俺だけなのだろうか

21時56分 東京駅 B寝台シングル

ガラス一枚を隔て、現実から切り離された。



窓枠に肘をもたせて、ぼんやりとアナウンスを聞く。

列車が動き出すまで、何かに手をつけるのを待ってしまう。

俺だけなのだろうか。



当然だが、列車の中では

音楽に聴き入っていても、何かを読んでいても

常に周囲の乗客の気配を、否応なく感じ続ける。


周囲から隔絶された、この個室の中は

別の乗り物のようだ。


何かから逃げているような

不穏と安心感が混じった不思議な感覚になる。

追い立てられてるような、焦燥感を常に抱えてるからだろう。

それも俺だけなのだろうか。




ぼんやり眺めていた、窓の外の風景が不意に横に滑り出した。

列車が動き出したのだ。


缶ビールのプルタブを引く。

喉に流し込む。

大して美味くはない。


何故か列車の中での飲食は、美味く感じない。

空港や郊外のアウトレットに向かう、中距離バスもそうだ。



飛行機の中で飲む、変哲もないコーヒーやワイン

ありきたりの機内食はなぜ、あれほど美味く感じるのだろうか。



ところが逆に機内では苦痛な程、暇を持て余す。


文庫本を持ち込んでも

大抵数ページ読んで本を伏せ、目を閉じる。

そして少し前に遡ったところから続きを読む。

それを数回繰り返し、物語を追うのに飽きて放り出してしまう。


いつも聴いている音楽も、あまり耳に入ってこない。

これで、面白い映画すら見つからなければ

アルコールを摂って、まどろむ位しか

する事が無くなる。


気圧なのか、上空という普段とは違う環境だからか。

これは俺だけなのだろうか。



バスの中では、ずっと音楽を聴いている。

曲と共に過去が浮かんでは、物思いにふけり

車窓の風景と共に流れ去ってゆく。



読書は列車との相性が良いのだろう。

時刻表トリックなど列車を題材にした

トラベルミステリーが多いのも、相性の良さ故なのか。

列車で読むのを楽しみに、一冊買う事もあれば

何度も読んだ小説を持って行く事もある。




実は、一番美味く感じるのは、自分が運転する車の中かも知れない。


缶コーヒーと煙草

好きな曲だけを集めたプレイリスト。

車に乗らなくなり、久しいが

思い出すのは、いつもそんな光景だ。



ひとり列車の中では

B'z の『STARDUST TRAIN』という曲を聴きたくなる。


終点のない列車なら良かったのに

I want to your love

他には何も要らない 君だけに



そして君ばかりを思い出す。



君は今どうしているのだろう__

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