第4話

 馬鹿みたいに広い屋敷の中を僕の二本足でてくてく歩こうと思ったら結構な時間がかかってしまう。


「来るのが遅いわ!」

 

 僕がゆっくり自分のペースで歩いていたところ、急に背後から抱き上げられる。


「……気配を消して近づいて抱き上げるの辞めて?お姉ちゃん」

 

 声から誰が僕を抱き上げたのかを察した僕は眉を顰めながら不満げに声を漏らす。


「食堂まで来るのが遅いアレスが悪いわ……ふふん。このまま食堂まで連れていってあげるわ」


「一応ありがとうと言っとくよ。お姉ちゃん」

 

 僕よりも七つ上の姉、テレア・フォーエンス。

 同級生と比べてもかなり背が高く、発育が良くて元気いっぱいの彼女に僕はいつも振り回されていた。

 

 まぁ、黒い髪に黒い瞳。

 日本人らしい髪の色と目の色を持った可愛いお姉ちゃんに振り回されるというのもまた一つのご褒美とも言えそうではあるけどね。

 

「アレスはものすごく小さいんだからちゃんと私が助けてあげないとね!」


「ちょっと助け方力技過ぎじゃない?」


 歩くの遅いからもって運んであげようなんてどんな発想だと突っ込みたくなる。

 

「良いじゃない!この方が速いのよ!……ということでついたわよ」

 

 テレアとダラダラ喋りながらしばらく運ばれていると、食堂に入るドアの前へとたどり着く。


「お父様!お母様!アレスをお連れしましたわ!」


 テレアが扉を開け、元気よく挨拶の言葉を口にする。


「あぁ……待っていたよ」


「ふふふ。今日も元気ね、テレアは……そして、アレスはお人形さんみたいね。可愛い」


 食堂の中。

 そこには巨大なテーブルと大量の椅子が置かれる広い空間であり、テーブルを囲むようにたくさんの執事とメイドが並んでいる。

 前世の価値観基準で見れば圧巻の景色である。


 そんな大きな食堂の中、最も奥の席に一組の男女が座っていた。

 フォーエンス公爵家の当主、ガイア・フォーエンス。

 そしてその妻である公爵夫人、クレス・フォーエンス。

 厳しくも自由に、愛情をもって僕を育てくれている今世における僕の両親である。

 

 ……前世の両親には恩返しをするどころか両親よりも先に死んでしまうという不義理を犯してしまった。

 今世はそんなことになることなく、自分を愛してくれる両親に恩返し出来るような人間に成長したい。


「それじゃあ、席に座りなさい。早く食べなければせっかく我が家の料理人が作ってくれた料理が冷めてしまうよ」


「はーい」


「うん」


 どれだけ忙しくとも必ず家族一緒にご飯を食べる。

 それが我が家のルールであった。

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