にも出さずに、何とかやり切り、ようやく解放と相成った訳であった。。。のだが、さて帰るという段になり、一つ疑問が浮かぶ。

 『 はて?どうやって帰るのか?』

 である。

 二次会が終わった現在時刻は10時半を少し回ったところ。慣れ親しんだ(そこ、黙れ田舎もんとか言わないで!)関東であれば、ちょっと歩いて最寄り駅、そして5分に一本の電車に乗って我が家の最寄まで、、、なんてことが普通にできたのだが、さて、最寄り駅ってどこだろう?

 この本州の外れに近いこの地はそもそも、駅が少ない。

 電車なんか一時間に一本あればいい方で、降りたとしても目的地まで数キロある、なんてこともざらである。

 そんなどうしようもない電車事情だから、関東帰りのボクとしては一瞬帰り方が分からず途方に暮れる。が、そこではたと思いだす。


 そうだ、バスだ。だって、来るときバス使ってたたもんね?ってことは帰りもバスで行けるじゃん!

 だが、そこに思い至ったはいいものの、ここでまた一つの壁に突き当たる。


 バスの時間ってどうやって調べるんだっけ?

 正直、このスマホが発達した世の中で、まさか迷子になるとは思わなかった。

 というのも、贔屓にしているジョ○ダン先生でも、ローカルなバス停名だけじゃ探すことは不可能と来たもんだ。ヒットしないんじゃ、時間も行先もわからない!

 その上、家の最寄りのバス停名なんて忘れてしまったし、J○の駅名なんてわかりっこない!ってか、そもそも最寄りに駅なんてあったか?


 などと一人あわあわしだしたところで、あ、まずは降りたバス停に行けばいいじゃん!と気が付く。どうもスマホに依存すると、そこで解決できなかった場合に思考回路が停止する傾向になるようだ。

 いかんいかん、と自分を律しつつ、行きに降車したバス停へ。その道路向かいあたりに反対路線のバス停はあるはず!


 そして、件のバス停目指してとぼとぼと歩くこと、15分後。

 だが、ようやっとたどり着いたバス停で更なる絶望を味わうことになる。

 バス停について、時刻表を見た「ボク」は思わず、その絶望を口に出してしまう。

 『 ・・・え?

  何?

  終バス9時??ってどういうこと?』

 膝から崩れ落ちる「ボク」。

 もう駄目な気がする。

 これはもう、伝家の宝刀タクシーを使うしかないかも、、、けど、タクシーってどこでどうやって捕まえればいいんだろう?110番?110番かな?迷子の場合はそれでいいんだっけかな?などと思考が暴走しかけたが、そこは人生30年を生きてきたベテラン選手である、いや、待て、くじけるのはまだ早いと自分を律する。そして、正常(?)な思考回路で考え直してみると。。。思い至った。

 まだ望みはある、はず、なぜなら、ここから歩いて30分くらいのところに近隣では最大級のターミナル駅があるから。さすがにここなら、バスとは言わずとも電車くらいはあるだろう。

 よし!っと、歩みだそうとして、足を止める。田舎を舐めちゃいけない。そう、舐めちゃいけないのだ。事前確認をしないで今まで痛い目に遭ってきたじゃないか?

有名な駅名であれば、流石にジョ○ダン先生で検索できるはず。時刻はまだ10時半過ぎ。猶予はまだあるはず。あるよね?と、今度こそ駅名で検索してみる。


 …あった。

 地獄で蜘蛛の糸を見つけたカンダタもきっとこんな気持ちだったのだろう。まだ助かった訳ではないのに、もう助かった気持ちになってしまう。

 いや、いかんいかん、田舎に騙されてはいけない。

 そう思い、終電の時間を確認すると、、、え?次が終電?しかも、30分後?

 もうここからはダッシュである。アルコール?抜けたわ、そんなもん!(後日知ったのだが、本当の終バスは12時くらいにもう1本あったらしい。ただ、深夜バス扱いで普通の市バスではないため、時刻表が違うところに記載されていたのだとか・・・って、知るか!)。


 息を切らせて初春の街をひた走る。

 格好はスーツに革靴(良く分からんが、飲み会は正装が基本らしい。。。田舎ルールが分からん)。当然、速度が出る訳もない。まだまだ寒気の支配が強い気候だが、直ぐに汗ダルマになってしまう。そして、その汗でじめつく肌に吸い付くYシャツが更に速度を奪っていく。自分で言うのもなんだが、ずいぶんとまぁ、酷い格好だったんじゃないだろうか?


 そんな這う這うの体で駅についた「ボク」は迷わず電車の改札に向け駆ける。

 乗らなければ帰れない。

 その一念だけで体を動かし、どうにか電車の券売所に駆け込む。

 え?どこの駅に行くのかって?知らんよ?まずは乗らんと始まらんでしょ!

といっても、行き先によって料金が違うので、切符を買うなら行き先を決めないといけない(S○ica?対応してないよ!)そして、路線表を見る、あと10分!

 行き先は、、、この駅の次は仙○駅、ここじゃない!次は、岩○飯○駅、、、知らん。次が、、、、、、矢○駅!あ、ここ知ってる!なんか車のナビで見た気がする駅名を発見して、一考もせずに即購入。

 更にダッシュで電車まで移動し、何とかかんとか、乗車に成功!

 あっっっぶねぇ。


 飛び乗った車内は、意外なほどに混んでいた。そして、酔っ払いたちの匂いとむわっとした熱気。

 走ったせいもあり、汗が止まらない。

 そうして、電車は動き出す。。。と、何故か熱気が更に上昇する。

 暑い。汗が止まらない。というかもう本当に暑い。暑すぎて降りたい。マジで降りたい。誰か助けて~と、地獄のような地獄に限界を迎えそうになった時、

 『 次は矢○駅~矢○駅~』

 の車内アナウンス。

 そして、耐えること数分。ようやっと停止した電車の降車口から、開くや遅しと外に飛び出す。

 た、助かった~まずは飲み物を、と、普段の節制を忘れてホームの自販機で、水を購入。500mlのペットボトルはあっという間に空になる。

 そこでようやく人心地ついた「ボク」は、人もまばらになったホームから意気揚々と駅の外へ。家の最寄りまでこれた安心感からか、足取りは軽い、、、はずだった。

 駅の外に出た「ボク」は再度ここで固まることになる。


 『 ・・・ここ、どこ?』

 外は闇。

 商業施設の灯はない。

 というか、車の往来も、ない。

 ショッピングモール的なものが遠目にあるのは分かるから、人が住んでいるようではある。が、如何せん暗い。そして人がいない。

 さっき一緒にホームを降りた人達までもが、消えてしまったかのように無人である。

 「ボク」の脳裏に嫌なイメージがむくむくと膨らみだす。

 『 ま、まさか、き○らぎ駅に来ちゃった。。なんてことはないよね?』

 泣きそうになりながら、恐る恐る見たスマホの電池はわずか。でも、どうやら電波はあるらしい。

 ここでようやっとG○ogle mapを思い出し、我が家までの道順を検索してみる

・・・え?目的地まで6.5㎞?

 どうやら完全に降りる駅を間違えたらしい(これもあとで知ったが、最寄り駅からでも5.3㎞らしいからそんなに間違いではなかった)。

 人もいない、タクシーもいない。移動手段は徒歩オンリー。。。もう行くしかない。

 きっと、車通りの多い道路に出れば、わかるよね?と甘い考えのまま出発。



 暗い夜道を歩き始めて25分。

 暗い、本当に暗い。

 人は自分以外に歩いてはおらず、周りは田んぼと校舎のような建物の輪郭だけ。

 空は満天の星空。

 イヤホンから聞こえる稲○淳二大先生の話も相まって、マジもんのき○らぎ駅に迷い込んじゃったのでは?という錯覚を覚え始める。そんなばかな、と思い、スマホを見ては、着実に家に向かって進んでいることを確認して安堵する。そんなことを繰り返すこと数十分くらいだろうか?歩き続けるとようやっと、大きい通りに出た。

が、ここも記憶にはない。再び泣きそうになりながらスマホを見ると、間違いなく近づいている、あと3㎞らしい。

 時折通り過ぎる車達に、ちゃんと生きた人間はいますよ~とばかりに励まされ、さらに歩くこと数十分。見知った道路が見えてきた。そして、さらに進むと、、、

 『 ぁ!お家、、だ、お家だ!やったー帰ってきたぞー!』

 もう、我が家を見つけた時の喜びと言ったら、筆舌に尽くしがたいものがあった。

 苦節2時間と少し。「ボク」のはじめて(?)の大冒険が終了した瞬間だった。

 家につくと「おかたん」と「史たん」が起きていて、出迎えてくれたのを見た時は涙が出そうになった(まぁ、「史たん」のご飯の時間だっただけなんだけどね)!


 と、ここまで書いてみて思ったんだけどさ。冷静になって考えてみると・・・今回のこれ、一体何の話だったんだろ?

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