第36話 それぞれの思惑


「なんて事だ…」

広央はまたもや涙目だ。


まだ最初の最初の追跡サインさえ見つけてないのに、捕虜救出の労まで加わった。これでは勝利がますます遠くなるではないか…


◇◇◇


がっくりと肩を落とす広央を、和希が見つめている。




これより数十分前…


追跡サインを見つけた荒鷲組に、ユキが次の指令を出した。


「よし、次は捕虜取りをするぞ。蒼太、北斗、あと和希。お前ら囮になれ」


「⁉ユキ兄、囮って…」

和希が思わず上ずった声を上げた。


「お前がいればヒロの奴も油断するだろ、他のメンバーは隠れて隙を伺うんだ」


「おっしゃ!ばんばん貼り付けてやろーぜ!」

「全滅させられるかもな~!」


「いや先に進んでヒントを探した方がいいって!捕虜取りはある程度、宝の場所の目途がついてからでいいんだし!!」

メンバーが賛成する中、和希だけは頑強に反対する。



「駄目だ」


ユキが皆に命じる。

早鷹組に罠を仕掛けて捕虜を捕ると。


こういう時のユキの命令は絶対だ。

狼の群れがそのリーダーに従うように誰もがユキに従う。

蒼太も北斗もユキに役目を任されたのが嬉しいらしく大いに張り切っている。


和希もユキの命には逆らえず、唇を噛みしめながら指揮に従った。



こうして広央はまんまと策略にひっかかり、ユキ率いる荒鷲組は意気揚々と捕虜を連れて山道を進んでいく。


和希一人だけが時折後ろを振り返り、振り返りしていた。


こうしてユキ率いる荒鷲組および捕虜5人の後ろ姿は次第に遠ざかり、そしてついには見えなくなった。



「ヒロ兄、どうする…?」

サジが自信なさげに聞く。


他の面々も油断した隙にあっという間に捕虜を捕られたダメージが大きい。

意気消沈ムードが組内を覆った。



「つーかヒロ兄、顔!すっげー薄くなってっけど⁉」

「やべ!なんか背景透けてんじゃん⁉」


皆の言う通り、薄れゆく自信とともに存在がどんどん透明化していく広央だったが…

透明度の増していく広央の腕をはっしと掴む者あり。


優だ。

石のように無口で何もしゃべらない子。

その優がじっと広央の目を見つめる。


まぎれもない、広央に対する信頼の眼差しだ。

優は喋らない分、目の力が強い。

その目の中に、己に対する信頼を見て取った広央はやっと思い直した。


『そうだ…落ち込んでる場合じゃない!立て直さないと、俺がリーダーなんだから!!』


「おお!ヒロ兄の身体が!!」

「透明化が止まった!」

「いやまだ髪の毛のあたり半透明だけど!?」



「皆落ち着けい!まだ戦いは始まったばっかりだ!追跡サインを探すぞ!!」

広央の勇ましい号令に鼓舞されて、皆が“おう‼”と雄叫びを上げた時…


「ヒロ兄…俺お腹痛い…」

光輝だった。

そしてそう言ったなりお腹を抱えてその場にしゃがみ込んだ。


「まじか…とほほ…大丈夫か…」


前途多難すぎて、広央はまたもや涙目になるのだった。



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