第9話 夏休みは忙しい。でも①

 夏休み!

 弘樹ひろきくんといっぱい遊ぶぞ! って思っていたのに、弘樹くん、学校の希望補習と塾と部活で忙しいんだって。弘樹くんが補習受けるなら、あたしも補習することにすればよかったー! って言ったら、「彩香あやかは必要ないでしょ?」って言われた。


「……弘樹くんだって、必要ないと思うもん。おんなじだもん」

「同じじゃないでしょ? 僕は一つ一つ真面目にやらないと駄目なんだよ」

「塾も行くのに?」

「そう」

「部活もあるんだよね?」

「そう」

「……毎日遊べると思ったのに」

 と、弘樹くんとしゃべっていたら、

「ねえ、弘樹! 補習、何とったの?」

 って、クラスの女の子たちが会話に入って来た。


 えーと、高橋たかはし圭子けいこさんと松本まつもとあいさんと中村なかむらさやかさん。確か、弘樹くんの中学のときの友だち。って「弘樹」⁉ 呼び捨て⁉ うう。あたしが彼女なのに!


「英語と数学かな。応用をとったよ」

「わたしも! じゃ、いっしょだね!」って高橋さん。……あたしもとればよかった。

「ねえねえ、塾のクラスは何とったの? 塾、いっしょだよね?」とこれは中村さん。

「国公立コースの英語と数学と国語から選んだよ」

 弘樹くんが女の子と仲良く話しているのがつまらなくて、「……あたしも塾、行こうかな」と言ってみたら、「彩香ちゃんは塾行かなくてもいいじゃない」って中村さんに睨まれた。

「そうそう、彩香ちゃん出来るもの」と高橋さん。なんか棘があるんですけど。

「彩香ちゃんは塾行かなくても大丈夫でしょ?」と松本さん。

 弘樹くんといっしょにいたいだけだもん。


「彩香、そろそろ帰ろうか」

 弘樹くんはそう言うと、「じゃ、またね」と高橋さんたちに言って、あたしの手をとって教室を出た。

 正直、ほっとした。

 ああいう感じ、苦手だから。

「彩香、気にすることないよ」

「……うん」

「部活、見に来る?」

「え?」


「夏休み、駅で待ち合わせして、いっしょに学校に行く? 僕の部活がある日。彩香は図書室から部活を見ていればいいんじゃない? 図書室開いているよね? それで、部活終わったら、いっしょに帰ろう」

「うん! ……ありがとう弘樹くん!」

 あたしは弘樹くんの腕にしがみついた。

「あ、彩香、歩きづらいよ」

 弘樹くんは真っ赤になりながら言う。

「あ、うん、ごめんね」


「それから、ずっと休みがないわけじゃないから、どこかにいっしょに行こう」

「うん! あのね、お弁当持って、どこかに行きたいの!」

「遊園地とか?」

「遊園地はだめだめ! あたし、乗り物酔いするから!」

 ……それに、きっと、元カノと行ったこと、あるよね? あたし、弘樹くんが初めて行く場所がいいなあ。どこがいいかなあ。


「あ」

「何?」

「あたし、植物園に行きたい! ……弘樹くん、行ったこと、ある?」

「植物園はないなあ。小さいころ、動物園は行ったこと、あるけど」

「ほんとっ⁉ じゃ、植物園!」

「いいよ。で、お弁当は僕が作るんだよね?」

「うんっ。弘樹くんのお弁当、好き!」

「ありがと」

 弘樹くんの照れた横顔を見る。弘樹くんの照れた顔も好き。

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