特に泣いてないし斬る その2

 国際問題数日前、ジァンソンさん一行はリョザーン=パック近くの宿屋に到着し、作戦会議をしたそうです。


「今回の目的を再確認しよう」

「確か俺たちの役目はあくまで『連中を山から追い出すこと』だったな」

「要害から追い出しゃ、あとは現地の軍でも。連中にも花を持たせんだ、とモノノちゃん言ってたっけか」


コホギンさんとキュジュさんが、順番に頷きながら言葉をリレーします。

そう! そのとおり! よく覚えてた! えらい! そしてコホギンさんの言うとおり、さすが美人有能マネージャーモノノちゃん、依頼人の配慮まで完璧に行き届いたプランを立てています。天才。今日もかわいい。

の、はずなのに、いったい何がどうして国際問題に……?


それはそうと作戦会議。テーブルに地図を広げて、土地勘あるジァンソンさんによるリョザーン=パック攻略講座開始です。


「言っても連中は山賊だ。正規軍に比べたら圧倒的に人数が少ないし、何より損耗したら補充が効かない。なのに難攻不落、何度攻められても持ち堪えている。果たして山が険しいだけでそこまでの防御力を発揮できるのか?」


ここで一呼吸置いたジァンソンさんは、地図上のリョザーン=パック

から少しだけズレた位置を指差しました。


「その鍵は山自体の険しさより麓の湿地帯にある」

「湿地帯、か」

「そう。足回りも悪ければ、背の高いあしで見通しも悪い」


コホギンさんの呟きにも律儀に答えつつ、地図上に駒(宿の部屋にあったボードゲームの)を配置するジァンソンさん。たくさんの白を並べた進路上に、少しの黒が挟み討ちの構え。


「つまり守り手は待ち伏せがしやすく、攻め手は歩きにしろ船にしろ、湿地帯独特の動きを習得していないとマトモに逃げも抵抗もできない」


山へ向かった白は、案の定左右から襲われます。腕を組むコホギンさん。


「厄介だな」

「厄介だ。そしてこの厄介さで人員とテンションを削がれたあとに」


地図上から大量に除けられる白たち。残った一つがなおも進みますが、


そびえる険しい山。戦う前に過酷な登山。勝負にならんというわけだ」

「なるほどな。ではどうする?」

「そうだな」


地図上に残った駒を元の配置へ戻すジァンソンさん。ちなみに除けた駒はキュジュさんが持っていってしまいました。


「俺たちなら正面突破もできるだろうが、可能な限りスマートに行きたいし、何より連中が逃げやすい環境を作ってやらなきゃならない」

「そうだった。山から追い出すのが目的だったな」

「そのためにも連中には湿地帯へ出てきてもらって、そこで勝負を決める必要がある。コホギン」

「なんだ」


腕を組んだままのコホギンさんが大きく肩を揺らします。


「お前はまずサイネー太守に頼んで、俺たちが明後日討伐に行くと大々的に喧伝してもらえ。向こうも繰り返し攻められているから、情報に耳ざとくなっているはずだ。すぐにつかんで待ち伏せに出てくるだろう。キュジュ」

「おう」


ボードゲームに駒を並べて遊んでいたキュジュさん(真面目にやれ)が振り返ります。


「奴らはおそらく、浅い湿地でも動きやすい小船で来るだろう。そこをおまえの魔法で辺り一面凍らせる。一転動けなくなるのは向こうって寸法だ。その隙に俺たちが山の方を抑えてしまえば……」

「奴らは全て捨てて平地へ逃げるしかねぇ、か」

「そのとおり。もし留守番隊がいたら、それくらいは俺たちでしまおう」

「むしろ、そうなってくれた方がになって、待ち伏せ隊は軍の方へ逃げてくれそうだな」


なんて完璧な作戦でしょう! さすが土地勘があるだけのことはあります!

これなら正規軍がドン亀さん(湿地帯なので泥亀とも言える?)でもモーマンタイ! お互いメンツも保てて報酬もらってのハッピーエンド!

ジァンソンを見出した私天才!!


になると思いますでしょ……?






「今だ! やっちまえ‼︎」

「冒険者がナンボのもんじゃい‼︎」

「立派な装備も追い剥ぎの時間だコラ‼︎」


「ジァンソン! やはり奴ら、待ち伏せしていたようだぞ!」

「作戦通りだ! キュジュ!」

「任せろっ! 『子伯渭水氷城計しはくいすいひょうじょうけい』‼︎」


「なんだ? 急にが重く……」

「船が動かねぇ!」

「寒くね?」

「あ! 沼が! 凍ってやがる‼︎」

「なんだってぇ⁉︎」


実際作戦はうまくいったみたいですよ? この時点で相手は大混乱。


「あ! 見ろ!」

「なんだよ、この忙しい時に!」

「あいつら、氷の上を滑ってくるぞ‼︎」

「なんだって⁉︎」


そのうえ規格外の高速移動で、完全に肝が冷えたみたいです。水面が凍ってるからではなく。



「に、逃げろぉ〜っっっ‼︎」



作戦はバッチリ成功。最初は山へ逃げ込もうとした山賊たちですが、猛スピードで滑る一行に追い抜かれて、先に山へ入られるとUターン。正規軍が待ち受ける方へと走って行きましたとさ。何度も滑って転びながら。


「終わったな」

「あぁ」


やはりは戦いは地の利が全て。一行は百点満点の成果を叩き出し、今回はこれにて一件落着

ではないんですよね。






 翌朝。宿で一泊した一行が帰り支度をしているところへ、正規軍の方が訪れたのです。


「あの、よろしいですか」

「はぁ」

「このたびは、折いって頼みがありまして……」

「なんでしょう」

「その……



山賊連中を取り逃してしまいました」



「は?」

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