おのれメロス その3

「ここが連中の巣窟か……」

「早いとこエルフたちを助け出しちまおう」

「必ず、かの邪智暴虐の魔物を除かなければならぬ」


転生者ながらこの世界の東の果て出身感が強いワタルさん、黒っぽいけど実は茶髪なライザスさん、なぜか説明せずとも誰もが似た雰囲気をイメージできるメロスさんのお三方は、あれから特に迷うこともなく、午前中には目的地へ着いたそうです。そして早速、


「見つけたぞ、魔物どもめ!」

「よくも村を襲って、娘たちを拐ってくれたな!」

「呆れた魔物だ。生かして置けぬ。」






「ふう、片付いたな」

「エルフたちも無事だ。さっさと帰ってゆっくりしよう」

「日没までには、まだ間がある。私を、待っている人があるのだ。」


難なく魔物たちを討滅したそうです。ですが、問題はここから。


「あのぅ……」


解放されたエルフ娘たちが、村へ向かうでもなくモジモジと進み出てきたそうで。


「ん? なんだ?」

「勇者さまたちは、これからお帰りになるので?」

「そうだけど」

「お住まいの、その、遠いところへ……」

「妹が、私の帰りを待っているのだ。」

「あの……」


もうお分かりですね? そう、


転生者追放者の方って異常にモテる。全員『魅了チャーム』標準装備かってくらいモテる。私が受付嬢に採用された理由の一つに、『彼らに惚れなかったから(なので贔屓とかせず公平に仕事が分配できる)』っていうのがあるくらい。

つまり……、



「私も連れていっていただけませんか⁉︎」



こうなる。それも、


「私も!」

「え? じゃあ私も!」

「私だって!」

「置いてかないで!」

「アタイお役に立つから!」


その場にいた十数名全員。イコール、ドレド村の娘全員。






「それでそのまま素直に連れてきちゃったんですかぁ⁉︎」

「いや、本人たちがそうしたいって言うし……」

「それを置いてったら、かわいそうだろ?」

「そうね、だから置いてかないよう高速移動使わずに帰ってきたのね、って違ぁぁぁう‼︎」


今度は私がカウンターを叩く番ですが(いまだ腰を抜かして西部劇みたいに顔だけ出した状態のまま)、ワタルさんもライザスさんも「やれやれ」と肩をすくめるばかり。


「愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。」

「誰にだよ!」


メロスさんはあいかわらず意味不明。思わず突っ込みましたが、どうせ彼に聞く耳はないです。やんぬるかな

私は早くも心折れそうでしたが、そうはいかないのがドレド村の男衆。


「これでお分かりだろう! こいつらが村の娘たちをみな、連れ去ってしまったのだ!」

「そんなことされたら、村はもう終わりだぜ!」

「やってること魔物と変わらねぇじゃねぇか!」

「うぐっ」


そう言われると私としても、ちょっとも出ないような……。

いえ、そんなことより、正論でも詭弁きべんでもなんでもいいので、とにかくこの場を穏便に収めるのが第一。ちょっとエルフのお姉さま方にお伺いを立ててみます。


「あのー。村長以下おっしゃってますし、どうか村へお帰りいただくわけには……」

「嫌よ‼︎」

「そんなのありえないわ‼︎」

「私はワタルさまと添い遂げるの‼︎」

「その男連中、私たちを魔物から守れなかったじゃない! 話にならないわ‼︎」

「ライザスさまと引き離されるくらいなら、舌噛んで死んでやるわ‼︎」

「ひぃぃぃ……」


音圧。抗議の内容とかじゃなくて、ただただ音圧がすごい。見えない壁を叩き付けられた感覚で、また腰を抜かすところでした。さっきのまま頭以外カウンターに隠しててよかった。

とにかくこれは説得不可能。となると、彼女たちが言うことを聞いてくれそうな方を説き伏せるしか……。


「あの、連れてきちゃった責任として、説得なさっていただけませんか?」

「いや、舌噛んで死ぬとか言ってる人(正確にはエルフ)に『帰れ』って言うのは……」

「責任っていうんだったらむしろ、この街で面倒見るのが筋か?」

「私は信頼されている。私は信頼されている。」

「メロスは黙って!」


メロスさんの発言のせいではないでしょうが(いえ、元はと言えばメロスさんご一行のせいですが)、村長は激怒した(いえ、最初から激怒してましたが)。


「それで! いったいどうしてくれるつもりなのだ⁉︎ 我々に引き下がれと⁉︎ 村は黙って滅んでしまえと⁉︎」

「ふざけるなよ⁉︎」


マッチョがまたカウンターを叩いてきます。こいつら、冒険者さまには敵わないから、露骨に私へ突っかかってきやがる! 筋肉が泣いてるぞ、ガタイだけデカい小心者!(と直接言えない私はもっと小心者)



 と、そんなふうにケンケンガクガクやっているところに、



「まぁまぁ、村長さん」



頭上から、低くてダンディ、しかしどこかネットリした響きの声が。

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