第1話

 目の前の少女が、わたわたと慌てる。おいおい、ここは戦場だぞ?その一瞬の迷いが命を落とすことだってあるんだぞ。


 よくよく考えてみなさいな。そもそも、慌てる以前に、俺がいくら人の形をしていて、意志もある。だがしかし、残念なことに推定アビスである。


 で、あるならば。ヒロインなのであるのなら、迷いもせずに俺の心臓を突き刺さないといけないだろう。大丈夫大丈夫。無駄な抵抗なんてしないから。ささっ、ずいっと。


「というわけで、どぞ」


「いや殺しませんけど!?」


 茶髪の少女ははっきりと断言した。


「何で?」


「なんでもクソもありません!と、とりあえず、学園長に相談──────」


 耳に手を当て、どこかに連絡を取りだした少女。ヒロインの事情とかよく知らんけど、アビスの討伐数とかが成績になるとしたらこんなにも殺してウェルカムなアビスなんていないぞ?両手広げてるんだから。


「────はい……はい……分かりました!とりあえず連行します!」


「ん?連行?」


 何やら不穏な一言が聞こえ──────


「ごめんね?」


「は?」


 そう少女が発したと同時に、目の前から少女が消える。


 そして、次の瞬間には、首にトンっという静かな衝撃が来て、意識が朦朧とし始めた。


 く、首トンの使い手……っ!






「……知らない天井だ」


 目覚めて一言めがこれだった。意識一回失ったし、そのまま逝くんかなとか思ってたけど、普通に目覚めました。


「お目覚めですか?」


「え……あ……」


 声が聞こえてきた方向に目を向けると、とんでもない美人──────まぁ月下先輩なのだが──────が、本を読んでいた手をやめ、綺麗な金色の瞳をこちらに向けてきた。


「初めまして。瑠璃学園生徒会長月下花火です」


「あ、どうも。小鳥遊裕樹と申しま──────瑠璃学園?」


「はい。瑠璃学園ですよ」


「え、なんで俺ここにいるの?」


 瑠璃学園なんて、あんまりヒロイン事情にも詳しくない俺でさえ知っているスーパービッグネームである。何でも、日本で一番最初にヒロイン育成機関として設立しながら、今でも対アビス日本最前線であり、なんなら世界有数の超名門校である。


 あれだ。普通の大学に例えるとアメリカのハーバード大学みたいなもんである。


 東京湾の沖合に建設された海上都市メガフロートの丸々が瑠璃学園の敷地であり、ヒロイン達の学び舎であると同時に、アビスを迎撃する拠点としても機能している。


 ちなみにだが、俺がアビスに貫かれたのは東京の練馬区である。つまり、意識を失っている間、とんでもない距離を移動していたのである。


「大変なところまで来ちゃったなぁ……」


「えぇ、大変ですよこちらも。貴方が来たせいで」


「な、なんかすいません……」


「ふふっ……冗談ですよ。大変なのは学園長だけです」


 綺麗な顔を少し綻ばせて笑う月下さん。うわ、すっげぇ美人。なんて一瞬思ったが、そんなことを思うことすらなんだがいたたまれなくなり、咄嗟に目覚めていた時から気になっていたことに話題を変えた。


「あの、ところで」


「はい?」


「これ……なんです?」


 俺は、首元に仰々しく嵌められている首輪を指に指す。すると、月下さんは顎に手を当て、少し考えるようにしたあと──────


「なんだと思いますか?」


 ────と、試すように少しだけ目線を細め、少しだけ口角を上げた。うっわ、そんな表情も似合うとか何でもありだなこの人。


「ふむ……」


 さてさて、少しばかり真面目に考えますか。そんなに成績の悪い俺が解けるかは知らんが。


 まぁまず考えてアクセサリー的な意味ではないだろうから、連行という意味から考えてみるか。普通、連行なんて通常一般ピーポーには使わないし、敵とかに使う言葉だろう。


 敵と言えば……まぁ連行されたあとは捕虜になるなり尋問されたりされるだろうし、俺の動きを制限するためだろうというのは考えられる。


 だがしかし、推定アビスの俺────MADE IN ABYSSの俺である。拘束するならもっと厳重にやるだろうし、俺だったらこんな得体の知れないやつ、ボタン1つで殺せるようにする。


 と、言うことはつまり、何らかの手段で俺を一撃でぶっ殺せるほどの威力のある何か。ということだろうか。


「……ってあれ?」


「どうしました?」


「あ、いえ、何でも……」


 突然として呟いたことに、少し心配するように覗き込んできた月下さん。咄嗟に誤魔化し、腕を組んで考えるふりをしたのだが………。


 俺って、こんな頭の回転早かったっけ?


 ……まぁいいや。とりあえず、月下さんに俺の回答を聞かせるとしようか。


「とりあえず、ですが」


「はい、どうぞ」


「拘束、にしては些か首輪だけでは弱い気がします。何らかの手段で頸動脈を掻き切るにしても、俺の再生力は既に上に伝わっていると思うので、単に首にダメージを与えるという線はなし」


 ふむふむ、と頷きながら続きを促す月下さん。


「俺があなた達の立場だったら、再生力が追いつかないほどの一撃が出せるシステムを、この首輪に組み込む。ということで、この首輪は俺をなんらかの手段で殺せる手段入り首輪です」


 どうかね。これ結構いい線いってると思うんだよね!頭の悪い俺、よく考えたものである。


 その推理を聞いた月下さんは、ふむふむと二回頷くと、控えめに拍手をしながら「正解です。まぁ80点ですが」と言った。


「80点ですか」


「えぇ、80点です。なぜなら────」


 と、月下さんが何やらポケットをゴソゴソとしだすと、スイッチを取り出した。それを見た瞬間、一気に顔がサッと蒼くなった気がした。


 あからさまに危険なことを知らせる黄色と黒の危険色。ボタンには、黒で描かれたビックリのマーク姿が。


 どこからどう見ても爆破スイッチです。ありがとうございます!


「これ、なーんだ?」


「…………」


 そう言って、爆破スイッチを指をさしながら笑う月下さん。


 この人、なかなかいい性格してるっ……!



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皆さんお気づきかもしれませんがこれ、リメイクのリメイクのリメイクのリメイクのリメry

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