15日目:「史たん」の受難
『 よいしょ、よいしょ。これはここに運んで、この段ボールは封印だな。まずは一部屋仕上げてしまわないとな。』
「ボク」は今日も今日とて家づくりに精を出している。
前回まさかの発表があってから一晩。「ボク」は快適な引越し環境を享受できている。
さて、時は一晩巻き戻るのだが、前話の終わりにも記した通り、「おかたん」から挨拶もそこそこに告げられた一言。
『 「史たん」がインフルエンザにかかっちゃった。』
「ボク」はそれを聞いた時、「おかたん」にしては珍しく、小粋なジョークで疲れた「ボク」を労わりつつ、場を盛り上げようとしてくれているのかな?と思った。だってそうだろう?乳幼児は母乳パワーで病気とは無縁の生活を送れるはずではないのか?
だが、話を聞き進める限りではどうやらマジだったらしい。「おかたん」の声には疲労と怒りがないまぜになっており、茶化す雰囲気ではなさそうだったので、今回は聞き役に徹することにした「ボク」。
そして「おかたん」が、その経緯について語りだした。
話はさらに数日前に遡る。
その日、「ばぁば」は、朝から体調が悪かったようである。
それでも、とりあえず日常生活を…としてみたようだが、あまりにも具合がすぐれないため、病院に行ってみることにしたとのこと。すると、診断結果はまさかのインフルエンザ!すぐにお薬を処方してもらって帰ってきて、寝室に引きこもったのだそうだ。
普段ならこれで問題ない。相方「じぃじ」を心配するなら、別室に、、、くらいでおつりがくるだろう。
だが、今は乳飲み子こと「史たん」と「おかたん」が里帰り中なのである。
寝室に引きこもったとはいえ、隣り合った部屋同士、ほぼ同じ空間といっても過言ではない。その上、何故か、
『 さみしぃよぉ。「史たん」。』
と、寝床から抜け出して様子を見に何度も現れたとか。アホなのか(あ、いや、結果として移しているのだからアホではあるのだが。)?
前述した通り、「ボク」の常識的には、生後間もない(生後~半年くらい?)赤ちゃんは病気にかからない、はず。だから、まぁ、この時点ではアホなのか?くらいの認識だった。
「おかたん」もこの時点では
『 大丈夫かなぁ?でも母乳も飲んでるし、大丈夫だよね?』
くらいの認識で、苦笑いでその行為を眺めていたそうだ。
だが、事実として、「史たん」はその翌日、発熱の症状を発症。
慌てた「おかたん」がその日(時間軸的には昨日になるか)に病院を受診したところ、インフルエンザということが分かったとのこと。また、そこでお医者さんより以下の事実を知る。
乳幼児といえど、どうやら病気にはかかってしまうということ。
というのも、母乳パワーは母親が持つ免疫作用の一部を母乳を通して受け継ぐことができるというだけで、その受け継いだ免疫で対応できない種類の病気には効果がないということらしい。つまり、インフルエンザの様に毎年型が変わるようなウイルスには母乳パワーでは太刀打ちできないということになる。
大人ならタ〇フルなどを飲めば一発症状は改善に進み、感染危険期間は元気に過ごせることが多い、ある意味ご褒美といった側面もあるインフルエンザだが、(これは「ボク」の主観です)、、ちびっこにとってはそうは問屋が卸さない。
なぜながら、薬が飲めないから。免疫がほぼない乳幼児は、副作用等の関係で薬の類が一切飲めない(一切といっても例外はあるだろうが)。そして、薬が飲めないということは、、、耐えるしかないということ。
そして、水分補給も栄養補給も、母乳でいける乳幼児であるが、具合が悪いのは変わらない。補給でいないと弱ってしまって最悪命の危機もありうる…ということで、耐えるといっても最悪になる前に入院も視野に入れた上で耐え続ける戦いが待っているとのこと。
そう、基本感染させてはいけないのだ、ということを。
とまぁ、そんな訳で、我らが「史たん」は今まさに人生最初の大ピンチの真っただ中にいるというのが「おかたん」のお話をまとめた結果となる。
いやいや、何してくれてんのよ、「ばぁば」は?
ここで「ボク」の会社の先輩談ではあるが、「おとたん」小話をここで一つ披露しておこう。
それはお子さんが1歳前後のころ、先輩自身が体調不良になったことがあったそうだ。そこで、看護師の奥さんに熱っぽいと伝えた途端、玄関で気を付けの姿勢で待機を命じられ、ボストンバッグ一つを渡され、ポカンとしたところで一言、
『 完治するまで帰ってこなくていいからね?』
と、笑顔で送り出されたそうな。それを語ってくれた先輩は遠い目をしながら、
『 熱が下がるまで、本当にずっとホテル暮らしだったんだよね、あの時ほど妻が母になってことを実感したことはなかったよ。』
とのこと。
まぁ、それはやりすぎにしろ、気を使う人はそれくらい気を使うのだから、もう少しどうにかならなかったのか?「ばぁば」よ?と心の中で悪態をつきつつ、「おかたん」の話に意識を向ける。
『 ね?もう信じられないでしょぅ?赤ちゃんなんだよ?お薬飲めないんだよ?移したら大変だってわからないのかな?「史たん」もう真っ赤になっちゃって、熱々で可哀そうなんだから!寝てくれないし、おっぱいも吸ってくれないしでもう大変なんです!』
そうは言われても「ボク」にはどうしようもない。だから、
『 そうだね、大変だね』
とひたすらに相槌を打ち続ける。間違っても、
『 いや、でもそれ君の親の話だからな?里帰りするのを決めたのも君だからな?』
何て言うことはしない。
そうこうすること、十数分。とりあえず、愚痴るだけ愚痴ったら、「おかたん」の怒りも少しは鎮火してきたようで、少しトーンが落ちてくる。そんなタイミングでちょうどよく「史たん」が
『 めぇめぇ』
と始める。
『 あーもう泣き出しちゃった。まだ話すことあった気がするのに・・・でもだいぶ寝れるようにはなってきたみたい。そろそろご飯の時間だし、ちょうどいいかな?飲んでくれるかは分からないけど・・・頑張ろう!じゃぁ、「史たん」のお世話あるから切るね!』
と大分前向きな発言ができるようになった「おかたん」。
いやー良かった。「ボク」としても、愚痴を聞いた甲斐があったというものだよ。そして途中で恐ろしい言葉を聞いた気がするが、それは聞かなかったことにする。うん、「史たん」グッジョブ!
そうして電話が切れると、「ボク」一人きりの新居は静寂に包まれる。
う~ん、ちょっとだけ、ほんのちょ~っとだけ、寂しいなぁなんて思ったりはしないよ?なんだろうね、このふとした静寂のやるせなさはさ。
まぁ、だが、そう浸ってもいられない。なぜなら、「史たん」「おかたん」の襲来まで刻一刻と時間は過ぎていっているから。今のうちにできること(お片づけ)、やらねばならないこと(ゲーム)を進められるだけ、進めておかなくては!
頑張れ、「ボク」、負けるな「ボク」!
自分にそんなエールを入れつつ、今日も一人忙しい引越しの日々は過ぎていくのであった。
「史たん」「おかたん」の襲来まであと2日?(あれ?結局何日のびるんだろう?さすがに完治までこっち来ないよね?)
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