NTRされ男?#② 死ぬ気は…なかったんじゃないかな?だって2度死にたいと思えないから


 心の限り 力の限り 肺の中の空気を 全て絞り出す



「死んじまええええええええええエエエエエエエエエエエエアラアアアァァァァッッッ!!!」



 正面の男女2人は抱きしめあったまま微動だにしない。

 腰に回した手すら離さねぇのな


 いや「あっ!?」みたいな声が出てたか?


 そんなもん関係ねぇ そもそも俺って気付いていたか?

 整髪料も頭から被った酒で落ちて、落ち武者になってるからな

 男は俺の事を知らんだろ いや噂は知ってるか?

 どちらにせよ桐子は 知っていたとしても他人のふりをするんだろ?


 踵を返し、またフラリふらりと歩き出す 追って来れるもんなら追ってこいよ


 …追って来ないのは知ってんだ 俺の知る桐子はそんな感じだわ 何かあると動けず、委ねる


 予定外の事が起こると停止する だから俺が…


 もう 俺が何を言っても遅いけどな…

 

 結局…桐子はクソバンドマンへの同情か

 イケメンの様に思い出補正故の保険か

 それとも彼氏で面白がれるほど大学でゆがんだか


 まぁ同情だろうなぁ…だって俺がわりぃもん…


 でもこれで…告白を断らなくて済む様になって良かったね 桐子さん

 きっと 大学で素敵な彼氏が出来ますように


 帰り道 陽は落ち 月が顔を出してきた


 家に帰る。昔、桐子から貰った手紙を握って、ギター背負って、また、外に出る


 気付けば夜になっていた 

 昼間 死ぬには素晴らしい太陽だった 

 そして夜、跳ぶには素晴らしい満月が出ていた


 途中で酒を買い足して 母校の屋上で酔っ払いながら 昔の桐子に会っていた


『尋也君といると、まるで自分も凄い人になった気になるよ』


 高校から…いや、中学か… 

 女々しい事してるなと思ったけど 会いたかったんだよ


 覚えているんだ 笑顔 泣顔 色んな顔


 ギターを取り出す 覚えている曲を全部弾く

 俺の高校の屋上は不思議な作りでさ

 崖から続く外の公園と一体化してるから誰でも入れるんだなぁ

 

 学校と隣接してるから皆来ないけどさ

 爆音で音出して…と言ってもアンプ無いけど

 さっき出した吐き出すような声で

 忘れないうちに歌い続けた 

 ただ闇に声が吸い込まれ続けた


 希望の歌は 夢に向かう人へ

 絶望の歌は 遥か遠くへ逝く人へ

 俺には どんな歌も響かない


 歌いながら思った…俺に何も無かったから…月まで跳べる様な…月まで届く様な歌が歌えたなら

 

 桐子を失わずに済んだのかな…


『うアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!』


 身体中から絞り出す…暴れ回る、越える衝動


 好きだったんだ、とても、とても。

 でも、これは必然なんだろう。俺は飛び続けないと桐子がどこかへ行ってしまう


 いや、月まで行ってやる 惨めな程の願望が破裂する


「みんなああああッッッ!!しんじまえええええええ!!!」 


 叫んでた それと同時に柵を越えていた

 越えていただけじゃなかった 飛んでいた

 俺はただ 月に向かって飛んだだけなのに…



 約、地上5階の建物から飛んでいた

 足の下は何もなかった 人が着地出来ない高さの空間


 まだ死ぬ気は無かった…と思う

 でも死にたかったのは確かだったと…思う



 家族に伝えて無かった 心配しているかな 

 桐子とちゃんと別れて無かった どんな気持ちになるのかな

 バイト辞めるって言ってなかった 誰が明日のシフトを埋めるんだろう

 

 …どうでも良い事を思いながら下を向いた

 地面が近かった これじゃすぐ着いちゃう

 考える間もなく死んじゃう いやだ

 

 あ 俺まだ死なたくな




 死にたくないと思った瞬間に走馬灯の様に思い出か蘇った。


 音楽が好きだったんだ 何者かになれるから


 桐子が好きだったんだ ずっと一緒だったから


 何者かになれないと 桐子には愛されない?


 飛び続けないと 跳び続けないと


 もしかしたら それは勘違いかも知れない


 桐子 だったらごめんよ 変わらないでってのは


 俺が何者かを目指す前 俺が俺であった頃の…


 あぁ だとしたらもう それならばもう 

 


 生きていたとしても手遅れか…


 でも…死にたくない


 落ちる瞬間…地面に当たる瞬間に…何かいた

 黒い塊、天使ではない、死神だろうか?

 違う、人だ。当たったら死ぬ!?

 

 『『たすけてぇ』』


 人と気付くと助けを叫ぶ 自分の声かな…なんて情けない声だ…でも死にたく!?


 

 グアっと

     何かに

        掴まれる

            様な

          俺が

        回る

     これが

   天国

 ??


『うおおらあっ!どっせええええい!はおおっ!?』


 視界が回り…











 ピー ピー ピー


――意識!回復しました!瞼動いてます!――


――先生呼んで下さいっ!早く!―――


 なんだろう?俺は悲しい事があって 痛い


 それはこの全身の痛みと繋がっているのだろうか?


 何だこれ 痛いぃ…正直、どんな辛い事もこの痛みに比べればなんて事…ない…かな?…


「尋也っ!?尋也っ!!アンタ!起きなさいよ!」


 イテっ!?何か顔殴られた…何だよ…全身痛いんだからやめてくれ…

 


 真っ暗な視界から…光が差していく…


 あんだよ、姉ちゃんかぁ…それと父ちゃんと母ちゃん…皆泣いてんじゃん。

 

 何だっけ…あぁそうだ…桐子が…あぁ…


 思い出していく…桐子に呆れられ、桐子にフラレ、桐子が他の男の所にいった

 とても辛かった、悲しかった…


 多分…いや、方法としては間違えてるかも知れないけど…死を目前にした時、何だかどうでも良くなった。

 

 桐子が人生の全てみたいな顔してたけど、なんて事はない。

 死ぬ事に比べれば大した事無いって思った…イテッ!?


 そして俺の顔面を殴る姉…伊世いせ姉ちゃん…

 ウチは…姉弟仲が良く、両親とも上手くいっていた。

 音楽やるって言ったら父さんは期限付きで、母さんは友達に上手くいく様にお願いしようかな何て言っていて…姉ちゃんは…応援に行くって言ってたな…応援って部活じゃないんだから…


 そんな仲良し家族で…確か合ってるよな?

 病院で目覚めるのって怖いな…


 意識が朦朧とする中で言った。


「姉ちゃん…痛いよ…ちょ、やめて…」


「尋也!?喋った!うあぁあ!よがっだぁぁぁ!」


 グワシッグワシッ



 痛え、身体が…痛え…掴んで揺らすのやめれー


 そんな事を思いながら、再度眠りについた。




 そして…数日後、医者と警察から自分の顛末を知る。


 俺は校舎の屋上から飛び降りた。第三者の形跡はなく、後は俺の発言によって事件性は無くなるそうだ。


 そりゃそうだろうな…俺が勝手に飛び降りただけなんだから…ごめんなさい。

 救急車に乗せられ意識不明の重体として運ばれたが…原付きの免許と保険証で即、家族にも連絡がいき、絶望的な気持ちで病院に来たそうだ。


 しかし…いざ着いてみると全身打撲と骨が2、3箇所折れただけだった。


 女医さんに言われた。


「あの高さから飛び降りて、あの距離飛んでたら普通は100%死ぬ。下にいた人…人かアレ?まぁ、とにかく運が極端に良かったんだよ。あの高さから落ちた人間を怪我だけで転がすなんてなぁ…」


「あの…落ちた時に確かに下に誰かいて…お迎え来たかなと思ったんですけど…下にいた人が助けてくれたんですか?」


 「そうだよ、まぁそれは…また今度ね。それで…身体はともかく心の問題だけどさ…何かあったの?家族問題で誰にも言えなければ、カウンセラーでも私でも聞くよ…でももし家族にも伝えて良い事なら…伝えた方が良い…とても心配していたから」


「あ、家族は関係無いです。ちゃんと話します」


 それだよなぁ…何て言おう…今となってはどうでも良く…はなってないけど正直、客観的に考えられる。


 姉ちゃんは…速攻で桐子の所に行ってしまうだろう。仲が良い…様に見えた。

 高校の時、急に桐子が様変わりしたのは姉ちゃんが手を貸したそうだから…生まれ変わった桐子が俺を捨てたと知ったら怒り狂うし、責任を感じるのが目に見えている。

 例え俺が悪くてもあの人はやるだろう。

 だから言えない…2人の為にも…



 そんな事を考えていると家族が入って来た。

 

「尋也…アンタ…本当の事を教えなさい…違う、ウソウソ…ひ、ひろやちゃん?お姉ちゃんは本当の事を教えてほしいなぁ?」


 いきなり殺意が漲った状態で質問された後に、張り付いた笑顔で聞いてきた。無理だ、言えない。


「いや、将来に悲観してしまって…なんか急に辛くなって、お酒飲んだら加速してしまって…本当に俺がわる『桐子が?』


「いや、俺がついつい屋上に『桐子が?』


「いや、誰も関係なく俺『桐子が?』


 姉ちゃん、俺は桐子とは言ってないが…誘導尋問の裁判かな?

 何か知ってるな…多分、最後のピースというか、俺の発言で何かか決定するんだろう。

 姉ちゃんは完璧主義だ、完全に叩けるように全力を尽くす。だから俺は…


「姉ちゃん、心配ありがと!だけど桐子とはとっくの昔に気持ちは離れているから…まだ別れてないけど。けど姉ちゃんは気にしないでね」


「アンタ…それで良いの?…いや、尋也がそう言うなら…」


 なんか全然納得いってない感じだけど…とりあえず渋々聞いてくれた。


 姉ちゃんは元々体育会系のギャルサーで偉い人だったらしく、今はイベントを行うクラブの管理何かをやっている。

 桐子が地味な感じから少し派手になる感じに変わる時に相談されていたらしい。

 体育会系でのし上がるだけあって裏切りや不義理な行為を許さない。

 その不義理が自分達のグループの尺度だからたちが悪い。


 その様な背景もあり姉ちゃんを向かわす訳にはいかなかった。

 飛び降りる前だったら分からなかったけど…何だか冷めちゃうとそれは格好悪いなって思った。


「ただね、一つ言いたいのは…後出しみたいで悪いけどさ…あの女…尋也が意識不明って伝えた時ね…『尋也にはフラレましたから』とかぬかしてたけどな…だから何となく察しがつくんだけど…」


 は?別れてたの?あの会話、別れ話?


「ハハハッ!アハハハハハッ!そう、俺達別れてたんだったよ!ヒヒヒヒ…ひぃ~、ハハハ」

「尋也…アンタ…涙が…」


「いや、笑っちゃって涙が…何だろう?飛び降りたショックで記憶が…そう別れてたんだよ!だから気にしないでね」


 余りにお粗末な終焉に笑ってしまった、そして自分が思い詰めていた事に涙が出た。


 急に怖い姉ちゃんに言われて、自分のせいかも知れないって…咄嗟に嘘をついたのかな?

 それとも、本当にフラレたつもりなのかな?

 まぁ本人がそうだと言うなら俺には何も言えない。

 ただ…桐子…余りに滑稽で…好きだった桐子…でも…そんな桐子だったから好きだったのかな…俺が何とかしてやらなきゃって…

 桐子が大学入ってから…俺は何にも桐子にやれてないもんな。


 イケメンから聞いた桐子…高校時代の人間からすれば絵に描いた様な大学デビュー。

 小さいハーレム作って、その中で煽てられ調子に乗って…いや、俺と同じく何者かになりたかったのかも知れないな…


 そしてもし、俺が死んでたら…何者かになれた桐子によって、俺は勝手に思い詰めて自殺した馬鹿になってたって事か。


 そう考えると余計、死ぬのが怖くなった。

 死人に口は無い。その人の気持ちも、事実も、全部無かった事になるのか…


「まぁそんな感じだから…でも、言われた通り私からは何もしないよ…ただ、向こうからなんか言ってきたら…そん時は良いだろ?」


「あぁ、それは姉ちゃんに任せるよ。最早、他人だからね。」


 想いは元から消えたけど…ただ可哀想に思えるのは傲慢だろうか?


 そんな事を考えてると、病室に何か大きいモデルにしてはガタイの良い、高身長で目が切れ長の綺麗な女の人が入ってきた。

 そして続くようにやたら圧の強い男の人と眼鏡をかけた女性が入ってくる。


「あ、尋也…この人達が尋也を見つけて救急車呼んでくれたんだよ?ちゃんとお礼を言いなさいよ?」


「そりゃもちろん、この節は…ご迷惑をおかけしました!ありがとうございました!」

 

 この人達が居なければどうなっていたかと思うと…どんな事言われてもきちんと恩を返さな…


「お前のせいでウンコが漏れたんだが?瓢箪ギターのせいで借りた服がグチャグチャ…分かるかな?彼氏の友達の前でウンコ漏らした状態で熊のぬいぐるみと同じポーズで失神した女の気持ちが?漏らす前にコケシインサートじゃない。漏らし→コケシだ、汚い地方の有名花火大会じゃあるまいし責任を取るべきだ」


 ガタイの良いモデルの様な女性が開口1番、 ペラペラお返しづらい要求をしてきた。どうしよう…


「も、申し訳ないです!責任は…」


「いや、別にこの女の発言は気にしなくて良いので…とにかく意識戻って良かったです。それにこのデカブツは同い年なので畏まらなくて結構です」


 しどろもどろになっていると男性が間に入ってきた。同じ歳?


「彼女にデカブツとは?デカブツってデカいブツだろ?オレは女、貞淑な女、例えばこういうクイズ。オレの直すべき所はどーこだ?」


「食う寝る以外の行動全部」


「ふぁあ!?生命体としての活動以外全部!?答えは『悩んでコメント出来ない』だ。するとオレは赤面、あぁ直す所無いんだな?愛されてるんだな?と気付く訳だ。分かったか?ヒロ?そうゆう所」


「あぁ、いつも悩んでるよ、クイズの答えがコロコロ変わるからな」


 何か男女2人がコントみたいなのを開始してるんだが…すると眼鏡をかけた、コレまた綺麗な女の人が2人を黙らせるようにまとめ始めた…


「2人共、迷惑だからやめなさい。こんな感じで尋也君だっけ?君もなので恩を感じる必要は全くありません。それと女に浮気されて死ぬなんて馬鹿な事はやめなさい。貴方自身は死にかけて懲りたみたいだけど、あんなサークルの姫みたいになって、初めてチヤホヤされて調子に乗って男女関係の境界線が曖昧になってるバカ、眼の前で男とイチャついてるの見られたクセに、貴方が死んだと勘違いして現在メンタル崩壊気味でサークルのオタクにコロッと騙されそうになってるバカ女はやめて、そこの姉…日本の常識ではアウト的なブラコン姉か、バイト先のタバコくれる工場のヤンキー女あたりにしときなさい。はい、終わり。2人共、帰りましょう。本当に高校の時から話が進まないのよ…このクソ漏らし藤原…ブツブツ…」


「イクエちゃん、今のはアウトじゃないかな?」


 え?今なんて言った?俺の隠蔽努力を台無しにされた…何故か当事者しか知らない情報を、ポロンと言った。そして俺の知らない事実をごく自然にペラペラっと言った…マジで?


「え?あの女、浮気?尋や私が日本でアウト?ちょっと待って?浮気は聞いてない…どういう事?何で?アイツマジで?あの女アアアァァァ!!!」


 何か空気が滅茶苦茶になってきた…俺は…退院出来るのかな?

 

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